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公務員生活も楽じゃない!? ~執筆の魔王は今日も色々振り回されてます~  作者: 宇佐美
一章 僕たち治安維持管理局特務課!
24/42

20頁 丘陵に向けて

 馬車と言えば、一般的な運送手段である。

 物に限らず、人や動物、挙句の果てには魔物まで運ぶ馬車もあるらしい。

 魔導列車(エクスプレス)魔導船艇(ヴェッセル)と言った大型ものもこの数十年で発達してきてはいるが、小回りとコストパフォーマンスは未だ馬車が勝つ。

 速さや輸送量は及ぶべくもないが、領地内の移動であれば馬車で十分だ。


 出発してから最初の四時間は特に問題なく進んだ。

 フェデラル丘陵までの道のりは、舗装されてはいないものの、それなりに馬車の行き来があるため、しっかりと地面が固められている。

 思ったよりも悪路ではなく、エイジングなどはクッションを枕にして二度寝していたぐらいだ。

 だが、幌で直射日光が遮られているものの、やはり中は暑い。風もないためか空気の循環もなく、僕を含めた搭乗者の不快指数は高まるばかりだった。

 昨晩……もう朝方ではあったが、ぎりぎりまで魔法式(コード)の構築をしていたせいで寝不足だ。でも、この暑さでは眠ることも難しい。

 寝ることを諦めた僕は、持ってきた地質学の参考書を読むことにした。


「……ご主人。冷やしたほうがいい?」

「暑い……流石に暑すぎるわっ!」


 暑さで眠れなくなったのか、目を覚ましたエイジングが喚き出した。


「幌に囲まれてるからな。今日は風も吹いてはいないし余計に暑く感じるんだろ。携帯用の冷却魔道具でも用意するべきだったか」

 エイジングは、むくれながらニーソックスに包まれた脚を広げて幌にもたれかかる。

 パンツ見えてるぞ。スカートばっさばっさすんな。

 やり取りが聞こえたのか、御者台に座って馬を操るアミタが振り向かずに口を開いた。


「あともう少しで休憩に入りますので、それまでのご辛抱を」

「この暑さの中、ハイキングせねばならんとは……我は温暖化に物申したい」


 口を尖らせながら愚痴るエイジング。


「……というか、えっちゃんは冷却系の魔法使えなかった?」

「お前が何とか出来ればいいんだけどな」

「出来るものならとっくにやっとるわ」


 確かに。思い返してみると、エイジングとはそれなりに一緒にいるが、冷却系の魔法――水やら氷やらに関する魔法を使っているところを見たことがない。


「生んだり、とうもろこし作ったりするのは得意なんじゃが……火とか水とか、元素っぽいのを操るような魔法はどうも苦手での。相性が悪いのもあるんじゃろうが」


 エイジングは首を横に振りながら答えた。土はいけるらしい。しかし何故にトウモロコシなのか。


 魔法と一口に言っても、その種類は多岐に渡る。系統による得手不得手は、少なからずどんな魔法師にも言えることだ。

 掛け算は得意だが割り算は苦手、というような個人で差があったりするので、魔法によって使えなかったりそもそも知らなかったりすることは珍しくない。

 そういった僕たちの話を聞いていたアミタがすまなさそうに口を開いた。


 この馬車は本来、食料品を運ぶためのものらしく、いつもならば荷物の冷却用魔道具があるとのこと。

 だが、今はたまたま故障しており、現状すぐに借りることが出来た馬車はこれだけだった、という話だ。

 エイジングもウィルも、第一ボタンを開け、手うちわで胸元へ風を送り込もうとするが、元々蒸した陽気である。手慰みにもならなかった。


「クラフト、なんとかせぬか」

「出来るものなら――以下同文」


 エイジングがジト目で睨んでくるが、出来るならとうに何とかしているのはお前と同じだっての。


 昔からではあるのだが、僕は魔法が苦手だ。

 才能がないと散々言われてきたが、それに加え魔法を運用できるほどの魔力も今の僕には無い。

 ぶっちゃけると、魔法を習いたてのそこらの学生よりも弱いかもしれない。


「こんな時のための魔導書は」

