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レール  作者: のりしろ
1/1

前半

この物語はフィクションです。物語に出て来る団体とは何の関係もありません。

1.レール

「勉強のできない奴は敗者だ!!」

塾の講師は声を荒げている。


新堂晃一しんどう こういちは耳を貸さずにペンを動かす。周りは外務大臣の新堂晃治しんどう こうじの息子と呼んでいる。

「俺の名前は晃一だ」何度もそう思った。


朝6時に起きて勉強、8時に運転手の運転で全国でもトップクラスの東慶学校に行きまた勉強、そして18時から塾に行き勉強して、家に帰って勉強して2時に就寝。

それが8歳から9年間のそれの繰り返しだ。


高校になるまでそれが普通だと思っていた。周りもそんな奴らばっかりで学校でしゃべってる奴なんかいない名前すらまともに分からないそんな感じだ。

テストでは常にトップで東大合格率100%と言われている。


こんな晃一でも唯一楽しみにしていることが学校から塾に行く間に寄っているコンビニだ。

店内に入り一目散に週刊で連載されている雑誌を手に取り読む、それからポカリとメロンパンをもってレジに、それが日課だ。

たまに猫が居てエサを買ってやったりもする。


今日は雑誌が休刊日でガッカリしながらポカリを持ってメロンパンを買おうとしたらメロンパンもない。今日はついてない。

仕方なくアンパンを持ってレジに行くと店内にかかっていた音楽が今流行っている歌の音楽に変わった。

元々音楽に疎い晃一は無意識に「なんて歌だったっけ・・・」と漏らしてしまった。


「アイウタだよ」、顔を上げると今時の女店員が笑っていた。

晃一は何も言わずにレジ袋を取って店を出た。

店を逃げるように出た賢一は「ビックリした・・・人に話しかけられたの何年ぶりだろ」と少し微笑んで塾に向かった。



この日晃一の人生のレールは少し動いたのは思ってもいなかった。



その日は塾の講師の話も耳に入らずにボッーとしていた。

周りを見ると絶えることなくペンを動かし続けている。

まるで自分だけ取り残されているように感じた。

家に帰ると母親が「今日も勉強できた?」と聞く。

「ハイ」と一言行って「勉強してきます」と2階の部屋に上がる。

母親とは2年ぐらいそれぐらいしか話したことがない気がする。

部屋に入るとすぐさまパソコンを開き「アイウタ」と打つ。

なるほど今週オリコン1位だ。笑われても仕方ないか・・・。

晃一はパソコンを閉じ、参考書を開いた。


次の日、授業の最中もずっとコンビ二に行くかどうかを迷っていた。

「新堂!!聞いているのか!?」と教師が晃一を睨む。

「この前のテストが1位だからって調子に乗ってると落ちこぼれになるぞ!!」

「すみません」一応頭を下げ頭を勉強に切り替える。

周りの連中は冷たい目線で見てくる。

それもそのはず勉強だけが生きがいの奴らは晃一を1位の座から引きずり降ろしたいに決まってる。

晃一は1位の座なんて未練はない。

常に1位でなければ父親の晃治に「新堂家はトップでなければならない!」と殴られる。

名前の由来でさえ、自分のように一番になるようにと晃一と付けるような飛んでもない男だ。

トップでいるのは自分のためではない父親のためなのだ。

父親は息子がほしいのではない自分がもぅ一人ほしいのだと晃一は思っている。



2.出会い

塾に行く途中コンビ二を外から覗くと昨日の店員がいた。

晃一はコンビニに入るか迷った。

周りから見れば何てことないことだが何故か一歩が踏み出せない。

人と接することのない生活を送っている晃一にはたった一言でも話しかけられたことはそれほどまでに大きな出来事であった。

