13頁 再び対峙、怖い顔
次の日、僕は再びアミタを伴って、この魔窟へと赴いていた。
石造りの三階建て。探索者組合である。
あのあと、アンがアポを取ると、当日中には無理とのことで、翌日に回してもらったのだ。
何だかんだでギルドマスターというのは忙しいのだろう。
「……行くか」
「はい」
アミタを携え、門戸をくぐる。
相変わらず、中は喧騒と熱気で満ち溢れていた。まぁ、それほどの勢いがないと探索者なんかやってられないのかもしれない。
「いつ来ても暑苦しいところだな……」
「都市部に建てられたギルドにはどうしても人が集まりますから……地方へ行くとそうでもないのでしょうが」
「人が集まると姦しくなるってことだな」
ギルドはその利便性を担保すべく、一定規模の都市や街に設置されている。
余程のド田舎でもない限りは、割とどこにでもあったりするが、やはり大都市と比べると規模が小さい。
「ここは大陸でも探索者の中心地と言っても過言ではありません。人が集まってしまうのも仕方のないことかと」
流石は王都に座するギルドである。
……あれ、ということはリチャードって結構な偉いさんなのでは。
「ギルドマスターともなれば、そうですね。この国で言えば、少なくとも伯爵ぐらいの発言力はあるのではないでしょうか。そもそも国の枠組みを超えた世界統合連盟に属してますので、単純な比較はできませんが……」
「めっちゃ偉そうに話してるよな僕たち」
「ご主人様なのですから問題はないでしょう。もし何か御座いましたら、如何様にでも致しますので」
「取り敢えず、禍根と証拠の残らない方法で頼む」
僕たち治安維持管理局と、ギルドの関係は難しい。
どちらが上とか下とかでは表せられないのだが、完全に対等という訳でもない。
などと、どうでもいいことを話しながら、カーペットの敷かれた廊下を進むと、ギルドマスターの執務室が見えてきた。
ノックをして返事を待ってから中に入る。
「何の用だ」
「開口一番それかよ」
相変わらず人を殺してそうな風貌のリチャードだ。
いつも機嫌が悪そうなのは僕のせいだけではあるまい。
「ちょっと聞きたいことがある」
「……フェデラル遺跡の件か」
「流石はギルドマスターだ。話が早い」
「ぬかせ。……掛けろ」
珍しくリチャードが素直に着座を勧めてくる。
僕は遠慮なしに、高そうなソファーへと腰を下ろした。アミタは座らず、僕の後ろに立っている。
「どこまで知ってる」
「栄光を掴むものが攻略に失敗したところぐらいだな。遺跡の詳細と進捗状況が欲しい」
「チッ……そこまでか。ウチとしちゃあ、トップクランの失態は隠しておきたいところだったんだがな」
リチャードはそう言うが、人の口に戸は立てられまい。
遅かれ早かれ噂というものは流れ出るものだ。
「そのせいで僕らが尻拭いする羽目になったんですがねぇ?」
「ぐっ……」
リチャードは何か言いたそうにしているが、今回の件に関しては僕らが有利だ。
「ギルドが手に負えきれない案件は、各国の責任にて処理すべし、だったか。理事会も面倒なルールを作ってくれたもんだよな」
世界法にて定められた決まり事の一つに、未踏破遺跡の管理に関する条文がある。
基本、遺跡の調査権は発見した者が所属する組織に帰属する。探索者なら探索者組合、騎士団なら国、というように。
だが、早急な攻略が求められている昨今、主だった成果を挙げられていない場合、その調査権は譲渡されることがある。
今回の場合、探索者による遺跡攻略が殆ど進んでいないがために、権限がこちらに移って来たというわけだ。
「チッ……で、何が聞きたい」
「調査の進捗状況と、現在わかっている範囲での遺跡の内状」
リチャードは僕をねめつけるが、諦めたように引き出しから綴じられた紙束を取り出した。
乱暴に投げてよこすそれを、慌てて受け取る。
内容を見る限り、僕がデクスターから受け取った資料とあまり大差はない報告書だった。
「ふーん……」
「お前が動いてるってことは、管理局は調査課を動かしてんだろ」
「管理局は僕ら以外ノータッチだ。まさか僕がやる羽目になるとは思わなかったけどな……」
「ぬかせ」
パラパラと報告書を流し読みしていると、気になる記述を見つけた。
“該当遺跡内部に繋がる出入り口扉には、結界と思われる何らかの魔法的要素による守護が施されており――”
「……結界?」
「そうだ。遺跡の入り口に結界らしきものが張られててな。そこから先に進めん」
リチャードは観念したかのように息を吐きながら言った。
「栄光を掴むものに結界解除できるような魔法師の一人や二人いるだろ?」
国内最大規模の支部に所属しているトップクランである。
もちろんその実力は他の並なクランの追随を許すはずもない。その中には優秀な魔法師もいるはずだ。