「そんな都合のいいもんがあるか。というか、あったとしても出力の調整が出来ないし、馬車ごと吹っ飛ばしてもいいなら何とかするぞ」

「却下じゃの」

「……じゃあ、ちょっと冷やす」

「仕方ないな……ウィル、頼む」


 ウィルは詠唱を始め、少し魔力を解放した。

 途端、魔力によって冷やされた空気が馬車内に広がっていく。


「ふぉぉぉぉぉぉ~極楽じゃなぁ……」


 変な声を出すな。


「……ご主人も魔法教室参加する?」

「いいです。そもそもそういうレベルで解決出来るもんじゃない」


 僕に対してウィルは天才的な魔法の素養を持っていた。

 それ自体は彼女の出自が関係しているのだが、それ以上に覚えて理解する速度が早い。

 初めて見る魔法も分析、解析した上で自分のものにすることも容易に出来た。

 こういうところは彼女が料理が得意なことにも関係しているのかもしれない。

 ただ、ウィルは感覚派であるので、理詰めで物事を教えることに関しては向いていない。


「教えた魔法式(コード)は暗記してるな?」

「……だいじょぶ」

「問題なさそうだの。あとは現地で細かい調整が必要か」


 コクコク、と頷くウィル。

 そうこうしている内に、アミタが荷台を覗き込んだ。僕と目が合う。

 どうやら、休憩場所に近づいてきたようだ。


 フェデラル丘陵までの道のりの途中には休憩場所が存在する。

 湧き水で出来た水場があり、生い茂った草木がちょうど木陰を作り出していて、フェデラル丘陵を行き来する者たちの憩いの場所となっているらしい。

 広場になっている所には食事や消耗品を売る露天も点在しており、まばらではあるが人影が見て取れた。


 馬車を降り、周辺を見渡すエイジング。

 僕も同じように辺りを見回したが、僕たちの他にも同じように休憩している者たちが見える。

 アミタは馬車を少し脇に停め、馬を木に繋いでいた。


「お疲れ様でしたご主人様。少し早いですが、こちらで昼食にしたいと思います」

「……賛成」

「頼む」


 アミタは荷物から麻でできたレジャシートを取り出し、広げた。

 しっかりと、木の陰になる場所を選んで広げたので、日光対策にも抜かりはない。

 水場が近いこともあってか、冷やす前の馬車内と比べて体感温度は雲泥の差だ。


 四人が座っても十分な広さがあるシートの上に、ウィルがテキパキと配膳していく。

 本日の昼食は、肉、卵、野菜と様々な具が挟んであるサンドイッチのようだ。

 外部からの熱を遮断できる構造になっている魔道具には、冷たいアイスティーも入っており、乾いた喉も潤すことが出来る。


「この後は、ここからもう少し進んだ場所で馬車を降り、そこから歩きとなります。夕刻前には到着できると思いますが、本格的な調査は明日からですね」


 配膳しながら、アミタが休憩後の予定を口にする。

 それを聞いたエイジングが、ふと呟く。


「向こうで調査隊と合流するのであったか。さて、面倒なことにならんとよいがの」

「何か心配事でも?」

「……いや、我の思い過ごしじゃ。気にせずとも良い」


 アミタは怪訝な顔を見せたが、エイジングは気にするな、と笑い飛ばしながら話をそこで終わらせた。

 そんな二人を横目に、僕とウィルは無言でサンドイッチを頬張っていた。

 馬車で凝り固まった身体を休めるために横になろうとすると、横に座っていたアミタが待ち構えていたように膝を叩く。


「どうぞ、ご主人様」

「んー」


 遠慮なくその膝に頭を預ける。

 後頭部に広がる柔らかな太ももの感触が心地良い。


「食うてすぐに横になると豚になるんじゃぞ」

「どこの国の格言だよそれ……」


 昨日は少し寝不足だったのもあるのか、アミタの膝枕が睡眠効果を誘うのか、横になってすぐに瞼が落ちてくる。

 意識が虚ろになろうとした瞬間、ふいに近くの集団からこちらに向かってくる者の気配を感じとった。


 頭だけ起こすと、二人の男がこちらへ向かってきているのが見える。

 眼鏡を掛けた男と、髪を後ろで縛っている二人組だ。どちらも何処かで見たようなロゴの入った薄緑のローブを羽織っている。

 僕は身を起こして、男たちを迎える。

 