何分か経ってから晃一はコンビニに入ることに決め一歩を踏み出した。

その時後ろからバイクの音が聞こえた。

晃一の前に現れたのは改造したバイクに乗った3、4人の集団だった。

晃一は一瞬目が合ったがすぐさま目を逸らしたが遅かった。

「おい!」と呼ばれ、最悪だと思いながら晃一は顔を上げた。

集団の一番派手な男が晃一の前に立ち「東慶高校の坊ちゃん。僕にお金を恵んでくれないかなぁ?」とバカにした言い方で手を出してきた。

そもそも、この制服を着ているとカツアゲなんてよくあることだが晃一は背が175cmありカツアゲなんて最近ではされてなかった。

晃一は「・・・持ってない」と一言言って去ろうとしたが男はそう簡単には逃がしてくれない。

「痛い思いしたくないよな?」男は今度は睨みながら言った。

いつもならここで財布から札を出してその場を去るのだが今日は何故か違った。

最近では感じたことなかった感情が出てきた。


怒りだ。


こんな奴にやすやすと渡してたまるか!!あの子の前で・・・。

知らない間に拳を作っている自分に気づいた。

もちろん喧嘩なんてしたことなかったし、仕方も分からなかった。

覚悟を決めて男を睨んだ。

「てめぇ・・」男も仲間の前で恥をかく訳にはいかず晃一の胸ぐらを掴んだ。

その時


「やめて!!」


声の方を見るとあの店員がいた。

あつしやめさせて」と集団のリーダーらしい男に告げた。

敦と呼ばれる男は渋々ながら

亮二りょうじ離せ」と胸ぐらを掴んでる男に言った。

「でも敦・・・」

「離せって言ってるだろ!」

「分かったよ」亮二と呼ばれる男は乱暴に手を離した。

「店には来ないでって言ってるでしょ」と店員は敦に告げた。

「分かったから怒るなよ麗奈」と敦は店員に告げた。

「おい、行くぞ!」と敦の声でバイク集団は去っていった。

「大丈夫?」と声をかけられたが晃一は何も言わずその場から走り去った。

走り去ったんではなく逃げたんだ。

今までトップを走り続けてきた男は初めて自分の小ささを思い知った。


塾に着いても悔しさと恥ずかしさがこみ上げてくる。

こんな感情が自分にもまだあったのだ。

家に帰っても母親の言葉にも耳を貸さず部屋で落ち着かずにいた。

ベットで寝転がり冷静になれと思っても色々なことが頭を巡る。

晃一は自分では常に冷静で大人ぶっているが自分はまだ精神面で子供だと思った。

同時にまたあのコンビニに行かないとと思い目を閉じた。


次の日晃一は学校が終わるとすぐにコンビニに向かった。

麗奈と呼ばれていた店員は外でゴミ袋を代えていた。

晃一が近づくと麗奈は顔をあげ「昨日の・・・」と心配そうに晃一を見た。

「昨日は助けてもらったのに何も言わずにゴメン」

「ううん。別に君は悪くないし何かゴメンね」

「昨日あれから彼氏と喧嘩とかにならなかった?」

そう聞くと麗奈は少ししてから

「ははは、違う違う!彼氏なんかじゃないよ。ただおな中なだけ」と笑い出した。

晃一はマジメな顔して「それならよかった。じゃぁ」とその場を去ろうとした。

「待って!もぅバイト終わるから少し話せないかな?」

晃一は思ってもなかった言葉に戸惑った。

もちろんこれから塾だ。いや晃一に暇な日どころか暇な時間もない。

迷ったあげく「少しなら・・」と晃一は告げた。

「じゃぁ後少しだけいつも読んでる漫画でも読んでて」麗奈が笑顔で告げると晃一は一回頷いて本が並んでるコーナーに向かった。

いつもの雑誌を手にとり読んでるフリをしながら冷静をよそいバイトが終わるのを待った。

何十分かして一回読んだことがある雑誌だと気づいたと同時に「ごめん。じゃぁいこっか」と麗奈が晃一に声をかけて出口に向かって歩き出した。晃一は何も言わず後を付いて行った。



