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公務員生活も楽じゃない!? ~執筆の魔王は今日も色々振り回されてます~  作者: 宇佐美
一章 僕たち治安維持管理局特務課!
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「──っは」


 意識が覚醒した僕の目に入ってきたのは、豪奢に飾り付けられたパーティ会場。

 天井にはシャンデリア、床には柔らかな紅のカーペット。

 上等なクロスの掛けられたテーブルの上に乗っているのは、一流の料理人が腕によりを掛けた古今東西の料理と、一杯で月収が吹き飛びそうな高価な年代物のワインだ。


「ご主人様?」

「ああ……すまん。意識が一瞬飛んでた」


 僕は軽く頭を振り、思考をクリアにする。

 久しぶりに飲んだ酒に酔ってしまったのかもしれない。


「大丈夫だ」

「はい」


 僕の横に立つのは、栗色の髪に栗色の瞳、メイド服に身を包んだ少女──アミタだ。

 背は僕よりも15センチ程高い。もし僕と彼女が私服であれば、姉弟にも間違われかね……いや、間違われたことはあったな、うん。


「ご無理をなさらぬよう……」

「いや、別に無理はしてるつもりはないぞ。確かに不本意ではあるが」


 僕とアミタは会場の端で、壁に背を預けてじっと他の参加者を観察していた。

 談笑しているパーティドレスに身を包んだ貴婦人や、立派な礼服を着こなし料理に舌鼓を打つ恰幅の良い老人。勲章を幾つもつけた軍服を着ている男もいる。いずれも上流階級の人間たちだ。

 老若男女、国内外問わず様々な人物が一堂に介しているが、彼らに共通するのは、皆が顔の上半分のみを隠す仮面を身につけているということである。もちろん、僕とアミタも着けている。

 自らの素性を隠し、参加するこのパーティがただのパーティであるはずはない。あの軍服の男は何者か予想は付くが。


 クラシックが流され、和やかな雰囲気に包まれている会場。

 今日、僕はただの参加者としてではなく、()()としてここに来ている。アミタも同様だ。


「ご主人様」

「ああ、出てきたな」


 部屋の扉が開かれ、布をかぶせられた何かが、台車で運ばれてくる。大きさは四〇センチほどだろうか。

 使用人の男たちがそれを慎重に持ち上げると、会場前方の舞台の上へと登っていく。

 舞台には既に台が整えられており、使用人たちは緊張した面持ちでその何かを静かに置いた。


 急に、会場の照明が消える。小さく無い騒めきが会場を満たす。

 アミタが身構えるが、これはただの演出だろう。

 予想通り、数秒して、前方の舞台へとスポットライトが当てられる。

 皆の視線がが舞台へと集中した。

 司会役と思われる、タキシードに身を包んだ男──もちろん仮面を着けている──が、拡声魔道具(マイク)を持って口を開いた。


「皆様。今宵はお忙しい中、我がクランストンオークションにお越し頂きまして、誠に有難う御座います。ワタクシ、司会を担当致しますナポリタノと申します。宜しく御願い致します」


 ナポリタノは恭しくお辞儀をすると、会場は拍手で埋め尽くされる。

 暫くして、ナポリタノは顔を上げ、続けて喋り始めた。


「クランストンオークションは、伝統あるオークションで御座います。会員制となっており、紹介がないと参加出来ないどころか、その存在すら知ることができない。会員の皆様には契約魔法により一切の情報漏洩を禁じさせて頂いております。故に秘匿性は十分に保たれており、取り扱い品物も──目の肥えた方々でも十分にお楽しみ頂けると自負しております」


 そう、ここはオークション会場だ。

 上流階級でも、その存在を知るものは一握りしかおらず、それ故に出品されるものも高価、の一言で片付けられないものばかりである。


「ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、当オークションは基本的に一度に一品のみの出品となります! ですが、それを補って余りある程の銘品珍品を出させて頂いております!」


