開放魔導書
放課後、創太は早々に帰宅した。本を調べようと思ったからだ。
帰ろうとしたとき晴彦に遊びに行こうと誘われたがすぐに断った。
この本がなんなのか、それがわかればいい。ただそれだけだった。
本を開くと、まず最初に出てきたのは『創造魔法』という単語だった。
「聞いたことのない魔法だな」
読み進めると、創太には計り知れないほどの魔法の名前や説明が書かれていた。
言葉を失うというのはこういうことだろう。
本を一旦閉じると、ふと葉月のことを思い出した。
思っていた人間とは違った彼女を創太は正直意識してしまっている。
「ああ、もうわかんねぇ」
考えることを諦めようとした時、チャイムが鳴った。
モニターを確認すると、そこには今日見たばかりの彼女――葉月がいた。
ドアを開けに行く。
「なんですか」
すこしだけ嫌そうな感じで出迎えると、葉月は笑って入ってきた。
「創太くん、あの本、私にも見せてくれないかな」
新生徒会長は初日から忙しいと言われているが、葉月はそんな忙しそうな素振りはせずに創太のもとへやってきたのだ。
だが、もう空は夕焼け色を失いかけている。
それだけの時間をかけて本を読み進めていたのだ。
「いいけど、どうして?」
「魔導についてすこしでも詳しくなりたいの」
意欲的な彼女の勢いに押され、創太は部屋に入れた。
「一人で住んでるの?」
「ああ」
創太には家族がいない。
家族との記憶や思い出が一切創太のなかには存在しない。だが、それはまだ知るべき話ではない。
創太は本を葉月に渡した。
「不思議な本だね」
「そうか?」
「だって、魔導書だって名前があるし、普通の本ならまず表紙に作品名があるでしょ」
リビングの中心におかれた丸机に本をおき、二人で本を見つめる。
「創造魔法……」
なにか知っているかのような言い方だ。
「聞いたことある?」
「まあなんとなく本で」
葉月が知る創造魔法とこの本に大雑把に書かれた創造魔法は似ているものだった。
「全ての魔法を超越した魔法?」
「そう、魔法の根源って言われているの」
創造魔法は魔法を作る魔法と言われてるらしく、昔、それを使える人間がいたという物語を葉月は読んだことがあるらしい。
だが、葉月が言うには、
「おとぎ話の世界だけどね、この魔法は」
らしい。
正直、期待外れだ。
「存在しないのに、誰がこんな本作ったんだよ」
そう愚痴る創太に葉月は、
「でも、魔力はあると思うこの本」
と言った。
「だって、光を出したんでしょ」
「ああ」
魔導書でもただの小説でもないこの本はなんだっていうんだ。
「もしかしたら」
葉月は持って来ていた鞄から分厚い手帳型のノートを取り出すと、なにかを探し始めた。
そして、見つけたようにそのページを開き、創太に見せた。
「これ」
そこには魔導書以外の魔力のある本についてが書かれていた。
『魔力を含む本について、通常の魔導書以外にも開放魔導書というものがごくわずかに存在する。魔導士たちが普段使用する魔導書のようにもともと魔法が書かれており、効果が切れない限り、その魔導書に書かれた魔法を使えるものとは違い、一度しか効果がないかわりにもともと持っている魔法を開放させる』
「この本がこれだとしたら、一度しか光を出さないはず」
他にもその魔導書は効果のある人間が少人数しかいないものがあるらしい。
「じゃあ、もしそうだとしたら俺、強くなってるのか?」
「そうかも」
だけど、おかしい。
もしそれが開放魔導書なのであれば、なぜ創造魔法について書かれているのだろうか。
「でも、まだ確信ではないね」
「ああ、でもすこしだけこの本のこと俺も知れた。ありがとう」
素直な創太に葉月は笑い返す。
もう空は暗くなっている。
「じゃあ、帰ります」
「う、うん」
創太は、玄関までついていく。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
「あ、忘れてた」
葉月はスマホを取り出す。
そして、創太の方にスマホを向け、
「連絡先、交換しませんか?」
「は、はい」
まだ創太は気づいていなかった。
開放魔導書がどれほど創太にとって重要な存在なのかを。