「あんたら、間違ってたら申し訳ないんだが……丘陵の調査に来た人たちか?」

「だとすれば……何だ?」

「あー……そのかっこ、治安維持管理局の人だよな。若い人が多いって聞いてたけど、子供だなー」


 服装や徽章のおかげで自己紹介しなくてもいいのは利点だが、見た目で判断されてしまうのは難点か。

 片方の男は、アミタとウィルの姿を見て、驚きながら、理解できないといった風な表情を作っている。まぁ、メイド服だからな……。

 確かに、遺跡の調査に赴くというのに、これ以上的外れな装備はないが、貴族が自身の身の回りの世話をさせるために使用人を連れて回ることは無いわけでもない。


「お主らも関係者なのかの?」

「ああ。これでも学院の調査隊なんだぜ。まぁ、俺たちは今から帰るところだけどな」

「久々にまともな所で寝られるぜ……もう寝袋は勘弁してもらいてーとこだなぁ」

「で、何か用か?」


 男たちは一瞬顔を見合わせるも、眼鏡を掛けた男が両手を上げながら答えた。

 それはさながら降参のポーズのようで、そのとおりに完全にお手上げ状態なのだろう。


「あんたらも聞いてるとは思うけど、結界が行く手を阻んでくれてな。それ以上先に進めなくて」

「昨日、学院からお偉さんが来てくれたんだけど、それでも解除のキッカケすら掴めてねーよ。あの人が無理なら、この国に解ける人いないんじゃないの」

「そうだよなぁ」


 うんうん、と頷きながら答えるものの、その声色には特に焦りなど含まれていない。

 自分の手に負えない事はもう、どうでも良いのだろう。諦めムードが漂っている。

 帰るところと言っていたし、後は人任せなのだろうな。


「……学院?」

「王都にある魔法学院だよ。俺たちはそこの調査部なんだけどな。今回は学院の調査部が主導で遺跡調査にあたるっつー話だったんだが、どうもウチだけじゃどーにもならなさそうなんで、ウチのトップが解析部に泣きついたんだよ。そしたら、そこの主任さんが来てくれるようになってさ」

「ちょっと待て。学院の、解析部の、主任、って言ったか?」


 聞き捨てならないフレーズが飛び出してきた。

 どうりででローブのロゴに見覚えがあったわけだ。あれは魔法学院に勤める者が自分の所属がわかるように、身につけているものに刻まれている。


 あぁ、頭痛がしてきた。

 僕はこめかみを押さえつつ険しい顔で、眼鏡の男に詰め寄る。


「その主任というのは、誰のことだ」

「あ、ああ。えーっと名前なんてったっけ確か、う…うえ――」

「う……ウェントワースだったか?」

「そうそう、それだ。めちゃくちゃ美人の。すげースタイルも良かったあのおねーちゃんな」


 うんうん、と男たちは頷く。

 そうだよなちくしょう。

 ちなみに、解析部には主任は一人しかいない。

 僕の記憶が正しければ。


「――帰ろう。速やかにかつ迅速に」


 それだけ聞くと。僕は立ち上がって馬車に乗り込もうとする。

 アミタは苦笑いを浮かべ、ウィルは目を見開き、エイジングにいたっては腹を抱えて笑っていた。


「どうした? なにかおかしいところでも……」

「くっくっく……まぁ、気にせんでも大丈夫じゃ。ちょっとした発作のようなものじゃからの」


 笑いながら背中を叩いてくるエイジング。

 ……知ってたな?


