8頁 局内便
特務課の朝は早い……ということもないのだが、一応公務員であるからして、時間にはそれなりに厳しくはある。就業開始と終了時刻はきっちりと管理される。
だが、特務課に回ってくる仕事と言えば資料整理――これはアンが瞬殺してしまう――だとか、取るに取らない雑用ばかりである。
確かに特殊任務もあるにはあるが、しかしそれも毎日ではないので、基本僕らは暇しているのであった。
故に、僕は何の心配もなく、日課である読書に勤しめるという訳である。
書類さえなければ。
「局内便でーす」
特務課の扉を叩きながら、そう言って入ってきたのは、快活そうな少年だった。
見た目だけであれば僕とそう変わらない――もちろん実年齢の差はあるだろうが――が、れっきとした省内で働く公務員である。
彼の仕事は主に手紙や荷物の配送運搬業務だ。
特務課に限らず国政に係わる部署は多数ある。
それらの部署間では、主に通信魔道具が使用されている。連絡や報告は密に保たれており、この通信魔道具、非常に有用なものであるのは確かである。
だが、やり取りできる通信は音声のみなのだ。
書類や資料をやり取りする場合、直接相手方へと手渡しに行かなければならない。
しかし、近い場所にある部署同士であれば問題無いものの、離れた場所、ちょうど僕たちの特務課のように、何区画も離れた場所へ通常業務の合間を縫って持っていくのは非効率だ、という先人の言で作られたのがこの局内便であった。
組織内外宛に届けられる、一日何百何千通という郵便物を振り分け、適切な宛先に届けるのが少年が所属する部署の仕事だった。
「おはよう課長さん! はいこれ!」
食堂でコーヒーを啜りながら読書に勤しんでいると、少年が局長の封蝋がされた封筒を手渡してきた。
手渡された封筒は、特に変哲もない無地の封筒だが、僕宛としか明記されておらず、差出人は書かれていない。
この封筒が届くということは――
「来たか……」
「僕らのとこに届くやつって結構適当なのが多いからなー。差出人は書いといてくれないと、宛先不明で返す時に困っちゃうんだよねぇ」
だろうな。
通信魔道具はそのやり取りが完全に記録されているのだが、これは局内の犯罪や不正防止のための一環だそうだ。
そしてその記録の痕跡を残さないようにして出されたこれは、特務課に届く裏の仕事――特殊任務開始の合図である。
封を破り、中の便箋を取り出して内容を読み進める。
それを見かけたアミタが、少年へと声を掛けていた。
「おはようございます。何か飲まれますか?」
「アミタお姉さんおはよ! じゃあ、ジュースが飲みたいな。走ってきてちょっと喉乾いたんだ」
分かりました、とアミタは頷き、ミニキッチンに備えられている冷蔵庫を開ける。
少年は手紙の内容に興味は無いのか、端の机に座り、目的のものが運ばれてくるのを大人しく待っている。
手紙の内容は要約すると、局長からの出頭命令だった。
情報漏洩を鑑みて、任務内容は直接局長の口から聞くこととなる。
いつ・ものだ。
少年へジュースを出し終えたアミタは、僕の背後から覗き込むようにして手紙を読んでいた。
近いせいか、ふわっとした香水の良い匂いが鼻孔をくすぐる。
「任務ですか?」
「面倒じゃなければいいんだけどな……基本的に僕らに回ってくる時点でなぁ」
「……そうですね」
少年は既にジュースを飲み終え、戻っていった。
入れ違うかのように、アンが戻ってくる。
「局内便ですか?」
「局長から出頭命令が出やがった」
「……クラフトさん何したんですか」
アンが呆れたようにこぼす。僕が悪い前提で話を進めないで欲しい。
いやまぁ、その反応は正しいかもしれないけど、もうちょっと自分の上司を信じてくれ。……無理か。
「違う、いつもの」
「ああー……今回は1ヶ月ぐらいでしたね、お休み」
「いつかの1週間に比べればまだマシだな。たまにあの局長の嫌がらせじゃねーかと思う時がある」
「……ありそうなんでやめてください」
僕たちから局長に対する評価も散々だが、お互い煮え湯を飲ませ合っているので、まさにお互い様である。
時間は指定されていないものの、先延ばしにするほどのことでもないので、今日中に行ってくるか。
午後であれば、僕の読書タイムを犠牲にすれば時間は作れる。ああ、もちろん断腸の思いではあるけど。
アポ? 向こうが来いって言っているのだし、日時の指定がないということはいつでも良いということだろう。と、僕は解釈する。
案外局長も暇なのかもしれないしな。
「最近、特に大きな事件は私の耳に入ってないですねぇ……」
「……ポートゥクストみたいなの振られたら、そろそろ辞表の提出を考えねーと。辞めれないけど」
「局長も……流石にそこまで連続して、変た――変わった仕事は振ってこないと思いますよ? ええ。多分」
アンの視線が泳いでいる。
仕事とはいえ、ウチの管轄ですらないものを担当させられることがあるのは如何なものかとも思うが。
と言っても、もう上の頭の中は管轄とかお構いなしなのかもしれない。
「どーにも嫌な予感しかしないな……」
「不法所持の次は何ですかね……大量虐殺とか無差別テロですかね」
……いやいやまさかな。
本当にそんな気もしてくるから口にするのはよせ。
どちらにしろ、僕らには選択権は無いのだ。
そこが雇われのつらいところだけど、だとすれば尚更普段は手を抜きたくなるというものだろ?
「いえ、それは違うと思いますけど。むしろ手を抜くから変なのばかり回されるんだと思います」
僕の心を読んだのか、的確な突っ込みを入れてくる敏腕補佐だった。
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