18頁 コレクション
「――と、いうことが御座いまして」
「それは難儀じゃったのう。……主に相手がご愁傷様という意味で」
「流石は銀閃ですね」
「昔の話です……」
僕たちは夕食を終え、食後の一杯を楽しみつつ、談笑していた。
襲撃がありました、と切り出したアミタが出くわした暴漢についてのいきさつを語る。
裏通りで刺客――と呼べるかはさておき、そんな彼らを難なく返り討ちにしたという。以前に探索者組合で騒ぎを起こした集いし英雄とかいうクランのあの二人だ。まぁ、アミタの戦闘力は僕よりも遥かに高いので、その辺りは心配していないが……まさか殺してはないよな?
過剰防衛って懲役何年だったか。
このメイドは、止める人間が傍にいないとたまにやり過ぎる癖がある。それも全て彼女の師匠が「やるなら徹底的に殺れ」という教えを植え付けたのが悪いのだが……抗議しに行くべきかもしれない。
僕と再会した直後はそれこそ非道なほどに徹底されていたので、最近はまだマシになったと言うべきではあるのだが。
ちなみに夕食は、アミタ曰く並以下の素材とのこと。それでもウィルが素材の良さを十二分に引き出したおかげで、いつもの食事と遜色はなかったことだけ付け加えておく。
「隣町のギルドにしてはやり方が直接的すぎる気もするな……」
「もう形振り構ってられないって感じですねぇ。取り敢えずギルドを通して抗議してみますが……」
まぁ、効果は薄いだろう。
向こうにしても、メンバーが勝手に暴走したってことで、軽い処分を下して終わりにするだろうし。
「……どうしてウィルたちの邪魔するの?」
ウィルは可愛らしく首を傾ける。
その問いにアンが答えた。
「元々、プロヴィデンスとブリストルのギルドは昔から仲が悪い、というかお互いを見下してた感がありましたからね。ギルド内での一件と、リチャードさんへの恨み辛みがあったからじゃないでしょうか」
「僕らがリチャードから仕事を受けたとか勘違いしてるのか」
完全に巻き込まれた形である。そりゃあ、ギルドでの一件はこちらが関わってしまったものではあるのだけれども。
だがまぁ、相手もアミタの力の一端は見ただろうし、直接的な暴力に訴えてくることはもう無いとは思う。
そもそも、どのような邪魔が入ろうとも、戦力的に考えてまともに僕たち一同を止められるものがいるとすれば、それこそ栄光を掴むものぐらいしかいないんじゃなかろうか。
僕とアンを除く三人とプラス一名は意外と戦闘力が高い。
アンが指を立てて続ける。
「探索者と役所とは仲が悪いことで有名ではありますが、それも合わさってブリストルのギルドの方は私たちとこちらの支部を目の敵にしているのかもしれません」
「僕ら完全にとばっちりだな?」
「念のためじゃがの、クラフトとアンは一人で出歩かんほうが良い。また同じことがないとも限らんからのう」
暗に僕とアンの戦闘力が同じと揶揄されている気もするがそこはスルー。反論できない事実ではある。
「気に病むほどじゃないだろうが、用心だけはしておくか。取り敢えず今のところさしたる問題もないし、遺跡の件は予定通り三日後出発な」
「あ、私はお留守番ですね片付けないといけない書類がそれなりにあるので。それなりに、あるので」
何故二回言った。
「アッハイ……」
半目のアンから目をそらす。
「フェデラル丘陵までは馬車で6時間ほどかかるようです。そこから更に丘陵を登って30分の地点が、調査隊との合流地点ですね。当日に使える馬車を手配しておきましょうか」
資料と地図を見比べながら、アンが言い放つ。
「……お弁当作る」
「思った以上に遠いの。魔導自走車でもあれば楽なんじゃがのう」
愚痴るエイジングに、そんなものはありません、とアンが反論する。
馬車で6時間であれば十分に近い距離だが、この女はそれすら耐えられないらしい。
買えるぐらいの予算があれば良いんですけどねぇ、と皮肉っぽくアンが続ける。
魔導自走車とは、魔力を動力源に動く乗り物だ。10年ほど前から徐々に広まっているという。
馬の代わりに、搭載されている魔導機関を動力に動き、また操作を担当する者が魔力を供給するだけで動くため、総合的なコストパフォーマンスは馬車に比べて良いらしい。
だが、未だに一般的でないのは、魔導自走車自体の値段がべらぼうに高いのと、操作ができる人間の絶対数が少ないからだ。庶民がおいそれと手を出せるものではない。
もしウチに導入するとなっても、誰も運転できないので、素直に馬車に頼った方が早い。いや、器用なアミタは操作できそうな気もするが。
でも確かに、不本意ではあるが、一台あれば仕事も捗りそうな気もする。というかむしろ乗ってみたい。
「フェデラル丘陵……今までよく発見されんかったのう」
「ちょっと前に立ち入りが禁止されてましたけど、そういうことだったんでしょうね」
フェデラル丘陵は、ロードアイランド領の首都ダウンシティの西にある小高い丘だ。
『智慧派』とかいう宗教組織の教会が存在する以外は、何の変哲もないただの円丘であり、天気が良ければハイキングに訪れる者もいる。
今回見つかった遺跡の入り口は、その丘陵の中腹部にあるという。
そんな場所で遺跡が発見されたとなれば、確かに大きなニュースではあるが、今まで何故発見されなかったのかは疑問だ。
意図的な情報隠蔽のニオイがするが、その目的は定かではない。
そこからしてキナ臭さが漂うが、顔を突っ込んでしまった以上、もう皿まで食らわなければならないだろう。
「して、クラフトよ。本当に言うておった方法で積層立体七重封印を破るのか」
「それが一番楽、かつ確実だからな」
