12頁 特務拝命悲喜交交
「今回はギルドが匙を投げた案件でね。まぁ、辺境伯の圧力もあったんだろうけど……まぁそういう訳で現場の調査を特務課に頼みたい」
探索者組合が遺跡に関して、その調査や攻略を諦める、または他に譲渡するというのは極々稀である。
彼らは神遺物の回収を最優先で行っているからである。
「ギルドが諦めるって珍しいですね。出るのは私たちだけなんです?」
「管理局としては特務課だけだね。というか、それも辺境伯のリクエストなんだよ。理由は知らないけど」
辺境伯とはいえ、国の機関へそう簡単に干渉できる立場にはないはずだ。
まぁ、何処かで何らかの忖度があったかもしくは何らかの圧力があったのか分からないが。
「調査課は?」
「今回はパス。で、何故か学院から調査隊が出てる。どこから嗅ぎ付けたかは知らないけど、これはもう先行して出発しちゃってるね」
「……ギルドからは?」
「探索者が何人か。えーっと、確か栄光を掴むものだったかな。彼らが最初に挑んだらしいんだけどね」
「栄光を掴むものですか? それはまた有名どころのクランが出てきてるんですね」
「うーん……でもそんな彼らでも難儀してるらしいんだよね。未だ中に入れないってんだからねぇ」
デクスターが笑う。
栄光を掴むもの。彼らはプロヴィデンス支部に所属するトップクランだ。
序列の高い探索者ばかりで構成されており、個人で神遺物の所有も認められているとかなんとか。
今まで幾度も未踏破遺跡の攻略を成功させており、その名に負けない活躍をしているクランである。
何せ探索者たちに興味のない僕ですら、その名前と活躍を知っているぐらいである。
ちなみに本来、国の領地内で発見された遺跡の学術的な調査に関しては国の責任となるが、発掘される神遺物に関してはギルド預かりとなる。
神遺物の発掘、解析は人類の発展となるため、一国で独占して良いものでは無い――というのがギルド、はては遺跡探索者理事会の言い分ではあるが、面倒くさい利権関係が絡むこともあってか、しばしば大きな問題になることがある。
デクスターは一度話を区切り、チャールズに淹れさせていた茶を口にした。
「はー……んでさ」
淹れられた紅茶の香りと味を十分に味わいながら、デクスターは続ける。
「その遺跡だけど、初めに栄光を掴むものが攻略に当たったのは当たったらしい。でも何だかんだで内部へ進めずにいてね。ギルドが痺れを切らしたのか、当人たちが泣きついたのかは分からないけど、こっちにお鉢が回ってきたという訳だよ」
「栄光を掴むものといえば、国どころか世界でも上位のクランですよ? そんな人たちが攻略できないってどれだけの難易度なんですか」
「さてねぇ。どうも結界が邪魔してるとか何とか言われてるけど、詳しい内容まではまだ上がってきてないんだよね……オジサン嫌になっちゃうよ。それに何故か辺境伯からはせっつかれてるし……遺跡調査なんて本来であれば年単位の仕事なのにねぇ」
確かに遺跡の探索権、調査権はギルド側の方が強い。
色々な取り決めがあるが、主に遺跡から発掘される神遺物の隠匿を防ぐためだとされる。
「時間制限があるのか。無茶苦茶だな。……と言うかなんで僕たちなんだ。一課にでもやらせればいいだろ」
「残念ながら、今回は裏……特殊任務。彼らには振れないよ。それに直接指名って言ったでしょ?」
「……んん?」
「だから、クラフト君。辺境伯が君を直接ご指名なんだよ」
▽▽▽
アンと二人、本局を後にしながら、僕は局長室でのやり取りを思い出していた。
「だから、クラフト君。辺境伯が君を直接ご指名なんだよ」
頭の中が一瞬真っ白になる。
しばしの沈黙。
「……は?」
「だから言った通り、何故か辺境伯様がキミを名指ししてるんだよねぇ。オジサンとしてもびっくりだけど、何? ロードアイランド辺境伯と知り合いか何かなの?」
「いや、顔すら見たことない」
辺境伯なんぞに会ったこともなければ、見たこともない。
名前は知ってはいるが、それはこちらが一方的に知っているだけだ。曲がりも何もこの国の一領主であるし、それぐらいの名前は一般常識として頭に入れている。
だが、僕との接点はないはずだ。記憶をほじくり返しても全く覚えがない。
「ふーん。まぁ、君が知らないとなると、向こうが何かしらで君のことを知ったんだろう。ほら、あのポートゥクストの件とかで」
