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僕の望むままに  作者: ハチ子
8/10

第八話

「ま、まさか…そんなこと…」


ピンクの液体を俺は確かに飲んだ…。

そして沼田さんも一緒に…。

でもその時ヒロは飲んでなかった。

つまり、これはヒロが仕向けたのか?

いや、たしかヒロは飲む前にお父さんがアメリカ行った時のお土産だって言ってた…。

しかもアメリカで流行ってるとか言ってたよな…。

ということはヒロのお父さんがアメリカで買ってきた?か、もらってきたのかは知らないけど、アメリカでも入れ替わりのジュースがあるってことなのか?うーんでもこれは下手したら麻薬みたいに密売するような代物だよな…。

こんなの表向きな感じでアメリカで流行ってるとは思えない…。


ヒロはこのジュースを何らかの方法で手にして、このジュースの性能も知っていて飲ませたのか…。

それともヒロが言っていた通り、お父さんにもらったアメリカのお土産なのか。

考えれば考えるほどヒロがなんで俺たちにこのジュースを飲ませたのか全く分からない。


「とりあえず、明日ヒロに問いただすことにしよう…ヒロはきっとそんなことしないやつだ。」


ヒロはきっと何も知らずに飲ませてしまったのだろう。

ヒロが嘘をついて飲ませるわけない。

俺はそれを信じて風呂も入らず制服のまま倒れるようにしてソファで眠った。


リリリリリリィ

ガシっ


「もう朝か…」


目覚ましのけたたましい音でいつも通り起床した。


「は~あんまし眠れなかったな」


昨日はぐっすり寝たものの、疲労感があって体を起こすのがやっとな感じだった。


「ほーら、何してんのっ。早くご飯作って学校行きなさい!」


沼田さんの母が目覚ましをセットしてくれてたおかげで起きることができた。

だが、今日も朝からカッカしている沼田さんの母にせかされて俺はまたいつも通り焦りだす。


「は、はーいっ今作るから」


そうして朝から卵焼きやらウインナーやらいろんなおかずを作って二人分の弁当を完成させた。

沼田さんの母はいつも俺より早めに仕事に向かう。

その時弟君も一緒に保育園へ連れていくため、俺が一番最後に家から出ていく。


「じゃ行ってくるからねっ」


「ねえたんバイバーイ」


「うん行ってらっしゃい」


バタンっ


いつも通り強めな口調で出ていき、俺は俺で一安心した。

そして昨日はお風呂も入らずに寝てしまって体がべたべたで気持ち悪い。

このまま学校に行って周りに汗臭いとか思われるだろうか。

でも今はシャワーを浴びる時間もないんじゃないかと思うくらい時間が迫っていた。

その場にちょうど時計がなくて仕方なく制服のポケットに入ってるスマホを取り出そうとした。


「っとスマホスマホ」


右ポケットからすっと出して画面を見ようとしたが、スマホと一緒に紙切れが出てきた。

拾い上げてその紙を広げると、昨日のあの女子グループから貰ったメモだった。


「ん、何でこのメモがあるんだ?」


確かヒロがこのメモを俺の机の上に置いあって…とか言ってなかったか。

俺はこのメモがどこに行ったかなんて覚えてなくて、てっきり机の上に今も置いてあると思った。


「そういえば…」


俺は昨日のことを思い出した。

そうだ。そういえば…

このメモは机の上になんて置いて行ってない。

ポケットにそのまま突っ込んで屋上に行ったのだ。


だとしたらヒロはこのメモを見なくても俺が屋上にいることをわかっていたこになる。

まるでああなることがわかっていたようじゃないか。

その瞬間から俺はヒロに対して不信感を抱いてしまった。


今の段階だとヒロが何かしたという証拠にはならないし、俺も信じたくはない。

これはヒロが何もしていないという証拠を証明するためでもある。

もしヒロがすべての事の始まりを行った張本人だとしたら、それはヒロが犯人ということになるのだが、ただこの秘密を知っているのは現時点で俺だけだ。

沼田さんはきっと知らないで今登校しているころだろう。

メモの事は今はどうしようもないし、まずはあのピンクの液体を徹底的に調べる必要がある。


俺は今日学校を休むことにした。

そして制服から私服に着替えた。

ヒロはもう今頃学校についているであろう時間帯にヒロの邸宅へ向かった。


ピーンポーン


俺は裏どりをするためにヒロの邸宅へやってきた。

ヒロ家は俺が沼田さんの姿になってから二回目の訪問だった。

このド平日にヒロのお父さんがいるかの可能性は限りなく0に近いが、残りの数%にかける。

でももしいなかったとしても、ヒロのお母さんが何か知っているかもしれない。


「はーい、どなたでしょうか」


インターホンからヒロのお母さんが話しかけてきた。


「えっと…私ヒロ君と同じクラスの者なんですけど、少しでいいのでお聞きしたいことがありまして…よろしいですか?」


「あ、この間来てた子だよね!どうしたの?あ、話すること自体は全然いいんだけど、確か今日学校だよね。ヒロはいつも通り登校していったけど…」


ヒロのお母さんはこの間訪問してからもう顔を覚えたようで、インターホン越しからでも俺がわかったようだ。


「あ、その‥実は私今日は病欠で休んでいることにしてるんですけど、実際は何もなくて‥えっと、今日わざわざ学校を休んでまでヒロ君の家に来たのは理由がありまして…んーと‥‥なんというか、すごく大事なお話がありまして…」


