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公務員生活も楽じゃない!? ~執筆の魔王は今日も色々振り回されてます~  作者: 宇佐美
一章 僕たち治安維持管理局特務課!
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19頁 そりゃ賢くなければ選ばれません

「え? 結界を壊す方法? うーん……フツーに考えたら解除式(デコード)で無効化するんじゃないのぉ?」

「ですよね……()()そうですよねー……」


 翌日。

 僕が資料片手にうんうん唸っている横で、何故か当たり前のようにウチの食堂で昼食を食んでいるエーリカに、アンが事のあらましを愚痴っていた。

 もちろん、任務に関する詳細は明かしてはいないが、これでもエーリカは王国騎士団の第三大隊副隊長である。色々察してそうだ。

 アンもそれをわかっているのか、あえて多くを口にせず、内容も結界云々の部分のみに限定している。


「まぁ、今って魔導技術の進歩が物凄いから、他の方法で解除したりも出来るかもね。エーリカちゃんは思いつかないけどぉ」

「結界を破壊したりとかは?」

「あっはは、何それぇ。結界は破壊するもんじゃなくて無効化するもんだよ? さっきも言ったけど、あくまで解除だし? 障壁(シールド)ぐらいの規模ならイケるけどぉ……そもそも結界って破壊されないようなものを設置するもんだしねぇ」


 エーリカの弁は間違っていない。

 一般的な魔法知識ではエーリカの言った通り、結界というものは無効化するものだ。理論上破壊できなくはないものの、その労力を無効化する術に費やした方が遥かに安上がりなのである。

 まぁ、そもそも簡単に破壊されたり無効化されたりする結界などというものは、二流なのであるが。


「だそうですよ」

「うっさい」


 うっさい。


「ナニナニ? ダーリンまた面白いことするの!?」


 そう言いながら、いつの間にか後ろに回り、座っている僕の首へと腕を回そうとする。

 その瞬間、何処からともなく飛んできた包丁がエーリカの髪を掠め、背後の壁に突き刺さった。

 諦めたエーリカは、顔色一つ変えずに、元の席に戻り昼食を続ける。


「結界を破壊する魔法とか聞いたことなーい。解除式(デコード)は知ってるけどぉ」

「クラフトさんが言うには、単純に破壊するだけらしいんですけどね」

「スピードと確実性を取ればこっちの方が良さそうだからな」

「えっ? 本気なの……? えっと、ダーリン疑ってるわけじゃないけど……流石にそれは無理じゃないかなぁ。どんな結界かは知らないけど破壊するってなると、解除式(デコード)の何倍魔力いるかわからないよ?」


 魔法というものは、人類が神から授かった奇跡の一つである。

 魔力と呼ばれるエネルギーを魔法式(コード)でもって運用し、物理作用を発現させる技術をいう。

 発動させるには魔法式(コード)と呼ばれる、魔法言語で構築された式を演算する必要がある。


 魔法式(コード)が長ければ長いほど複雑かつ大規模な魔法が使用可能であるが、魔法式(コード)の構築と演算は頭の中だけ暗唱するのは極めて困難であるため、一般的には口に出して詠唱し、それをトリガーとしたりする。

 または何らかの所作を用いたり、魔法陣を描いたり、魔法式(コード)が予め刻まれている魔道具を補助として使用したりと方法は様々だが、魔法式(コード)を用いるという部分は変わらない。

 優れた者は、この魔法式(コード)を改良し圧縮、削減することで、より効率の良い方法で魔法を行使する。


 俗に言う詠唱破棄だか無詠唱だかと呼ばれるものは、その手順をゼロに近いところまで縮めることを言う。


「えーっと、神殿に設置するような中規模結界を破壊するならぁ…………半径100として、2乗の4倍に……3プラム掛けてその半分の2乗の倍だから――」

「72億プラムですね」

「あっちゃん計算速ーい」


 『プラム』とは魔力の単位だ。

 本来目に見えない魔力の量を定義するために定められた単位の一つで、簡単に言うと、1プラムは標準的な魔道灯を一秒間点灯させるのに必要な魔力量を指す。

 結界解除に必要な魔力は、その規模に比例する。解除ですらそれなりの魔力が必要になるが、破壊となるとその数十倍、数百倍以上にも及ぶ魔力量が必要だ。


「魔道灯を228年灯火させることが出来るほどの量なんですけど、それほどの魔力を何処から持って来るつもりです?」

「しかも適当に計算した中規模結界でこれだからねー。常識的に考えて無理じゃない?」


 エーリカに常識を語られてしまった。

 解除式(デコード)で運用する必要量よりも遥かに多くの魔力量を必要とするのは確かだ。

 だが、それほどの魔力を出し続ける必要はない。ほんの一瞬、光の瞬き程度でもその量を出力できれば、理論上破壊は可能なのである。


「魔力量は魔法式(コード)である程度まで効率化出来るからな」

「それでも限度があるんじゃない? 確かにながーい魔法式(コード)を構築出来ればその分、魔力の効率化は図れるけど……それを演算できるかどうかは別のお話じゃないかなー。そもそも一つの魔法陣内に展開できる魔法式(コード)って8つが限界って言うし、複合化と多重積層化しても13ぐらいが――」


