転生したら想い人が天然たらしだったんですけど!?
「絶対守るから」
そういって私の手を引いてあの家から連れ出してくれた。誰にも頼ることができなかった私に救いの手を差しのべてくれた。初めてみる物やはじめて食べるもの。すべてが新鮮で毎日が楽しかった。今日はどんな初めてがあるのか、朝目を覚ますとワクワクが止まらなかった。それも貴方のおかげ。貴方が私に自由をくれた。そう言って感謝の気持ちを伝えると貴方は嬉しそうに笑う。
周りが私に向ける笑顔はどれも仮面のように張り付いたものばかりだった。内心では何を考えているのか分からない、上っ面だけの笑顔。でも貴方の笑顔は本物だと思う。そう思えた。
私は貴方のことがどんどん好きになっていった。守られるだけじゃなくて貴方を守れるようになりたいと思うようになった。
どれだけの時が経っても私は貴方のことを好きでいる。そして守ってみせる。どんな困難からも絶対に貴方だけは守ってみせるからーーーー
~~~
「ちょっと聞いてよ楓花!二組に山本って人いるでしょ?あの人がなんか私の事目の敵にしてるみたいでね、理由はわからないけどマジでうざいの!」
「また何かやらかしたんじゃない?明日香は無意識に人が傷つくこと言うからなぁ」
「そんなことないと思うけど……」
ぶつぶつと文句を言う明日香。明日香がここまで人を嫌うのは珍しい。山本って人何したんだろう。
明日香と私は高校の入学式の時に知り合った。クラスが同じで席も隣同士だったから話しやすかったし何より明日香と仲良くなりたいと思ったんだ。なんでかはわからないけど。
「ちょっと聞いてる!?」
「はいはい。聞いてるよ」
「もぉ、それ絶対聞いてないやつでしょ」
「…………」
ほんと、なんで仲良くなりたいだなんて思ったんだろうか。私は本音を言うと明日香のようなうるさい子があまり好きではない。もっと大人しめな子の方が好きだ。
ならなぜ明日香と友達になりたいだなんて思ったのか。それはさっきもいったがわからない。
「そんじゃ、ばいばい。また明日ね」
「うん、また明日」
手をふって別れる。
明日香は笑顔で手をふっていた。
明日香の笑顔に懐かしさを覚えた。どこかで見たことがあるはずなのに思い出せない。忘れちゃいけなかったはずなのに。忘れたくなかったはずなのに。思い出せないんだ。
「なんだろうなぁ、これ」
すごくモヤモヤする。明日香を見ていると胸が締め付けられる。それがなんでなのか。
私は知りたい。
知らなきゃいけない。
「おはよ、明日香」
「おはよ~」
明日香は眠そうに瞼を擦った。
「ふぁ~」
「どうしたの?今日はやけに眠そうじゃん」
「いや、それがさ~。世界を救うために仲間と一緒に悪の親玉と戦ってたんだけど苦戦しちゃって。だからあんまり眠れてないんだよね~」
「なるほど。深夜までネトゲをしていてあんまり眠れなかったと」
「まあ、そうともいうね~」
「ばかなの?」
「なっ!」
「今日は数学のテストなんだよ?なのに勉強もしないでゲームばっかりしてたら赤点取っちゃうかもよ?」
「だ、大丈夫だし!私天才肌だから!一度聞いたこととか見たものは忘れないからねっ」
本当かな~?
このときの私は甘くみていた。明日香と言いう生き物を甘くみていたのだ。
「あ、あり得ない…………」
「ね? ね? いったでしょ? 私は絶対記憶能力があんのよ。だから勉強なんてしなくても大丈夫なの!」
明日香は見事に百点を取ってきやがった。すべてに丸をされ、ピンなんてひとつもない。
「不公平だぁ…………」
「で、楓花は何点だったの?」
「ぐっ」
「私ばっかり見せんのはそれこそ不公平でしょ。ほら、見せなさいよ」
「うぅ、わかったよ…………」
私は机のなかに隠していた答案を明日香に見せた。
「ふーん、98点か。惜しいね。あとちょっとで100点取れてたのに」
くそっ、嫌みにしか聞こえない。夜遅くまで勉強してこの有り様とはなんとも情けない。思えば昔からそうだった。頑張って結果を出そうと努力はしているのに毎回一位には届かない。
両親は誉めてくれるけど私は納得がいかない。だから頑張ってるんだけど全然成果が現れない。
絶対記憶能力ってなに?おいしいの?