「確かにお主は楽じゃろうが」
「……ウィルは大丈夫。問題無し」
「クラフトさん本当に大丈夫なんですかそれ……いくらウィルちゃんと言えど……」
ぐっと拳を握り、鼻息荒くやる気満々のウィルを困り顔で見つめるアン。
探索者組合でリチャードと話をしたその日に、僕は事のあらましを皆に話した。
確かに突拍子もない方法ではあるが、あのダレスでさえ、「ま、確かにそれが一番簡単だろーなー」と言っているのである。
「……あっちゃん、大丈夫。ウィルはぱわーあるから」
「パワーって……ウィルちゃんが魔法得意なのは知ってますけどね」
我々のメンツで、一番魔法が得意、かつ魔力量が多いのが何を隠そうこのウィルである。
次点でダレスだったりするのだが。
「最悪失敗したその時は、素直に解除式の構築に精を出すだけだ。年単位で時間がかかるだろうが」
「それ駄目じゃないですかやだー!! もし失敗すると……」
「辺境伯からの風当たりは強くなりそうじゃの」
必死の形相で喚きたてるアンに、すました顔で返すエイジング。
こう言ったものの、失敗するとは微塵にも思っていない。
「なんにせよやるしかなかろう。どのような手を使ってでも完遂させてしまえば問題はあるまいよ」
「うう……これで私たちの評価がまた落ちてしまうと思うと……いえ、もう落ちる評価があるかも疑わしいですが」
「失敗前提で話を進めるな」
「どう転ぶかは神のみぞ……いや、神ですらわからんかのう」
▽▽▽
次の日、僕は朝から一日かけて、自分の蒐集物の整理をしていた。エイジングとアミタも巻き込んでの大掛かりなものだ。
対積層立体七重封印の魔法式構築のための資料探し……をするためだったのだが、予想以上に散らかっているのを見咎めたエイジングが、言い出したのだ。
寝室の本棚にもいくらかの蔵書があるが、メインはこの拠点、その地下に造った書庫に保管してある。
建物には収まり切れない僕の蒐集物は、全てこの地下書庫に置いてある。長年をかけて集めた書物の数は数百ではきかない。
ただの書籍も多数あるが、古代の魔導書や古神魔導書と言った危険なものまで存在する。
扱いきれないということもあり、基本的にここから持ち出す魔導書の類は一回につき一冊と決めていた。そもそも貴重なものではあるし、持ち出して何かあれば目も当てられないしな。
ウィルが刻んだ魔法式により、温度と湿度の管理は完璧、かつ僕の許可した者のみが出入りできるという、安心安全のセキュリティ。
ぶっちゃけここで一生を過ごせる自信があったが、それをやるとアンはおろかアミタにも叱られてしまうので、書庫に籠るのは控えている。
「しっかし、よくもまぁ、これだけの数を集めたもんじゃの」
「アミタに手伝って貰ったもんが多いけどな。なりふり構わなかったらこんなもんだろ。これでもあそこよりまだまだ少ないし」
「いや、あの図書館と比べてはならんじゃろ」
購入した本や手に入れたものを、片っ端から近くのテーブルに平積みにしてしまうのが僕の悪い癖だ。
それ故に、時々こうやって整理していかないと、溜まっていく一方なのである。
これが中々治らないんだよな。
「まったく……日頃から常に整理しておればこのような事にならずに済むものを……。アミタも何とか言ってやれい」
「掃除と整理整頓は私の仕事ですので。ご主人様がお時間を取れないのであれば、私が行いますが……」
「おぬし、ほんにこやつにだけは甘いのう……」
女性陣の会話が刺さる。
ここで口をはさんでも良いことがなさそうなので、僕は黙って平積みの本の目録を作っていた。
「む……クラフト。ゴミが混ざっておるぞ」
「いや、そんなわけ……」
そう言ってエイジングが見せてきたのは、折り畳まれた1枚の紙片。
広げると、ずいぶん古びていて、少し日に焼けている40センチ四方のものだ。
これはゴミじゃないぞ。
「ゴミじゃねーよこれは」
エイジングから受け取った紙片を畳みなおし、着ていたジャケットの内ポケットへと無造作に突っ込む。
「む……『ラジエル書』、『金枝篇』に『悪魔の偽王国』まであるではないか……いつの間に集めたんじゃコレ。節操なさすぎやせんか」
「その辺りは全部写本だけどな、確か。えー……ここら辺に置いたはずなんだが」
「ご主人様、これでしょうか?」
アミタが差し出した一冊の古書。
「ああ、これだこれ」
「賢者の極み……この前買っておったやつか。ふむ。45000の価値はあるんじゃろうな? それ」
「別に、このために買ったってわけじゃないけどな。効率化と圧縮率の改善に関する総説が載ってたはずだ」
ページをパラパラとめくる。
思っていた記述が散見されたので、一安心というところだ。買った甲斐がある。金出したのはアミタだけども。
「それは写本か?」
「いや、訳本だな。原本は何だかとかいう古い言語で書かれたやつらしい。そっちは流石に僕でも読めないとは思う」
「なるほどの……」
取り敢えずこれでいいか。他に役立ちそうなものはないし。
こういった参考書や解説書はあまり集めてはいないのが裏目に出てしまったな。
よし、これからはこっちの方面のものも集めるとしよう。やはり好き嫌いはよくない。
「――ぁーん! クラフトさーん! 夕食の準備が出来たそうですよー」
出入口の階段から、アンの声が聞こえた。どうやらもうそんな時間らしい。
「いい時間だな。戻るか」
「うむ……むぅ、埃で汚れてしもうたのう。夕餉の前に湯あみでもしてくるか」
風呂に入るエイジングと別れ、僕とアミタは食堂へと向かった。
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