遺跡に結界が張られているというのは特に珍しいものでも何でもない。
内部を保護するために建立した誰かが設置したり、魔力濃度の影響で自然発生したりもする。
結界云々に関わらず、遺跡の探索には魔法師が必須だ。汎用性に富む優秀な魔法師はいるといないとでは、探索難易度が桁違いとなる。
特に未踏破の遺跡となれば尚更だ。
「ああ。あいつらは宮廷魔法師にも引けをとらん。だが、それでも解除できなかった」
「解除できない? そんなことってあるのか……? いや――」
宮廷魔法師と言えば、エリートの中のエリート連中である。
実力主義なこの国で、王宮に採り上げられるほどの腕を持つということは、この国トップに座する、という意味と同義である。
栄光を掴むものにそんな腕を持つ魔法師がいるというのは驚くほどでもないが、そんな彼らが歯が立たない結界とすると、もう一つしかない。
歴史上、誰も解除したことの無い、難攻不落の不可侵結界――
“なお、一部の解析結果と如何なる解除式をも受け付けないことから積層立体七重封印と推測できる――”
「この調査結果だけでは何とも言えないがこれは」
「『積層立体七重封印』だ。あいつらの見立てでもそう結果が出ている」
「マジかよ……何でここでこれが出てくるんだ」
「歴史上解除出来た例はないからな。いくらウチのトップクランと言えども、おいそれとはいかん」
アミタが「珍しいものが出てきましたね」と呟く。
神域魔法に匹敵する、下手をすると凌駕するとも称される積層立体七重封印。
こいつは強固な魔法結界で、その名の通り七層の結界が対象を中心にして、球状に展開されている。
外側からの七層、『イノセント・ファントム・ブライト・シークレット・マッシヴ・デスティニーズ・エターナル』と名付けられている層を順に解除するしか無力化する方法がないらしく、その解除には綿密な魔力操作と大量の魔力が求められる。
「積層立体七重封印はいいとして、何でこいつが未発見遺跡に設置されてんだ」
「知るか。俺が聞きたいわ」
結界は偶発的に発生することはある。
魔力の流れや淀み、地形や建物の形状という条件が揃うと、結界となり他者を拒絶する力場を形作る。
だが、この積層立体七重封印はごく最近、少なくとも遺跡が建立されたよりも後に開発されたものだ。
人工の結界、これが設置された目的は一つしかない。何やってんのあいつ。
「十中八九、調査妨害のために張られたものだろうな」
「あいつがそんなことするとは思えな……」
「あいつ?」
「あー、何でもない」
積層立体七重封印を開発したのは、とある僕の知り合いである。
と言うか、現存する結界魔法の約八割は彼が開発したものだ。
あのバカは昔から享楽的かつ無駄に結界を開発し、無作為に様々な場所へ設置する。そしてそれを他人に解かせ、四苦八苦する過程を見て楽しむというクソ外道な趣味を持っている。
曰く、「原因や結果よりも、その過程を楽しむことこそが本懐なのよねー」とのことではあるが、仕掛けられた方はたまったもんではない。
まぁ、実害らしい実害があるわけでもなく、――いや、害はあるわけだが人死には無いためか――むしろ魔導技術の発展のためあえて放置されているのだとか。どういうことなの。
ちなみに現状、積層立体七重封印を設置できるのもソイツしかいない。
神々の操る魔法とされる神域魔法に匹敵する、と言われているのは、その結界を無力化することのできる解除式が判明していないということに加え、その解除に膨大な魔力を必要とするからである。
魔法式を構築して放つ魔法には、理論上その全てに魔法式を打ち消すための個々の解除式というものが存在する。
解除式は魔法式の真逆の性質を持っており、これがお互いを打ち消しあうことで行使されている魔法を解除、無力化することが可能だ。
そういう意味では解除式は魔法を解除するための魔法式とも言いなおせる。
積層立体七重封印も魔法には違いなく、解除式があれば無力化は可能である。
だがここで問題が浮上する。
積層立体七重封印の魔法式は複雑かつ膨大な量で構築されており、解除式もそれに比例して複雑になる。
そして解除式と言えども魔力を消費することには変わりない。積層立体七重封印一つの層の解除に必要な魔力は、王都に備え付けられている一つの魔道灯が十年に消費する魔力量の三倍にもなはずで、これは宮廷魔法師が一年かけて運用できる魔力量とほぼ変わらない。
設置するのは簡単でも、解除には莫大なコストがかかるのがこの結界の嫌らしいところである。
「……で? お前なら解除出来るってのか」
「いや、流石に僕だけじゃ無理だ」
僕の応えに、リチャードのその極悪な顔は更に厳しいものになった。
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