「うんうんわかったよーここで話しててもわからないだろうし、中に入ってお話しましょう」


俺がうまく説明できずにおずおずと言葉に詰まっているとすかさずヒロのお母さんが優しく言ってくれた。


ヒロのお父さんは有名な外資系企業に勤めていて結構偉い人だと聞いたことがある。

まあそりゃそうだ。だってヒロのお父さんなんだから。

カッコウの卵の親はやはりカッコウなんだと思わされる。

でもヒロのお母さんは何となく違う。

偏見かもしれないがエリートサラリーマンの妻と言えばお高くとまっているイメージがあったが、ヒロのお母さんはすごく気さくな人で誰にでも優しくて俺みたいな住む世界が違うような人間に対してもいつも遊びに行くたんびにお菓子をたくさんくれるし、話もたくさん聞いてくれる。

どんな人にも対等に接してくれる、そんな人だった。


僕はそんなヒロのお母さんが大好きだ。


「この間はじめてきたばっかりよね?私もあなたに聞きたいことたくさんあるのよ~ほらーヒロは恋人とかそういうこと何にも話したがらない子じゃない?」


リビングの椅子に腰を掛けた直後に話しかけられた。


「あ、そうですね…」


いきなりヒロとの関係を聞いてきて、うまい返しも思い浮かばず何も言えなくてただ同調しただけだった。


「あらやだごめんなさいね!ヒロの新しい彼女さんなのかと思っていたから…もしかしてそうじゃないの?」


俺のそっ気のない反応を見てか、どうやらそうではないと察したらしく今度は少しテンションが下がった。


「はい、ヒロ君とは恋人同士ではなく、友達程度の関係といいますか‥ご存知だと思いますが彼は瑠美ちゃんという彼女さんもいますし…何かすいません。」


期待させてしまって逆に申し訳ない気分になり謝ったが、ヒロのあ母さんはすぐに表情を変えにこっと笑った。


「んふふ!大丈夫だよ、かしこまっていなくて!そんなことより話があるっていってたじゃない?それはどんな話なの?」


やっと本題の方に転回してくれた。


「はい…その本当にどうでもいいことかもしれませんが、どうしても気になることがありまして…」


「ほう。気になることねぇ。」


俺はヒロのお母さんにピンクの液体を見なかったか、お父さんがアメリカに行ったときに土産としてジュース系の飲み物を持ってきてなかったどうかを聞いた。

こういうことを聞くのは非常におかしいことかもしれないが、そうでもしないと真相がわからない。


「ピンクのジュースねぇ。私たちそんな派手な飲み物を普段飲まないというか…みたことないわねぇ。でもそれヒロがくれたんでしょ?お酒のはずもないし。」


やはりヒロのお母さんは知らなかったようだ。

お父さんに直接聞くしかないと思った。


「あ、あとアメリカ土産って本当にヒロがそんなこと言ってたの?旦那はもう一年くらいアメリカどころか外国にすら行ってないけど…」


「え?そうなんですか…」


ヒロの言っていたことはまるっきりちがっていた。

お父さんは外国にすら一年もいっていなかったのだ。


「どうしたのそんな顔して。そんなにおいしいジュースだったのかしら。今度ヒロに聞いてみようかな?」


「あ、い、いや聞かなくていいです!ていうかこの話自体聞かなかったことにしてください!」


どうやらヒロが言っていたことは嘘だったようだ。

ショックは大きいし、ヒロはお父さんのお土産をもらったんじゃなくて、自分自身であのジュースを手に入れたんだ。

こんなジュースは国内で売ってないだろうし、ネットで書いていたことが正しいとしたら、美人な女にもらったのだろうと確信した。


「あのーいきなりきてごめんなさい。こんなどうでもいい話を聞いてくれてありがとうございました。ではこれで私は帰ります。お邪魔しました。」


「あ、うん…あなたの役に立てたかわからないけど。気を付けて帰ってね!」


話が済むと足早にその場から去っていき、俺は家に戻った。

家に着くなり、まだ悶々と頭の中で葛藤していた。

まるで頭の中で天使と悪魔がけんかしているようだった。

ヒロを信じたい気持ちもあるが、ヒロのことを憎むような気持ちもある。

まだきっと希望はあるかもしれない。

でも悪魔のささやきがそれを否定してくるのだ。

「ヒロは裏切り者だ」「お前は騙されたのだ。もうヒロとはかかわるな」

「ヒロはそなことしない」「今までヒロに何回も助けられてきたんじゃないのか?」


「あーーーーーーーもうわけわかんないよっ」


誰も居ない部屋の中でそう叫んでいた。


こうなったらやることはただひとつ…。

なんとかしてヒロにバレずにあの美人なお姉さんとやらを見つけるしかない。

まだ戻れないと決まったわけではなし、あきらめきれることでもないわけで…



俺はまたパソコンを起動して、昨日見たコミニティサイトをひたすら探した。ブックマークでもつけておけばよかったのだが、その時は余裕がないというかまさかという衝撃が強くてそんなどころではなかったのだ。