 エーリカの弁に僕とアンは目を丸くする。

 え、何こいつこんな知的な話も出来るの。


「腐っても副隊長か……」

「王国騎士団ってやっぱりエリートもエリートなんですねぇ」

「二人ともひっどぉーい! エーリカちゃんこれでも魔法学院の推薦貰ったことあるんだからね!」

「えぇ……本当ですかそれ」


 思わぬところでエーリカの優秀さが浮き彫りになったが、今は置いておこう。

 それよりも魔力の効率化だ。

 僕が頭を上げると、いつの間にか傍に立っていたアミタがすかさず、ペンとメモを差し出してきた。


「助かる」


 僕はそれを受け取り、資料を元にして、消費魔力の省エネ化と出力の増幅を試みる魔法式(コード)をまとめる。これをウィルに運用させるわけだ。

 こういった()()行為は、僕の得意とするところである。むしろこういうことしか出来ないともいうが。


「クラフトさんそういうのだけは得意ですよね……自分は殆ど魔法使えないのに」

「あっ、ダーリンそこ……累乗じゃなくて除算してから2倍じゃない? あと、ここはラジアン使って――」


 何故かエーリカの修正を受けつつ、皆が見つめる居心地悪い空気を感じながら魔法式(コード)の構築を進める。

 やり難いなおい。







▽▽▽







 灼熱、とまではいかないが強い日差しが街路を照りつける。

 季節的にはまだ春のはずだが、気候は既に初夏の様相を呈している。

 フェデラル丘陵へ出発する当日、その朝。

 僕らは庁舎の前で馬車を待っていた。

 アンが見送りに出てきてくれている。


「……暑い」


 僕はジャケットを脱ぎ、肩にかける。


「昨日は雨が降りおったからのう。そのせいで今日は快晴ではあるが……と言うかウィルよ。メイド服(そのかっこ)は暑いじゃろうに」

「……メイド服はメイドを象徴するもの。戦闘服でもある。だから簡単には脱げない」


 ウィルは鼻息を荒くして薄い胸を張る。

 まぁ、そりゃメイドが着てるからメイド服なんだろうが、そこまで固執するものなのだろうか。


「その拘りは何なんです?」


 アンが呆れたように言う。

 そういうアンの制服姿も若干暑苦しいが、支給されている制服はかなり良い作りをしており、通気性やら何やらが抜群なのだとか。

 

 それに対抗するわけではないが、以前メイド服に冷却魔法魔法式(コード)を組み込もうと打診したことがある。

 だが、ウィルに断られてしまった。

 よくわからない拘りがあるらしい。


 手配した馬車はアミタが迎えに行っているはずだ。すぐに着くだろう。

 僕は制服のジャケットに白のシャツ、黒のズボン――管理局の制服を着崩した形だ。腰のブックホルダーにはの装丁した紙の束。以前と同じように――使う機会はないと思うが、一応の用心だ。

 変わってエイジングは、レースの付いた薄手のノンスリーブブラウスにプリーツスカートと、ラフ&涼し気な格好で手ぶら。

 黒メイド服と白いエプロンに身を包んでいるウィルは、見た目も確かに若干暑苦しい。


「……ご主人が悪い。メイドはメイド服が基本。ミニスカタイプ。割烹着タイプ。エプロンドレスタイプとか色々あるけど、改造メイド服は邪道とか言ったから」

「んなこと言った覚えは無いぞ」

「む、我はミニスカドレスタイプは良いと思うがの」

「……そう、あれはご主人と初めて会った――」


 ウィルが遠い目をしながら、捏造された思い出を語りだそうとしたその時、二頭の馬に引かれた馬車が近づいてきた。

 御者台にはアミタが腰掛け、馬を操っている。当然、彼女もウィルと同じ格好だ。


「お待たせ致しました。必要なものは既に積んでおりますので、後ろへとお乗り下さい。……ウィル? どうしたのですか?」


 アミタは意識が少し遠い場所へ行っていたウィルを呼び戻しつつ、後ろの荷台へと乗り込むように促す。

 荷台には幌がついており、照りつける日光もある程度遮ることが可能だった。これなら馬車内は快適に過ごせそうだ。


「……アミタ姉は暑くない?」

「ええまあ、私は元々このようなものですし」


 それがどうした、というような顔で返すアミタ。


「……そうだった。ごめん」

「それはいいですから、早く乗りなさい。お弁当は忘れてませんね?」

「……それは大丈夫」


 ウィルは提げていたバスケットを少し上に持ち上げてアピールする。

 エイジングは既に乗り込んでおり、僕とウィルも続いて乗り込んだ。

 中は3人と荷物が乗っていても十分な広さはあるが、板張りのためそのまま座っていると舗装されていない道では尻が痛くなる可能性がありそうだ。

 アミタはそれを見越してか、予め下に敷くクッションを人数分用意してくれていた。


「それでは出発致しますが、よろしいですか?」

「ああ、出してくれ」

「お気をつけてー!」


 僕の返事を得たアミタは、手綱を握りしめ、馬車を出発させた。

 手を振りながら見送るアンを尻目に、僕たちはフェデラル丘陵へと出発する。

お読みいただき有難う御座います!

宜しければ、ブックマーク、★★★★★評価お願いいたします。

また、ご感想もお待ちしておりますので、ご遠慮なくどうぞ。

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