麗菜は近くの公園に着くと「ちょっと暑いけどここでいい?」と聞いた。

今は6月でまだ耐えられない暑さではない。

「いいけど、何なの話したいことって?」

晃一は麗菜の目を見ずに言った。

「あっ!!まだ名前言ってなかったね私二宮麗菜にのみや れいな!17歳フリーター!そっちは?」

「新堂・・・。」

「下の名前は??」

「晃一」

「年は?」

「17歳」

「じゃぁタメだね!私のことはれいって呼んでいいよ」

麗菜は笑顔で晃一と話そうとするが晃一は興味なさげに

「それで話しって??」と呟く。

自分も愛想よくしたいができない。

勉強はできてもこんな時にどうやってしゃべればいいのか分からないのだ。

「私はなんて呼んだらいい?」

麗菜は質問を無視して世間話を続ける。

「みんなからは何て呼ばれてるの?」

晃一はとっさに

「新堂晃治の息子」と答えた。

晃一は何で父親の名前を出したんだ、外務大臣の息子なんて聞いたらきっと・・・。

そんなことを考えている晃一に麗菜は

「誰それ?」と答えた。

そう聞いた晃一は時間をおかずに笑った。

周りがまるで神のように崇められてきた男はこのコンビニ店員にとっては名前も知ることもない男なのだ。

晃一は今まで一番笑った、いや初めて心の底から笑った。

笑うと同時に何かに開放された気がした。

「何がおかしいの?」麗菜が少し怒ったように言った。

「ごめんごめん。なんでもない」

麗菜はまだ怒っている。

晃一は焦って話を変えた。

「俺は何でも呼んでいいよ」

「じゃぁ晃ちゃんって呼ぶね。」

「それはちょっと・・・。」晃一が戸惑うと

「よろしく晃ちゃん!」麗菜が笑顔で押し切った。

「それで二宮さんの話って?」

「麗」と麗菜がイタズラっぽく言う。

「・・・それで麗の話って??」

そういうと麗は微笑んだ後にマジメな顔をして

「晃ちゃんってその制服東慶高校だよね?」

「そうだけど・・。」

「私、弟がいるんだけど今年受験なんだ。それで私の家父親がいなくてさ塾にもいかしてあげれないんだけど、一樹ずっと図書館で一人で勉強して東慶高校に行くってずっと頑張って来たんだ。あっ一樹って弟のことなんだけど」

「それで俺に何か?」

「それでやっぱり一人で勉強するのって大変そうなんだ。私は頭悪いから何もしてやれないし・・。」

「そうだね。数学は一人では理解しずらいかな」

「そこで家庭教師してもらえないかな」

「ん〜俺的には全然いいんだけど、時間が取るのが難しいんだよなぁ」

「お願い!!お金なら少しになちゃうけど払うし、私ができることは何でもするから!!」

麗菜は必死に頭を下げてくる。

晃一は迷っていた。家庭教師をするのは全然いいのだが晃一には時間がない。

今日塾をサボったことも恐らく塾から連絡があり母親が怒り待ち構えていることはさっきから常にマナーモードにしている晃一の携帯に家からの着信が鳴り続けていることから簡単に創造できる。

