第二話
次の日の朝
僕は《例の液体》と《紙コップ二個》、《二人の髪の毛をそれぞれ別々に分けて入れておいた小袋》を鞄の中に入れ、家を出た。
いつもなら登校中は何も考えずにひたすら歩いて学校に向かうだけだった。
でも今は違う。
どうやってあの二人に飲ませようか。
もし本当に二人が入れ替わったら何をしようか。
そんなことを考えながら歩いていた。
おそらくこんなことを考えてるのは世界で僕だけだろう。
それだけは確実だ。
教室に着いていつもの席に座る。
教室にはまだ数人しかいない。
まだ一限まで時間がある。
そんなときはいつも本を読んでる。
でも本はつまらない。
やることがないから何となく、テキトーに本をチョイスして読む。
ただそれだけだ。
ちなみに本は教室の一番後ろの窓側にある棚になん十冊か置いてある。
僕はそこから本を取って読んでるが、もう全部読み終わったので二週目に入っている。
本を読みはじめてから15分くらいの時、教室の扉が勢いよく開いた。
ガラガラっ
たかし「はぁはぁ、遅れるとこだったぜ…。皆おはよ!ヒロもおはよ」
すでにクラスメイトがほぼ集まってる中、
たかしは遅刻ギリギリでやって来た。
クラスメイト「おはよー」
ヒロ「おはよ。たかし。」
芽衣子「お、おはよ。たかしくん」
たかし「お、沼田さん珍しい!初めてだね。」
芽衣子「う、うん。だめ…だった?」
たかし「全然そんなことないって!むしろ良いことじゃん!」
芽衣子「うん!ありがとう!」
僕のとなりの席に座ってる沼田芽衣子が珍しくたかしにだけ「おはよ」と言った。
もしかして昨日たかしが良くしてくれたから気をよくしたのか。
だとしたらやはり気持ち悪い。
少し褒めただけで勘違いして近づいてくるそこらの女と変わりない。
たかし「あ、そーだ!沼田さんさー、もしだったら今日一緒にご飯食べない?いつもあの空き教室で一人で食べてるでしょ?どうせなら一緒に食べよーよ!」
沼田さんはいつも購買の向かいにある空き教室で一人で食べている。
俺は購買に行くとき、時折ドアのガラス越しから見える寂しそう沼田さんを見て、少し可哀想に感じていた。
俺はいじめとか許せないし、仲間はずれも許せない。
沼田さんとは昨日の件からこれ程仲良くなれたのだ。
当然このキッカケも逃すわけには行かない。
ヒロは沼田さんと一緒に食べたいかわからないけど、心の優しいヒロならきっと賛成してくれるだろう。
そう躊躇わず、沼田さんを誘った。
芽衣子「本当に?嬉しい!でもヒロ君はいいの?それに一組の田中さんもいるよね…何か申し訳ないな。」
沼田芽衣子の顔がしょんぼりしだし、少し微妙な空気になる。
たかし「大丈夫だって!俺ら人数多い方がいいし!なぁ?ヒロ!」
ヒロ「うん。僕はもちろん歓迎だよ。でも瑠美にも一応言っておかないとかもね。沼田さんのこと、瑠美はよくわからないしね。」
突然たかしが沼田芽衣子も一緒に食べようと言い出した。
正直そこまでたかしがこの女に同情するとは思ってなかった。
僕は咄嗟に思ってもないことを言いつつ、瑠美がいることをアピールして、何とか諦めてもらおうとした。
たかしは昔から正義感が強く、僕と違って誰でも助けようとする。
一方僕は自分にとってメリットのある人間、興味のある人間にしか関わろうとしない。
しかも沼田芽衣子とは何を話せば良いのかも全くわからない。
僕は沼田芽衣子とご飯を食べたって何にもメリットはない。そう思っていた。
でもそこで、僕は朝の事を思い出した。
これはある意味大きなチャンスじゃないのか。
僕は今日、たかしと、沼田芽衣子に同じ飲み物を飲ませなきゃならない。
その方法を朝考えていたが、その方法が見当たらず、中半諦めていた。
だが、今日それが出来るかもしれないのだ。
このチャンス逃すわけには行かない。
そう思った。
そして何とか口実を作ろうとした。
ヒロ「あっ。そう言えばさ、瑠美今日学校休むって言ってたわ。この間名古屋まで仕事行くって言ってたろ?」
たかし「あー!あれって今日だったの?んじゃ沼田さん入れたら瑠美の代わりみたいになるね!w」
瑠美が仕事で学校を休むのは本当の事。
これはすごくラッキーな事だった。
正直瑠美が今日いたとしたら、この二人だけが飲んでほしいあの液体を瑠美も飲むことになっただろう。
そうなると面倒くさい。
例の液体は僕が見る限り二人分の量しかなさそうなのだ。
だから一緒にいられると困る存在だった。
僕は本当にツイてると思った。
芽衣子「ほ、ほんとに?二人と一緒にご飯何て、すごく嬉しい!誘ってくれてありがとう!」
たかし「やったー!良かった良かった!な!ヒロ」
ヒロ「うん。本当に良かったよ。」
僕は満面の笑みでそう言った。
その後すぐに一限が始まった。
それから時間はあっという間に過ぎて、またすぐお昼になった。
たかし「飯だ飯!購買に行かなきゃ!ってあっ!今日は弁当持ちだった!」
たかしはいつもなら購買に行くが、今日は久しぶりに弁当らしい。
