第五話
私は沼田芽衣子。
人見知りで地味な私と反対にキャピキャピしたすご~く可愛いthe 女子のクラスメイトと馴染むのは至難の技…
そして自分は完全なるアニメオタク…
周りの女子は全員アイドルとかモデルとかの話しばかりでアニメの話を一切しない。
だから友達も出来ず一人ぼっちになっていた。
でもそんな中、同じクラスメイトのヒロ君に恋をしてしまった。
なぜかというと、ヒロ君は私の大好きなアニメキャラの龍ケ崎君にそっくりだったから!
私はそれに気づいたその日から完全にヒロ君の大ファンになってしまい、授業中もヒロ君の似顔絵をノートに書いたりしてうっとりしていた。
でもそんなことをしているうちに徐々に周りのクラスメイトにその行為がバレてしまったようで私はしばしばイケイケの女子グループにいじめられるようになっていた。
でもそんな中自分がいじめられてるところを私の王子様であるヒロ君が助けてくれた!
すごく嬉しかったんだけど、その後も昼食を一緒に食べてくれたり色々お話出来ちゃった!
こんなことあっていいんだ!って心の中で何度も叫んだけど、この幸せはそんなに長くは続かないってすぐに冷めてしまったりした。
でもある日朝起きたらなぜか同じクラスメイトのたかし君になっていた!!
最初は何が何やらで訳がわからなかったけど、たかし君のお母さんは優しくて部屋も綺麗に片づけられてて、私の家と全く違うってことに気づいた!
しかも、たかし君はヒロ君の一番の友達だし学校で毎日ヒロ君とたくさん話せる!
だから正直このままずっとたかし君でいたいって思ってしまった…。
本当はこんな願望抱いたらダメなのに…
この生活は長く続かないだろうなって思ってるけど、神様どうかもう少しだけ時間を下さい…。
「はあ~よく眠れた。ってあれ?!ここどこなの?!」
びっくりするぐらい綺麗に片づけられた部屋。
時計を見るとすでに9時を過ぎていた。
いつもなら休日でも5時に怒鳴り起こされるが、私以外に誰もいない様子…。
「あっそうだ!私たかし君になってるんだった!」
昨日起きたことをやっと思い出し、夢でも妄想でも何でもないということを再確認しつつ、起き上がって顔を洗うのにキッチンの方へ向かった。
バシャッバシャッ
フキフキ
「ふぅーすっきりした!今日もたかし君で良かった…ん、手紙ある…なんだろ」
キッチンの方を見るとテーブルには4行程のメモが置いてあった。
「たかしへ
仕事遅刻しそうで作りおきあんた分まで作れなかったから冷蔵庫にある食材で自分で作ってね♥️お母さん今日も頑張ってくるよ!」
そのメモはお母さんの愛情こもったたかし君へのメッセージだった。
「お母さん・・・優しい。仕事、頑張って!ご飯くらい毎日当たり前のように作らされてたから大丈夫!にしても本当にたかし君はお母さんに愛されてるんだね。ハートまで書いてて羨ましい!」
たかし君のお母さんの愛を感じつつ、今日は本当になにもすることがなくて、仕方ないから図書館に行くことにした。
本好きでもある私は暇になると図書館に出かけてじっくり過ごす。
でもたかし君に断りなしで図書館に出かけていいのかよくわからないけど。
まぁたぶんたかし君も私と同じように好きな事してるだろうし、私もいいよね!