「分かった。毎日は無理だけど、週に一回ぐらいだったら」

「本当に?」麗菜が聞く。

聞きたいのはコッチの方だ。言ったのはいいがどぅするか何も考えていない。

「うん。だけどお金とかはいらないから」

「じゃぁ私はどうすればいい?」麗菜はマジメな顔をして問いかける。

「・・また今度考えておくよ。いつからいこうか?」

「ありがとう!じゃぁメアド教えておくから連絡して!」

「分かった」

この日晃一の携帯に初めて身内以外の人間が登録された。



3.反抗期

家に着いた晃一を待ち構えていたのは真っ青な顔をした母親だった。

そもそも母親の新堂里香しんどう りかも元は大手メーカーも令嬢であり父親とは政治的な結婚である。

考え方は父親と同じなのだ。

父親の言う通りにしていれば幸せになると本気で思っている。

「塾はどうしたの!?」母親の里香はうろたえながら叫んだ。

連絡も着かなかった子供より塾の心配かと晃一は思ったが

「少し体調が悪くて・・」と嘘をついた。

正直に友達と大事な話をしていたと言った所でこの母親には理解できないだろう。

「そぅじゃぁ部屋に戻って今日の分の勉強をして来なさい。休んでたら追い抜かれるわよ」

晃一は何も反応せずに2階に上がった。

「晃一!」と母親の声が聞こえたが無視した。

部屋に入り、どぅ親を説得すればいいのか晃一は考えたが、晃一にはそれが迷宮入りしている事件を解決するより難しく思えた。


ベンツのエンジンの音で晃一は目が覚めた。

いつの間にか眠っていたようだ。

時計の針は天辺を指そうとしている。

「帰ってきたかぁ・・」そう呟くと晃一は部屋を出た。

晃一の予想通り父親の晃治が里香から晃一が塾を休んだことを聞かされていた。

「あなたからもいって下さいよ。あの子私のこと無視したのよ」

里香の話を聞きながら晃治は上着を脱ぎソファーに座り好きな葉巻に火をつけた。

晃一が部屋に入ると晃治は一度晃一を見て背を向け

「母さんから聞いたが成績の方は大丈夫なんだろな?」

と晃一に背を向けたまま葉巻を吹かした。

「ハイ」と晃一は呟く。一体誰に言っているのか分からなかった。

「ならいい。下がれ」

「成績さえよければそれで満足ですか?」

晃一の問いに晃治も里香も驚いた。

「何言ってるの?」里香が動揺を隠せずに答えたが晃治は相変わらず背を向けたまま

「お前は俺の言う通りにすればいいんだ」とだけ晃一に言った。

晃一の胸の中に様々な言葉が巡る。

この思いを全部ブチ撒くことができたらどんなに楽か。

しばらくの沈黙の後。

「・・塾を週1回だけでいいので休まして下さい」自分でも情けないと分かるぐらいの言葉だった。しかしこれが今の晃一が言える精一杯の言葉であり晃一の初めての反抗期なのだ。

母親は状況が理解できておらずうろたえるだけだ。

「そんなことして成績が落ちたらどぅするの?」

「自分でも勉強はできます。自分のことは自分が一番分かってるよ」

「何なのその口の聞き方は!!」

「結局成績が心配なんだろ?それなら大丈夫だから」

しばらく晃一と里香が言い争いをしていると晃治が口を開いた。

「うるさいぞ2人共!!晃一好きにしろ。しかし成績が落ちるようならこれからは口答えするな!いいな」

「分かりました」

「分かったら出て行け!!」そういうと晃治は2本目の葉巻に火を付けた。

晃一はすぐ部屋を出て2階にあがった。下では里香が晃治に何か叫んでいた。

部屋に入ると晃一は携帯を開き麗菜のアドレスを眺めた。

そして生まれて初めてのガッツポーズをして椅子に座り参考書を開いた。

今日はいい日だ。なんせ週1回の休みという初めてほしい物が手に入ったのだから。

晃一は少し微笑みながら快調にペンを動かした。

次の日さっそく里香から説得されたが晃一は

「もぅ決めたことですから」の一言だ。

里香もさすがに諦め「成績を落とさないよう」とだけ告げた。

晃一はこうしてめでたく水曜の夕方を勝ち得たのだ。

学校に行く車の中で晃一は普段使わない携帯を取り出し麗菜にメールを打った。

「新堂だけど、家庭教師の件水曜の夕方だったら大丈夫になったけど」とだけ。

自分でも素っ気ないと思うメールだったが、すぐに晃一の携帯に着信があった。

それは今まで見たことのないデコレーションされた感謝のメールだった。



4.一樹と奈美

塾に行く前に麗菜に会いに行った。

「あっ晃ちゃん!!」

店に入った瞬間に麗菜の笑顔が飛んできた。

「家庭教師のことなんだけど・・」

「うん!受けてくれてホントにありがとう。いつから大丈夫なの?」

「今週から大丈夫だけど」

「じゃぁ今週の水曜日に前の公園に18時に待ち合わせでいい?」

「分かった」

麗菜は少し申し訳なさそうに

「ホントにごめんね・・。もし晃ちゃんがイヤになったら遠慮なく言ってね」と俯いたまま言った。

晃一はどぅしていいにか分からずに周りを見渡したら店長がこっちを何かいいたそうに見ていた。

「仕事の邪魔しちゃ悪いから」そぅ晃一がいうと麗菜も店長に気づき慌てて

「ごめんね!あの店長ちょっと神経質なの」と小さい声で言った。

「じゃぁ水曜日に」晃一がその場を離れようとすると

「あっ!私の名前覚えてる?」と麗菜が思い出したように笑顔で言った。

「二宮さん・・」

「違う下の名前!!」

「麗菜・・ちゃん」

「麗でいいって言ってるでしょ!!二宮さんなんて言ったら殴るから」

と少し機嫌悪そうに顔をそむけた。

「分かったよ。じゃぁまた水曜に・・麗」

そういうとすぐに笑顔を戻した麗菜は頷いた。

晃一は店を出る時、麗菜の笑顔だけ残っていた。

店長の不機嫌そうな顔などもぅとうに頭になかった。


       ー水曜日ー

「ごめん待った?」約束の5分前に麗菜が来た。

「ううん。俺も今来た所」晃一は30分前にも来たにもかかわらず、ありふれた嘘を付いた。

麗菜の私服はTシャツにショートパンツでスタイルのよさが遠めからでも分かる。

かぶっているキャップは晃一には分からないがよくかぶっている女の子をよく見かける。

晃一は自分の私服のセンスはどぅなのか疑問と不安でいっぱいになった。これでも急いで通販で取り寄せた人気2番目のジャケットだ。一番は派手なフードがついたダウンだったのでやめた。