実は母子家庭だったたかしは、母親が朝から夜中までずっと働いてて、その忙しさ故、なかなか弁当を作ってやれない。
そんな理由がある。
だからここまで人を思いやれる人間にたかしは育ったのだろうと僕は思う。
ヒロ「おー珍しいね。たかしが弁当持ってくるなんて」
たかし「いやー昨日珍しく母ちゃんが仕事休みだったんだ。それで昨日のうちから作りおきしといてくれたんだ!」
ヒロ「良かったじゃん。ていうかめちゃくちゃくうまそーだな」
たかしが弁当を開けると、そこにはウインナーや卵焼きブロッコリーに鮭…
どれも色とりどりで弁当には持ってこいの定番おかずだった。
たかし「だろ?母ちゃんは料理得意だからな!」
たかしの弁当で盛り上がっていると、そこへ沼田芽衣子がやって来た。
芽衣子「あ、えーとお…お邪魔します。」
沼田芽衣子は盛り上がってる空間に入りにくそうに少しぎこちなく言ってきた。
たかし「沼田さんどーぞどーぞ!ここ座って!」
たかしは明るく紳士に沼田芽衣子に接した。
芽衣子「ありがとうたかし君!」
すぐにまた沼田芽衣子は笑顔になり、席へ座った。
僕らはそれから食べ始めて、主にたかしが中心になって僕らの輪を繋げてくれた。
女子G「何なのよあいつ。田中さんがいない間にあんなにヒロ君と仲良くなってて。調子こくのもいい加減にしろっての!」
女子G「だよね。何かおかしいよ。あいつは勘違いブスなのに。何でなのよ。」
ヒロ君と彼女の田中さんは学校一美男美女カップル。
学校中でそう言われている。
なのに、あの沼田芽衣子という女はそれを無視して、ヒロ君に近づいてる。
こんなの許せない。
沼田芽衣子には痛い目見せてやらないといけない。
たかし「はあーおいしかった!久しぶりの弁当はやっぱ最高だ!」
食べ終えたたかしは幸せそうに言った。
その後すぐに僕も沼田芽衣子も食べ終えた。
たかし「あ、そういえば、飲み物持ってくるの忘れた。ちょっと自販機行こうかな。」
たかしは喉が乾いてるらしい。
これは今しかないと感じた。
ヒロ「あ、たかし待ってくれ!」
たかし「お?なにーなに」
ヒロ「あのさ、僕の父さんがアメリカに仕事で行ったときに、お土産としてアメリカで流行ってるジュース買ってきてくれたんだよね。」
たかしと沼田芽衣子は「へー!」と興味ありげな顔で僕を見つめてきた。
ヒロ「実は今日持ってきたんだ。二人に飲んでもらおうと思ってさ。」
たかし「え?いいの!やった!」
芽衣子「わ、私もいい…のかな。すごくうれしい!」
僕は満面の笑みで「うん、もちろん」と言った。
鞄の中からピンクの液体の入った瓶と紙コップを出してさっそく準備した。
僕はバレないよう紙コップを膝の所に持っていき、それぞれの髪の毛を一本入れた。
あとはピンクの液体を注ぎ、髪の毛が溶けるのを確認すると、それを二人にそっと渡した。
たかし「うわーめちゃくちゃピンクじゃん!こんなの渋谷とかにいけば、売ってそうだな!女子が皆飲んでそうだ!」
芽衣子「ほ…ほんとだ。すごいピンク。何か匂いが…すごく美味しそう。」
確かに僕も初めて匂いを嗅いだが、不思議と今までに嗅いだことのない匂いで、でもすごく美味しそうな匂いがした。
たかし「さっそく飲むぜ!ゴクゴク」
たかしがいきなり飲んだ。
それに続けて芽衣子も飲み始めた。
ドクドクっ…ドクドクっ…
僕の心臓の音がよく鳴る。
何故か今さら怖くなってきた。
これを二人が飲み干したら…
本当に体が入れ替わったら…
それを飲ました僕はきっとすぐに二人から責められるだろう。
僕は冷や汗を流し、二人の様子を伺った。
たかし「おいしー!ごちそうさま!ヒロ!」
芽衣子「すごく美味しかった!なんと言うか初めての味!ありがとうヒロ君」
二人ともキレイに飲み干した。
が、二人の口調はいつも通りだった。
二人の体が入れ替わってる様子はない。
そして二人は数分たっても変わった様子はなかった。
授業が始まっても
放課後になっても変わらなかった。
そのまま部活に行って終わった後も、結局たかしは何も変わった様子はなかった。
騙されたのだ。あの女に。
変わると言っておいて何も変わらなかった。
僕は狐につままれた気分で家に帰った。
家に着いた。
疲れまくってた僕はすぐ自分の部屋に行き
ベットへ横になった。
はぁ、やっぱりあれはデマの嘘っぱちだったんだな。
僕は騙されたんだ。
本気になってた僕が恥ずかしい。
でもだとしたらあの女は何のために僕にあのジュースをくれたんだ?
たかしも沼田芽衣子も普通に飲み干してて毒じゃ無さそうだったし、あの女自体結構美人だった。
もしかしたらあの女は本当に入れ替わった成功例なのか?
もしかして僕は、失敗してしまったのだろうか。
例えば飲む時の時間帯とか日にち、何かしらの条件を満たさなければ成功しなかったのかもしれない。
でも女はそんなこと言ってなかった。
いや、もしかすると僕が聞いてなかっただけかもしれない。
騙されたとはいえ腑に落ちないし、僕が失敗した可能性だってある。
そんなことを考えながらその日はそのまますぐに寝てしまった。