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魔法学園のジャンヌ  作者: 奏 音葉
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想定外な少女

 魔導書と思われる本を創太は大事に持って、アルカに持ち返っていいか聞いたアルカは二つ返事で許可したので、創太は本を持って、部屋を出た。


 まだ授業が始まっていないのか、廊下を歩いている生徒がいた。

 なにも気にせず、教室に戻ろうとすると、その生徒の集団の一人に肩を掴まれた。

「おいお前」

 力強く創太を目の前に引きずる。


「お前、アルカ先生の部屋から出てきたな」


 ネクタイでわかった。特進クラスの生徒だ。

 普通クラスの生徒のネクタイやリボンは紺色だが、特進クラスは赤なのだ。


「それに普通クラスだよな」

 創太は本を守るように抱えた。それを見た特進クラスの生徒は、創太から本を奪った。

「返せよ」

「なんだこれ?アルカ先生から貰ったのか」

 多くの特進クラスの生徒がアルカ教というのは有名な話だった。だからだろう、普通クラスの生徒が大好きな先生の部屋から出てきたことが気に入らないのだ。


「返せよ」


 創太には特進クラスの生徒の気持ちはわからない。

「なんだその態度」



 創太は無残なことに魔法ではなく素手でボコボコにされてしまった。

 特進クラスの生徒たちは本を投げ捨て、去っていった。

 口元の血を腕で拭うと、本を手にとり立ち上がった。創太にとってこの状況は不服なものだ。


「くそ、なんだあいつら」


 教室へまた歩き出すと、葉月とすれ違った。葉月は走って横を通り過ぎた。

 そして、後ろから怒鳴る声がした。


「なにやってるの?もう授業始まってるんだよ」


 創太はやっと気づいた授業時間の最中だということを。

 先ほど創太をボコボコにした特進クラスの集団が創太の横を走り去っていく。

「なんだ?」

 創太が振り向くと、そこには大きくため息をつき歩いている葉月がいた。


「新生徒会長」

「なんですか?その言い方は」


 改めて見た葉月は、創太が思っていた以上に威厳のなさそうな女子だった。

 セミロングで端正な顔立ち、見るからに魔導の道にはいなさそうな美少女だ。


「君が本当に学園一の成績?」

「なにその言い方、まるで私が弱いみたいじゃない」


 創太は困ったように頭に手を乗せ、

「弱そうだよ」

 と平然と言った。

 創太が想像していた人間ではなかった。

 元普通クラスで特進クラスになり学園一強くなった生徒にしては、あまりにも華奢だ。


「もしかして、アルカ先生みたいな生徒とでも思っていたの?」

 創太は頷いた。

「素直過ぎでしょ、それにもう授業時間だよ?なんでまだ教室に戻っていないの」

「授業時間わからなくて」


 葉月はため息をついて、創太の横に並んだ。そして、

「教室まで送る」

 創太は正直動揺した。

 ここまでお人よしな人間がいるのかと。


「勘違いしないで、ただあなたもちゃんとした魔導士になってほしいの」


 その言葉は創太には嫌な一言だった。

 だけど、創太は珍しくその言葉を受け入れた。


「それに、さっきの生徒たちに暴力を振られたでしょ」

 創太は驚いた顔をした。

「見てたけど、止めなかった」

 創太は顔を強張らせた。


 葉月は申し訳なさそうに手を合わせて言った。

「アルカ先生が認めている生徒ってどれくらい強いのかなって」

 そして、残念そうなトーンになり、

「でも強いとかじゃないんだね」

 創太は、頭を掻きながら言った。


「俺、普通クラスでも一番成績低いから弱いです」


 自分のことを口にするといつもつらくなる。

「そうなの?」

 葉月は驚いた顔をした。

 創太にとって成績が悪いことは周知の事実だと思っていたからだ。



「正直、そうは見えなかったな」



 立ち止まった。

 そんな風に言ってもらったのはこれが初めてだと思ったからだ。

 目を丸くして創太は葉月に言い放った。

「本気?」

 葉月は笑いながら頷く。


 創太はその瞬間、特進クラスの生徒、否この学園の生徒で初めて仲良くしたいと思えた。

 でもそう思った瞬間、一つのことを思い出した。


「生徒会長がこんなことしていていいんですか?」


 葉月は頭を抱えながら考え、数秒して答えを出した。

「差別とかしたくないんだ」

 創太にとってそれは思っていた返答ではなかった。

「どういうこと?」


「普通クラスの人でもおちこぼれになってほしくないの」

「俺のことだ」

「そういう、ダメとかいいとか決めたくないの、だからあなたにも頑張ってほしくて」


 また歩き出した。もうすぐそこに教室が見えている。

 葉月はそこで立ち止まり、

「もうここまで来たらいいかな」

「あ、ありがとう」

 葉月は満面の笑みで創太に手を振った。創太も教室へと身体を向け、歩き出した。

 あと一歩で教室というところで、肩を叩かれた。


 ゆっくり振り向く、葉月がいた。


「もういいよ」

 創太が困ったようにそう言うと、

「名前聞いてなかったから」

 と葉月は言った。


「あ、佐藤創太です」


 創太が名乗ると葉月は嬉しそうに走り去っていった。

「え、なんだこれ」

 不思議な空気が残った状態で創太は教室へと入っていった。

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