「どぅかした?」

「イヤ別に・・」

麗菜は少し首を傾げ

「じゃぁ家に案内するね」と歩き出した。

「家!?図書館じゃないの?」晃一はかなり動揺して声が裏返ってしまった。

「ダメ?」

「いや俺はいいけど・・」

「じゃぁ行こ!」

なるほど麗菜は外見と内面にギャップがない。


15分ほど歩いたら

「着いたよ」と2階建てのアパートの前に案内されるとアパートの前で小さな女の子が座っていた幼稚園ぐらいだろう。

「ねぇ〜たん!!」少女は麗菜の足にしがみ付いた。

「奈美!家で待ってて言ったでしょ」

奈美と呼ばれる少女は麗菜の後ろに隠れると

「これがこーたん??」と晃一を指差した。

「そうだよ。あっ!この子妹の奈美って言うの今幼稚園行ってるの、ほら奈美あいさつして」

奈美はモジモジしながら「奈美・・・。」とだけ答えた。

晃一は子供と接することなんて初めてだったが一応しゃがんで目線を合わせてから

「新堂晃一。よろしくね奈美ちゃん」と奈美の頭を撫でた。

奈美は嬉しそうに笑いながら

「奈美が案内してあげる!!」

と晃一の手を引いた。

困惑している晃一の背中を麗菜が押して晃一はアパートに向かった。

部屋に入ると麗菜が奥の部屋に入って

「一樹!!晃ちゃん来てくれたよ」

すると奥から上下ジャージの一樹が出てきた。何故か機嫌は悪そうだが顔は清楚な顔立ちをしている。奈美はずっと晃一の手を握っている。

「一樹です。よろしくお願いします」

言葉とは裏腹に一樹の言葉には感情がこもっていない。どうやら晃一はあまり歓迎されていないようだ。

気まずい空気を換えようと麗菜が切り出した。

「とりあえず奥の部屋で勉強してきなよ。晃ちゃん頭いいから何でも聞いていいよ」

そぅいうと晃一の手から奈美を離して抱っこした。

一樹は何も言わずに奥の部屋に入っていった。

晃一も奈美の「奈美もこーたんと遊ぶ!!」という声を背に受けながら後に付いて行った。

部屋に入ると受験生らしい部屋だった並んだ参考書と赤本。まるで今の自分の部屋のようだ。

「本当に東慶高校なんですか?」一樹の第一声はそれだった。

「そうだけど、信じてくれてないのかな」

「姉ちゃんの友達で東慶の人がいるとは思えなくて」

なるほどそぅいうことか晃一は苦笑いを浮かべた。

「前にも勉強教えてくれるって来てくれたんだけど・・・」

それ以上は言わなくても分かった。

恐らく麗菜の友達が自分に勉強教えれるほど、勉強できる奴がいる訳ないとそう言いたいのだろう。晃一は一樹の反応を見ながら

「とりあえず今やってる勉強の仕方を教えてもらえないかな?」と聞いた。

一樹は乗り気でないようだ何か言いたげに参考書を見ている。

正直に自分は君が行きたがってる学校でトップの男だぞとでも言った方がいいかも知れないが晃一はそんなことを言う性格ではない。勉強ができる自分のことが好きではないからだ。