 歓声があがる。

 合法非合法問わない。闇のオークション。

 好事家どもが法に触れると分かっていてこのオークションに参加するのは、その秘匿性と出品されるものの絶対的な価値にある。

 どこから仕入れてくるのかこちらとしては嫌になるが、どれも計り知れない価値があるものであり、だからこそ僕たちがこうやってここにいるわけだが。


「さて、ワタクシの戯言はこの辺りにしておきましょう」


 後ろの方で笑いが漏れる。


「耳早いお方もおられると思いますが……今宵の品はこちら──」


 控えていた使用人が、ナポリタノの声に合わせ、被されていた布を取り払った。

 そこらかしこで溜息にも似た声が上がる。


「アドムファ庭園より発掘されました、暗黒の魔像で御座います!」


 何の素材でできているかわからないような黒々とした、見るものを地獄に落としそうな像だ。

 見た目はトゲの付いた棍棒を持つ甲冑の騎士にも見える。


「おぉ……」

「何と、美しくも艶やかな……」

「見給えあの神々しさを。あれこそ私に相応しい」


 僕とアミタ以外の人間が全て、その魔像に魅了されたかのように、恍惚の表情を浮かべる。食い入るように見つめ、視線を離さない。


「出たな……間違いないか」

「はい、本物でしょう」

「……あれ、言うほど美し――ってかそんな良いものに見えるか?」

「禍々しくはあると思いますが、だからこそ目を奪われる者もいるのかと」


 僕の美的感覚は常識の範囲内だと思うが、アレを見て惹かれるものはない。

 それが()()と僕との違いなのかもしれない。

 もとより、神遺物(アーティファクト)に魅入られる者は少なくないので、そのせいもあるかもしれないが。


 僕たちの目的はあの禍々しい像だ。神遺物(アーティファクト)であるアレの回収が今回の仕事である。

 特務課に情報が回ってきたのが1ヶ月程前、そこから内定捜査を続けて、ようやっと尻尾を掴んだのだ。


「さて、この冒涜的な魔神像! 何と、神遺物(アーティファクト)で御座います! 詳細は判明しておりませんが、この像のモデルとなった魔神を呼び出すことができるとの伝説が残っております! なお、この像を落札された後に生ずるいかなる問題に関しましても、当オークションは一切の責任を負わない事とさせて頂きます──では、100万リルからスタート致します!」


 物好きたちが、次々と手を上げ、入札していく。

 地位も名誉も金も手に入れた者が次に行き着く先は、永遠の命か希少な物品の収集だろう。この二つは兼ねることもあるが。

 そういう意味では、神遺物(アーティファクト)は希少価値が高いものと言える。

 それもそのはず、神遺物(アーティファクト)は一部を除き、許可を得ていない個人が持つことは禁止されている。


「110!」

「120!」

「……125!」


 よくもまぁ、ポンポンと大金と突っ込めるもんである。

 流石は金と時間は有り余っている連中だ。


 ……さて、僕の仕事はこの神遺物(アーティファクト)の回収であるからして、他の誰かに落札されるわけにはいかない。

 いや、されたところで、そいつから回収するだけの話なんだが、それも面倒な話だ。関わる人数はなるべく少ない方がいい。

 というわけで――


「150!」


 僕は手を上げて、高らかに叫んだ。

 どよめきが辺りを漂い、僕に視線が集中する。


「ひ、150が出ました! さて他に御座いませんか!? 150万、150万です!」


 興奮しながら、会場を見渡すナポリタノ。

 これはもう決まったか、と思った矢先──


「160」


 後ろの方にいた、黒いローブ姿の人物。

 声からして男だとは思うが、仮面で顔が隠されているために、年齢は分かり辛い。声からすると結構若いようにも思えるが。


「160万が出まし──」

「170」


 僕は間髪入れずに、プラス10万被せた。

 ちなみに、70万リルあれば、王都に土地を含めた一軒家を買うことが可能だ。


 周りからは、「おい、あんな子供が……」とか「どこの貴族だ……?」などと好き放題言われているが、無視する。

 黒ローブの男は、少しの間思慮していたが、思い切ったように手を上げて言った。


「175」

「190」


 それに対抗するように僕は更に金額を釣り上げていく。


「……ちなみにアミタ、もし出すとしたら幾らまで出せる?」

「私の個人資産という意味でしたら……そうですね、換金にお時間を頂けるのであれば、20億リルまででしたら問題ないかと」


 文字通り桁が二つ三つほど違う額に驚きそうになったが、そこは主人としてのプライドが勝った。


「そうか。じゃあ最悪どうとでもなるな」


 アミタのカミングアウトに、努めて冷静に返す。

 どう転んでも勝確である。持つべきものは優秀なメイドだ。

 とはいうものの、僕は実際に払う気はない。目的は購入ではなく回収なのだから。

 ふふふ、故にこちらは青天井。最初から向こうに勝ち目などないのだ。

 向こうがいきなり10億とか言い出しても、こっちはそれに被せるだけである。


 黒ローブは流石に戸惑っている。

 そしてそれは、僕への非難へと変わっていった。


「小僧ッ! 貴様本当にそのような額払えるんだろうな!?」

「払えるから入札してるんだろ。見苦しいぞおっさん」


 残念ながらお前には勝ち目が無いぞおっさん。

 エイジングがこの場にいたら、「お主がどの口で言うんじゃ」とか言われるに違いない。


「──ッ! っぐぐぐ……」

「190万です! 他に御座いませんかーっ!」


 ナポリタノが会場を見渡すが、誰も手を挙げるはずもなく、沈黙が支配する。

 黒ローブは下唇を噛みしめながら、踵を返し会場を後にした。この時点で僕の落札が決定した。


「おめでとう御座います! こちらのお方が190万で見事落札されました! 皆様、こちらの英雄に惜しみ無い拍手を御願い致します!」


 ナポリタノが突き出した手の先、僕に向かって拍手の嵐が巻き起こる。

 払う気がないのに、ここまで祝ってもらうと何だか罪悪感が込み上げてこないこともない。しかも英雄扱いされた。

 だが相手は、禁止されている神遺物(アーティファクト)の個人間取引を行うような輩である。慈悲はない。


「オークションはこれにて終了となります! 次回の開催は未定となっておりますが、今後ともご贔屓のほど宜しく御願い致します! では、この後もごゆるりとパーティをお楽しみ下さい」


 鳴り止まない拍手を背中に受けながら、僕はナポリタノに案内され、別室へと通されたのだった。


お読みいただき有難う御座います!

宜しければ、ブックマーク、★★★★★評価お願いいたします。

また、ご感想もお待ちしておりますので、ご遠慮なくどうぞ。


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