「ど、どこにいったんだ…」


肝心のコミニティサイトがなかなか見当たらなくて焦っていたが、探してから5分くらいで履歴があるはずだと思い出してあーなんて俺は馬鹿なことをしていたんだと気付かされた。

履歴をスクロールしているとその中にあのうさん臭いサイト名の書かれた字が出てきた。


「こ、これだ!」


迷わずクリックしてサイト開くと、前に見たときのまんまコメントがびっしり書かれていた。


「結構人気なサイトだろうになんでこんなに探すのが大変なんだよ…」


俺はまたスクロールしながらその中のコメントでお姉さんに関する内容のものがあるたびにメモをした。


ある程度メモをし終わり、今度は一人で読み上げていた。


「女の特徴はとりあえず美人でスタイルがいい。20代くらいの見た目で常にミニスカ、ハイヒールを履いているっと…」


結構内容がアバウトだがみんなのコメントをまとめてみるとだいたいこんな感じだった。

でもこんな人なかなか見ないし見かけたとしたら相当印象に残る人だろう。

特徴はこれだけあればわかる気がする。


次はどこに出没するのか…

また俺はコメントをスクロールして探した。


「よく出没すると言われている場所は、西銀座や千代田や八王子や他にも多数。都内だけ広範囲にわたって出没するがどこも必ず住宅街や高架下など人気のないところで話しかけられたり見かけたりする…か」


このお姉さんに会うにはどれだけ大変なのだろうか。

コメントの中には会いたくても会えないということも多数書き込まれていて、

都内とはいえこんなに広範囲だとどうしようもないくらい見つけにくいだろう。しかも必ずその場所にいるわけでもない。


そうしてコメントをすべて読み漁っているうちにどんどん日が沈み、気が付けば放課後くらいの時刻になっていた。


ピンプン~


スマホが鳴った。

見るとヒロからメッセージが届いていた。


「今日休んだね。どうしたの?」


ヒロから来たメッセージ…

正直怖くて仕方がなかった。

何を考えているのか一切わからないし、本当にヒロは俺の事を心配なんてしてくれているのだろうか?


「俺、今日は具合悪くてさ…ちょっと休んでる。気にしなくていいから」


「そんなん無理だよ。今帰る途中だから寄ろうか?」


ヒロが寄ってくる?

この間までヒロは俺にとって唯一の心の拠り所だったが、それはなくなり、今俺にとって一番会いたくない人間になっていた。


「や、いいから。まじで来ないで。」


メッセージにはそう書いて画面を消した。



それから10分くらいたっただろうか。

ヒロからまたメッセージが来ていた。


「今日さ。ぼくんち来たんでしょ。」


唐突のメッセージで画面を見るなり驚いた。

どうやら俺が訪問してきたことはバレてしまったようだ。


「ピンクのジュースのことお母さんに聞いたんだね」


そして一番バレたくなかったことをすんなりと言われてしまった。


「知っちゃったか。あのジュースの秘密。」


その文字を見た瞬間俺はやっとヒロがすべての黒幕だということを悟った。

まさかヒロが…信じたくなかった悪魔のささやきが現実となったのだ。


「知っちゃったらもう、仕方ないね」


俺はいわゆる既読無視という状態でひたすらヒロが送ってくる短文のメッセージを何回も読み返した。

いまだにヒロがこんな人間だったということに驚きと恐怖が冷めない。

というかメッセージのやり取りでこんなに怖い思いをしたことはなかった。



コツ、コツ、コツ


外の方から足音が聞こえてきた。

その瞬間、何か嫌な予感がしてさっきまでの恐怖が比べ物にならないくらい、心臓がバクバクしてきた。


キッチンの窓からは歩いている人の影が見えて、ぼやけてはいるものの男性のようなシルエットだった。


コツ、コツ……ピタリ。


今度はその足音が玄関の前でやんだ。


ガチャっガチャガチャガチャ


「な、何で…」


その男はドアノブをまわし、必死で開けようとしていた。

俺は恐怖で声が出そうになったが、家の中に誰かがいるということバレないように口を手で塞いだりして音をたてないようにした。


すると、男はドアノブから手を離し、今度は奥へ歩き出した。


「ただいまーー」


「おかえりーお父さん」


「いやー家間違えちゃったよー」


「また間違えたのー?馬鹿だなー!」


隣の家から明るい声が聞こえてきた。

それを聞いた途端だっくりして、無駄に神経をすり減らしたことに気づいた。


「はぁなんだよ…驚いちゃったよ」


玄関で腰が抜けたようにして座り込んだ俺は、その後帰ってきた母親や弟君に驚かれつつも、何とかこうして一日が終わった。



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