晃一は迷ったあげく

「じゃぁ去年の東慶の入試問題で90点以上取ったら信じてくれるかい?」

そう言うと一樹は一瞬固まってから戸惑っていた

「教科は??」

「何でも」

「じゃぁ数学で」

「分かった」

一樹は過去問題とルーズリーフを渡した。

晃一は一度もペンを止めずに30分もかからずに解きおえた。

これには一樹も驚きを隠せていなかった。

点付けをおえると

「生意気言ってすみません」とだけ言った。

「じゃぁ今やってる所を教えてもらえるかな、できれば今までの過去問のでき具合を見せてもらえたら一番早いんだけど・・」

「分かりました。昨日やった奴でよければ」

そう言って一樹はノートを開いた。

6割方は取れているようだ。この時期に6割なら合格の可能性は確かにある。

しかしここから点数を上げていくのが難しいのだ。

晃一でさえ伸び悩んだことがあった。

「2ヶ月前から全然成績が上がってないんです・・」

「ここからが勝負だからね。でも上がってないってことはないんだ。ただ範囲が広い分点数はなかなか上がってこないもんなんだ」

「先生もそう言ってるけど・・」

「でも焦るよな。俺も焦った思い出があるから分かるよ」

一樹はテレくさそうにしていたが隣の部屋から

「奈美も遊ぶ〜!!」と奈美の泣き声が聞こえると笑みが消えた。

「だから家で勉強するのイヤなんだよ」

そう吐き捨てるように呟いた。

確かに受験勉強中にこの部屋は適していない。

「じゃぁ水曜日は俺の家で勉強しようか?」

「本当ですか?」

一樹はこの日一番の笑顔を見せた。

それからこれからのことを話し合っていると

「ただいま〜」と女性の声が聞こえた。

どうやら母親が帰ってきたらしい。

晃一は切のいい所で「今日はこの辺にしとこっか」と一樹に告げると帰ろうと部屋を出た。

奈美を抱き上げた麗菜の母親が

「この人が例の晃一君?」とクスっと少し笑った。

「こーたんやで!!」すかさず奈美が言う。

「こんにちは。えっと・・お邪魔してます」

「こちらこそ家庭教師受けてくれてありがとね!晃一君が来るからって誰かさんが家の大掃除してくれるしね」

「何言ってるのよ!!」麗菜が焦りながら言葉を遮ぎる。

「じゃぁ今日はそろそろ帰るよ」

「あら晩御飯食べていって。もぅ食材も買ってあるし!」

麗菜の強引さは母親譲りらしい。

「でも・・・」晃一が戸惑っていると麗菜が

「晃ちゃんは忙しいの!!」と止めに入ったが

「少しぐらい大丈夫ね??」と聞かれた晃一は

「折角だしご馳走になろうかな?」と麗菜に言った。

「こーたん遊ぼ!!」と奈美が抱きついたので晃一は奈美を抱きかかえた。

幼稚園児は思ったより重くそして可愛かった。

「一樹君の邪魔しないように静かに遊ぼうね」

「うん!!」


晩御飯ができるまでの間、奈美と麗菜と絵を描いて遊んだ。

絵を描いてるだけだが晃一には普段の生活では味わえないような楽しさを感じていた。

奈美が晃一の絵を描き晃一が麗菜を描き麗菜が奈美の絵を描いた。

晃一は絵が苦手で麗菜に笑われた。自分でも下手なのが分かる絵なので仕方がないがそれにしても麗菜は笑い過ぎだ。

奥で勉強している一樹に申し訳ない。

そんな内に麗菜の母親は手際よく料理を進めていた。

どうやらすき焼きのようだ。

「麗は手伝わないの?」

「何?私が料理ができないとでも言いたいの?いつもは手伝ってるよ!!ねぇ奈美ぃ〜??」

「うん!!ねえたんの目玉焼きはおいしいんだよ!!」

「ちょっと奈美!!」

晃一が笑うと麗菜は

「もぅ目玉焼きなんて誰でもできるじゃない!」

と顔を膨らました。

「完成!!麗菜、一樹呼んできて」

「分かった」

母親に言われた麗菜は奥の部屋に向かった。

「晃一君は好き嫌いない?」

「はい!大丈夫です」

「すき焼きって言っても白菜がメインだけどね」

「白菜好きです俺!」

晃一が言うと母親は笑った。

奥から麗菜に連れられて一樹が出てきた。

「おっ!すき焼きじゃん!!晃一さんのおかげだね!」

「こらっ!!」と麗菜が一樹の腕を叩いた。

奈美は晃一の膝の上に座りじっと肉とにらめっこをしている。

「いただきます!」の掛け声と共に箸が一斉に鍋にめがけて放たれた。

小さな奈美には手が届かず、晃一に

「こーたんお肉お肉!!」と手を引っ張る。

「こら!奈美、手引っ張ったら晃ちゃんが食べれないでしょ!!」

「いいよ。大丈夫。ちょっと待ってねお肉取ってあげるからね」

「よかったねぇ奈美。新しいお兄ちゃんができて」

「うん!!こーたん大好き!」