「よし、着替えちゃお。あ、でもたかし君のパンツ姿見てしまうことになる…まぁでも男の子だしそんなに恥ずかしくなるような事じゃないよね!」
そんなこんなで着替え始めた私…
でも途中、重大な事に気づいてしまう…
「いや待て、待て、待て。私が着替えるということはあっちも着替えてるってことだよね…ぁああああああ」
わ、私裸とか見られたかな…
私は昨日からお風呂に入っていない…もしかしたらたかし君は私の体になってからお風呂入っているかもしれない…となると、とんでもなく恥ずかしい…もう生きてられないくらい恥ずかしい……
はぁもう諦めよう。
考えたって仕方ない…
この生活が一生続くわけないし、取り敢えずそういう羞恥心は考えるだけ神経すり減らされてストレス溜まるだけ…
うん、良くない良くない。
「よし図書館に行こ」
ガチャリ。
「はぁもう帰りたい……お母さんに会いたいよぉ」
沼田さんになって二日目。
今日も朝から起きて、というか絶対に起きないと二度目はない。
沼田さんのお母さんはいつも家事をせずに沼田さんにやらせていた。
昨日は朝しなかったらめちゃくちゃ怒られてびっくりした。
本当は今日もヒロんちに行こうと思ってたのに……
「あたし今日は彼の家に行くんだから、しっかり子守りしとくんだよ?わかったね?」
「わかったよ…」
「ばう~あう、キャっキャ」
沼田さんのお母さんはまだ2才の赤ちゃんを沼田さんに任せて連日彼氏の家に遊びに行ってるらしい。
他人のお母さんだけど、こんなクズな人初めて出会った……。
沼田さんはこんなお母さんに耐えて学校のいじめも耐えて来たんだと思うと何て強い人なんだと実感した。
「そんじゃあねぇ~後はよろしく頼んだよ~」
ガチャリ
沼田さんのお母さんが出ていくと力がどっと抜けた。
「はぁ、ゆうごめんな…朝からうるさかったよな」
沼田さんの弟は「ゆう」という名前だった。
だけどゆうが言葉を理解出来るのかはよくわからないけど、とりあえず話しかけてみた。
「お姉たん、げんき、げんき!」
「え!ゆうお前話せるのか!う、うん。ありがとぉ」
予想だにしない答えが返ってきて嬉しくて孤独だった心に勇気が芽生え、何としてもこのゆうは俺が守らなきゃならねぇと心に誓った。
「って、俺どうやって育てりゃいいんだ?赤ん坊なんて育てたことねぇしな…全くもう」
「まんま!まんま!」
「あーわかったわかった!今ご飯作りますからね~」
「てか、ご飯ってなに食わせりゃいいんだよぉぉお」
またまた絶望的になった俺は近隣の事も考えずに叫んでいた。
「あ、でもネットで調べればいいのか!よしpcどこかな~」
ある程度周りを見渡したがpcなどない・・・
「ってねーじゃねーかよっ!!」
思わず一人でツッコんでしまったが、となると残るはスマホのみ・・・
そしてもちろんスマホは沼田さんのものだ。
「はあ・・・やっぱりパスワードあるよね・・・しかも他人のスマホなんて・・・ましてやクラスメイトのスマホなんて見たらめちゃくちゃ嫌われそうだ・・・」
沼田さんのスマホを片手に持ったまま、またまた絶望してしまった。
「あっ!そうだ!沼田さんに聞きに行けばいいんだ!沼田さんなら実の弟の事だしさぞかし心配してることだろう!よし、行くぜ!」
一番先に思いつきそうな事にやっと思いついた俺は直ちに着替えて出ていく準備をすることにした。
でもどうしようか、当たり前だがゆうを置いて行くなんて出来ない。
もし連れて行くにしてもこんな夏の炎天下の中歩いていくなんてこの子に何かあったらもちろん俺のせいになっちまう。
しかも最悪なことに沼田さんちから俺んちまでなんと徒歩40分・・・
子供を乗せられるようなチャイルドシート付の自転車があればいいのだが・・・この家にはそういう自転車もない。
「どうすりゃいいもんか・・・」
またまた絶望的になった。
今日だけでもう5回くらいは絶望してる気がする・・・
「そうだ。図書館へ行こう」
図書館なら確かここから5分でつくくらい近いところにある。
昨日ヒロんちに行く途中にすぐ図書館が見えた。
そんな感じで最終的に図書館に思いたった。
まずはゆうを外着の服に着替えさせて、念のためおむつを1枚鞄の中に入れた。
そして脱水症状が起きないように冷蔵庫にあるリンゴジュースをストロー付きのペットボトルに移し替えて持っていくことにした。
これでゆうの準備はできた。
「よし着替えるか・・・あっ」
しまった!俺そういえば沼田さんになってからお風呂一回も入ってねー・・・
しかも・・・服着替えもしてなかったぜ・・・
さすがに同じ服は気持ち悪いし周りに匂うだろうからここは絶対に服を着替えたいところだ・・・
仕方ない。沼田さん・・・ごめん!
ちょっと・・・ドキドキするけど!
まあ沼田さんだって俺の身体で何してるかわからないし、着替えとか当たり前なことをしないのは沼田さんの名誉にも関わることだからやっぱり仕方ないことだよね!
でも沼田さんは女の子だしな。
傷つくことはしたくないし、俺も極力目をつぶるとかできることをしてあげることがベストだろう。
そして俺は近くにあったまだ一回も使ってないいい香りのする女の子らしいピンクのシンプルなtシャツと下にはジーパンをはくことにした。
「あ~いい匂いだ~。ほんのりと甘くて、ミステリアスな香り~。つまり女の子の匂いグフフフ 」
ちょっと変態チックだが思春期真っただ中の俺にとっちゃこれくらい仕方ないこと。
たとえ本命でない沼田さんだとしても女の子というだけでとんでもないことなのだ。うむ。
よし目つぶろ~
「うわ、こ、これは難しすぎるぅ。いつもなら目つぶっても感覚的にわかるけど、沼田さんの服めちゃくちゃ小さくないか・・」
サイズが小さいのか女の子はこのサイズが当たり前なのかよくわからなかったが、とりあえず10分くらいこの服と格闘してやっと着替え終わった。
もちろん沼田さんの下着など見ていない!!