「確かにあそこはロードアイランド領でしたね。そう言われると納得もいきますけど」
「いまいち腑に落ちないな……」
確かにあの事件は色んなところが匙を投げた件でもあった。だからと言って領主の覚えが良くなるほどとは思えないんだが。
いや、ある意味悪名は知れ渡らないこともないか……
「何か怪しいな……どうしても受けないといけないのか」
「オジサンとしては断ってあげたいのは山々なんだけどねぇ……でもさ、それ」
デクスターが僕の持つブリーフケースを指さす。
「クラフト君さぁ、もう関係者以外閲覧禁止の極秘資料見ちゃったからねぇ。もう後戻りできないよねぇ」
「な――ッ!? 嵌めたな!」
「人聞き悪いよー。オジサンは見てもいいとは言ってないよ?」
「駄目だとも言わなかっただろうが! それにそもそも、話聞かせてる時点で巻き込む気満々だっただろうがァ!」
「さて、何のことかな」
コノヤロウ。
僕としたことが、無警戒過ぎた。
いや、ある程度の警戒はしていたつもりだったが……こいつの方が一枚上手だったということか。
「まぁまぁ。落ち着きなよ。辺境伯も馬鹿じゃあない。断られる可能性も考えて、君のやる気スイッチが入るように個人的な報酬を用意すると言ってる。まぁ、公然とやると賄賂だかなんだとか言われちゃうからあくまでも個人的かつ秘密裏なものだけど」
「……?」
「あーあー私は何も聞いてませんよー!」
アンが大声を出しながら耳を塞ぐ。
餌で釣るつもりか。
だとしても別に僕はお金には興味ないし、地位やら名誉やらと言われてもそれも今更だ。
余程のことでないと――
「辺境伯はね、自身の蔵書である『深海の歌』を君に譲りたいと言って――」
「良いだろう、受けようじゃないかその話」
「即答ですか!?」
くっ……そう来たか。
辺境伯はどうやら、僕について色々調べているようだ。
「前から読んでみたいと思っていたんだろう? それこそ商人のツテを使って探させるぐらいには」
「そこまで知られてたか……」
深海の歌は僕が前々から読んでみたいと思っていた魔導書だ。
現存すると言われる原本は行方不明になっていて、各国の研究機関も探し求めているという本好きには垂涎の逸品である。
「それはもちろん……」
「ああ。原本らしいよ。辺境伯が一昔前に手に入れたそうだ」
個人の蔵書になっていたのであれば、その行方が掴めなかったのも頷ける話だ。
往々にして、蒐集家という人種は、自分のコレクションを人に見せるために所蔵する者と、誰にも見せず知らせず自分だけが楽しむものとする者の二種類に分けられる。故に、世間に出てこないこともままあるのだ。
辺境伯が蒐集家なのかは分からないが。
「それで? 受けるのかい」
「そもそも受けるしかないように誘導したのはアンタだろうに」
「悲しいけど、これお役所勤めのサガなのよね」
「よくもまぁぬけぬけと……」
デクスターが勝ち誇ったかのような顔をしている横で、チャールズが申し訳なさそうに口を開いた。
「こちらではこれ以上詳しい資料を用意することが出来ません。恐らくギルドの方である程度の情報を持っていると思われますので、詳しくはそちらで聴いてもらえると助かります」
「この辺りが、管理局とギルドとの確執ですよねぇ……昔から」
「ホント嫌になっちゃうよねぇ」
嫌がらせ、という訳でもないのだろうが、ギルドは必要以上の情報をこちらへと渡そうとしない。
まぁ、外組織との折衝という観点では正しいのかもしれないが。
「……また行かなきゃならんのか面倒な」
「じゃ、頼んだよ。長引くようなら進捗状況の報告よろしくねー」
にやけながら、ひらひらと手を振るデクスターをどう呪い殺そうかと考えながら、僕たちは局長室を後にしたのだった。
――以上、回想終了。
特務課へと戻る廊下を歩きながら、アンと今後について話し合う。
「渡された資料だけでは情報が足りませんね」
「何にしろ一度ギルドで話を聞いてみるか……」
「一応アポ取ってみますね。多分この時期忙しいでしょうし」
アンの提案に頷きつつ、帰路につく。
またあの血と暴力の世界に向かわなければならないと思うとウンザリしてきたな……。
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