何故かは分からないが晃一は奈美に気に入られているらしい。


この日の食事は晃一にとってどんな料理より望んでいたものだった。



5.試験勉強

「帰っちゃやだ〜!!」とだだをこねる奈美を尻目に晃一は二宮家を後にした。

家に着くと母親にどこに行っていたかしつこく聞かれたが晃一は

「外でご飯食べてきたから」とだけ告げると2階にあがった。

携帯を開くと麗菜から着信があった。

相変わらず派手なデコレーションで作られている。

<今日はありがとう!!来週から晃ちゃんの家で勉強するらしいけど、水曜日は私の家に顔出しに来てね!奈美がこーたんこーたんってうるさいし。笑>

<分かった。じゃぁ折角だしまたお邪魔しに行くよ>

メールが返ってこなくて焦ったが

<ごめん!お風呂行ってた。じゃ待ってるから!>

それから何通かメールをし合って気がつけば時計の針は真上を過ぎていた。

晃一は<じゃそろそろ寝るよ>と送り参考書を開いた。

成績を落とせば水曜日はまた勉強漬けの毎日になるのだ。

初めてトップでいたいと晃一は思っていた。

2問解いた所で

<うん!また今度ね。おやすみ。>

と麗菜からのメールが届いた。


それから晃一にとって長い6日間が経って一樹が家に来た。

学校が終わってそのまま来たらしく制服もままであった。

母親には友達と勉強するとだけ伝えていた。

一樹は家の大きさにも顔色を変えていたが、表札を見て声を荒げた。

「新堂!?晃一さんってあの新堂晃治が父親なんですか??」

「そうだけど・・」

「ホントに!!俺すげー政治とか興味あって新堂外務大臣のファンなんです!」

「えっ・・・珍しいね」

晃一はかなり動揺した。さすがに父親のファンに会ったことはなかったし一樹が気を使って嘘を言っているようには見えない。一樹はまるで熱狂的なアイドルオタクが好きなアイドルを熱く語っているようだ。

「晃一さん早く言ってくれたらいいのに!新堂大臣が近くに住んでるのは知っていたけど、まさか身近に知り合いどころか息子がいるなんて」

「いやぁ・・まさか父親のファンがいるとはね一応麗には言ってあるんだけど」

「姉ちゃんに言っても分かる訳ないじゃん!バカなんだから」

「麗はバカじゃないよ。俺が今家庭教師してるのも麗のおかげなんだし、それに・・」

「それに?」

晃一は今週1位の歌を知っているか聞こうとしたが、さすがに知っているだろうと聞くのをやめた。

家に入ると母親が出てきた。

母親は一樹の姿を見るなりイイ顔はしていなかったが一樹があいさつと晃治のファンだと告げるとすぐさま笑顔になった。

2階に上がると勉強を始めた。

今日会ってからずっと落ち着きのない一樹に晃一は「とりあえず座って」と告げた。

一樹はノートを取り出すと晃一に渡した。

晃一が言っておいた通りに一樹は勉強してきたようだ。

「それじゃ始めようか」

晃一は参考書を開いた。

1時間ぐらい経ってから母親が満面の笑みでお菓子と紅茶を持ってきた。

どうやら一樹のことを気に入っているようだ。

「ありがとうございます」

一樹が緊張した声で発した。

「晃一が友達連れてくるなんて初めね」

当たり前だ友達なんていないのだから

「名前は何ていうの?」

「か、一樹です」

「お父さんはどこに勤めている方なの?」

「・・・えっと」

どうやら一樹のことを政治家か大企業の息子だと思っているらしい。

「まだ勉強の途中だから」

晃一が二人の会話を遮ると

「そうね。じゃ頑張ってね一樹君」

「はい・・」

心なしか一樹の顔色が暗くなった気がした。

それから勉強を始めると気がつくと時計の針は22時を指していた。

「今日はこれぐらいにしとこうか」

「はい!でも、やっぱり晃一さんは天才だね」

「そんなことないよ。一樹君もすぐ追いつくよ」

「呼び捨てでいいですよ。これからもよろしくお願いします」

「うん。受験まで頑張ろう」

下に降りると母親が出てきた。

「お疲れ様またいらしゃってね」

「はい。お邪魔しました」

どうやら母親は一樹を気にいったらしい。

「送って来る」

そういうと二人は家を後にした。

「いいですよ。子供じゃないんだし」

「いや・・奈美ちゃんにも会いたいし・・・」

晃一が歯切れ悪くいうと一樹は何かいいたげに微笑むと

「じゃお願いします」とイタズラっぽく言った。

何が言いたいかは分かっている。

奈美と麗菜にでしょ?だ。



              後半に続く。















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