「エイジング! ……知ってたな!?」

「解析部が調査に加わっとる、というのは知ってはおったがな。流石にあの女子(おなご)が来ることまでは予想できんかったわ」

「あの方ですか……」

「……お姉さまがいるの? ワクワク」


 ウィルは目を輝かせながら、アミタへ視線を向ける。嬉しそうだ。そのアミタは呆れたような何とも言えない表情をしている。

 何故かは知らないけどウィルは懐いてるからな……。


「どうやらそのようですね。確かにあの方であればいても不思議では……いえ、何かおかしい気もしますが」

「あぁ……生きる希望をなくした……」

「大げさ過ぎるわ」


 そりゃ君たちにとっては大仰かもしれませんけどね。こっちにとっては厄介なことこの上ないんですよ。


 二人組はそんな僕を怪訝な顔で見つつ、まぁ頑張れよ、とだけ言い残し、自らの馬車置き場へと戻っていった。

 彼女がいると知っていれば、受けなかった――いや、あいつを排除してから向かってたと思う。

 いかんいかん。最近詰めが甘いというか、調べが足りてないな。


「あぁもう……面倒なことになりそうというか、面倒だなー……本当になー……」

「……ご主人が遠い目をしてる」

「会うのは久々じゃの」

「賑やかになりますね。良い意味でも悪い意味でも」


 ふぅ、とため息を吐くアミタ。

 僕もアミタもそうだが、あまり相手のテンションに合わせるのは苦手だ。


「最近、こちらに来られないとは思っておりましたが、お仕事だったようですね」

「静かになったと思った矢先にこれかー……」


 僕は心底嫌そうな顔をしていたのだろう。アミタが気を使って宥めようとしてくれているのはありがたいのだが――元々高くもなかったモチベーションは今、最下層に到達した。

 大人げない話ではあるが、面倒なものは面倒なのだ。


 僕は一旦、シートへと腰を下ろし、ヤケになったように茶を一気に飲み干す。

 エイジングはひとしきり笑った後、まあ良いではないか、と他人事のように言いながら僕の肩を揉んでくる。面白がってるな、これは。


「まぁ、接待はクラフトの仕事じゃのう。励むが良い」

「お前な……」

「くっふっふ。まぁ好かれとる内が花だろうよ」


 魔法学院解析部の主任、渦中の女の名は『エイクリー・ウェントワース』という。

 アルカルム王国における貴族の中でも名家の一つ、ウェントワース家の次女にして、王立魔法学院解析部の主任を務める才女だ。

 こう書くと頭は凄く良さそうに思えるけど……ああうん、頭だけは良いはずだうん。

 けど、普段の行動を見てるとどうにもな……。


 王立魔法学院とはその名の通り、魔法に関する物事を管理、調査する、国が出資している機関の一つだ。

 職員の大半が貴族によって構成されており、全体の約八割は貴族かそれに連なるものである。

 また、学院と称されているが、教育機関だったのは四〇年程前までで、現在はもっぱら研究機関としての側面が強い。

 常に魔導技術の最先端を行っていて、多数の魔法師を抱える。

 中には神域魔法(ディバイン)を使える聖人クラスもいるらしい。


 そんな貴族のお嬢様――皆からはエイクと呼ばれている――とは一年ほど前に、とある事件で知り合った仲だ。

 僕たちのことを気に入ったのか、恩を感じているのだろうかはわからない。

 しょっちゅう庁舎に来てはやたらとアプローチしまくった挙げ句、食堂でウィルの飯を食べてさっさと帰ってしまうということを繰り返していた。

 悪い人物ではないのだが、僕にとってただただ相手にするのが面倒、という人物である。必要以上にくっついてくるのはウィルやエーリカと変わらない。


「ああ、面倒くせー……」

「心中お察し致します。必要とあれば物理的に黙らせることも可能ですが?」

「流石にそこまでしなくてもいいです」


 仕事は仕事である。

 今更ながら、会いたくない人物がいるから行くのが嫌、という幼稚な理由で放棄するわけにもいかない。

 無事に終われば報酬が待っているという自己暗示をかけながら、重い腰を上げた僕は出発する用意を手伝うために馬車へと向かった。


お読みいただき有難う御座います!

宜しければ、ブックマーク、★★★★★評価お願いいたします。

また、ご感想もお待ちしておりますので、ご遠慮なくどうぞ。

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