「やっと目開けられる~~~え・・・なんでお前ここにおるの・・・」
目の前にはヒロがいた。
どうやら勝手に入ってきてたらしい。
「お、おいお前、まさか沼田さんの下着姿見たのか!!!ずるいぞ!!許さん!いつからいたんだ!!」
「おいおい、そこじゃないだろ。そんなことよりまだ沼田さんのままだったんだな。そっちの方がやばいだろ」
ヒロは一瞬あきれ顔になりつつ、いつも通り冷静を保った顔だった。
女の子の着替えを見ていたというのに何にも反応してないのはおそらく男子高校生の中でこいつだけだろう。
女子はこういうクールで下心を見せないまるで清純派何とかと言われているような奴が好きだったりするだろう。
でも現実は違う。
こういう時に興奮しないということはそれだけの経験値を持っているかゲイだったりするのだ。
つまりヒロは前者。
こんな時でさえ俺はこいつの余裕を見せつけられるのかと思うと腹が立ってくるが、ここはひとつ人生の先輩として尊敬することにした。
「いやまあそうなんだけど、なんで入ってこれたんだよ!!」
「インターホン押しても出てこないしからドア開けたら入れちゃったよ~ん」
「それは気づかなかった・・・。そういや沼田さんのお母さん出てからドアそのままだったし、インターホンももしかしてぶっ壊れてたのかも・・・何にも聞こえなかった。」
「ま、それはいいとしてお前結構着替え始めからいたわけ??無言で??」
「そうですけど?」
ヒロは何のためらいもせずにはっきり言いきった。
清々しいくらいに。
「な、なるほどな。俺はまだ一回も見てないのに・・・」
なんで俺はこんなことでもヒロに先越されてしっまったのか。
考えれば考えるほど敗北感が否めなくなるのでもう気にしない!!
「にしてもたかしその服なかなかピッチピチだね。体のラインがめちゃくちゃ浮き出てるよ。」
「う、うるせーーこれしかなかったんだよ!!親友の俺に対して変なこと言うな!!」
「たかしっていうか沼田さんだけどね。たかしは真面目だから見ないんだろうけど。」
「お、お前~~~!!!瑠美ちゃんという女神様がいるというのに沼田さんまで狙う気か!!フフ残念だったな、今は中身俺だ!!つまりもうお前に勝ち目などないのさ!!」
「フフフ、どうかな~~??」
その瞬間ヒロが俺の腰に手をまわして一気に体を引き寄せた。
距離が縮まってヒロの顔がびっくりするくらい近くにあった。
ヒロの顔は近くで見てもやっぱり美しくて結局俺が女の子に生まれてきていてもヒロみたいなやつに惚れるんだろうなと少し考えてしまった。
っていけないいけない。この状況はなんなんだって!!
「な、なにすんだよ!!」
「どう?女の子になった気分は」
「なんだよその質問・・・人のこと研究対象みたいに聞いていやがって・・・気分なんて最悪だよ・・・」
ヒロから見たらやっぱり俺のことなんて他人事。
ちょっぴりむかついてしまった。
ヒロはまだ俺の腰をつかんだまま離さなくて男のヒロに力で勝てるわけもなく、俺は顔を下に向け早く放してくれと願いながら嫌な顔をしていた。
「ちゅ」
突然何が起きたかわからなかったが、急にヒロが片手で俺の顎を上げてすぐさま額にキスをしてきた。
「な、なにすんだよよよよよよよよよよ!!!!!」
ヒロが力を緩めたすきに俺はすぐさまヒロから離れた。
俺は顔全体が熱くなるのを感じ、心臓の音も聞こえてくるくらい大きくなってたぶん顔が赤くなってるだろうなと確信した。
「何ってキスだよ。女の子だし額にキスすればちょっとは元気出るかなって」
「はあ??お、お前わかっとんのか???俺は男だぞ!!!ゲイじゃないんぞ!!!」
ヒロはとことん失礼なやつで無神経でいらないところで天然を出してくるから俺はめっちゃ困る。
あと女慣れをしているかのような自然で少女漫画のような立ち振る舞いにも困惑する。
「わ、わかったって!ごめんて!でも顔赤くなってるぞ。少しは女の子楽しめた??」
たかしの顔が赤くなってる。
これは結構勇気のいる行為だけどそれでもやって本当に良かった。
「お、お前~~~~!!!やっぱりお前は男の敵だ許さん!!罰として今日一日付き合え!!図書館デートだ!!」
「は、はあ???てかなんで図書館なんだよ」
なんで俺が男の敵なのかわからないがとりあえず
たかしに事情を説明してもらい納得した。
「まあしかたないね。たかし一人じゃ解決しないわ。」
「うん、そういうことだ」
僕たちはそうしてまた新たな課題であるゆうの子育てのために図書館に出かけることにした。