現実逃避をしていると明日香が口を開いた。
「まあ、元気出しなよ」
「ーーうるさい」
「楓花は人に好かれる才能があんだからさ」
「何いってるの?私人に好かれる才能なんて全然ないよ?なんか睨んでくる子もいるし、逆に嫌われてると思うんだけど」
「あー、それは…………」
途中までいって明日香は口を閉じた。そして悩ましげな表情になりかと思えば笑顔になった。
「教えな~い」
「なっ。 なんなの?途中までいったんだから教えてよ!」
「やだ。誰が自分が不利になるようなことを言いたがるっての?」
「不利?何が不利になるの?」
「教えな~い」
「もぉ、なんなのさ…………」
明日香は楽しそうにニコニコと笑っている。私は諦めてため息をついた。
「えへへ」
ほんとに楽しそうに笑うよな、明日香って。見てるこっちまで笑顔になってしまう。
私に人に好かれる才能なんてない。あるのは明日香の方だ。明日香は口は悪いし態度がでかいけど、面倒見は良いしリーダーシップがある。明日香を嫌いな人もいるだろうけど大半は明日香のことが好きだと思う。
私だって明日香のこと、それなりに好きだと思う。
「いいよね、明日香は」
「なにが?」
「明日香は勉強できるし友達だって多いし人に好かれるじゃん。私なんか頑張ったってテストで百点はとれないし、友達だってあんまりいないし、話したことない子には睨まれるし。私は頑張ったって中の上くらいの結果しか出せないもん」
「そんなことないよ」
「え?」
うつむき加減になっていた私は、明日香のはっきりした否定に顔を上げた。
「楓花は努力家だし困ってる人がいたら自分が犠牲になっても助けようとするでしょ?そういうところ皆にも伝わってると思うよ。楓花は誰よりも優しい思いやりのある子なんだって」
この時の明日香はビックリするほど優しい顔で笑っていた。温かい、どこかで見たことがあるような気がするのに思い出せない。
モヤモヤする。
「だから自信持ちなよ。楓花は自分が思ってるよりすごい奴なんだから。それに周りの奴が楓花をどう思おうが私は楓花のこと好きだしね」
「ーーーあっそ」
「あ、照れた? 照れたよね?」
「うるさい」
「もぉ、素直じゃないんだから~。まあそんなところも私は好きだけどね」
その一言で全身に熱が籠る。恥ずかしいような嬉しいような、くすぐったいような空気が流れる。
真っ正面から好きって言われるとなんだかあれだね。照れるね。
「明日香~、ちょっと来て~」
「へーい」
明日香は友達に呼ばれ、そっちの方に行ってしまった。明日香は私と話してたのに、と少し思ったことは秘密である。
「好きです!俺と付き合ってください!」
私は今告白現場に居合わせていた。なぜこうなったかというとただの偶然で、明日香と一緒に帰ろうと思って探してたら偶然告白している現場に居合わせてしまったのだ。
立ち聞きなんて悪趣味だよね、うん。早く明日香見つけて帰ろう。
「ごめん」
聞き覚えがある声が聞こえてきた。私は悪いとは思ったけどチラッと除くことにした。
あ、やっぱり明日香じゃん!
「ーーーどうしてですか?」
「私、好きな人いるから」
「そう、ですか」
「うん。だからごめん」
「わかりました…………」
そういって男子の方は去っていった。とぼとぼと歩く後ろ姿は、私が見ても胸が締め付けられるものだった。
「さてと、帰るかな」
や、やばい。
明日香が私が隠れている方向へ近づいてくる。見つかったらなんて言われるかわからない。見つかるのだけは回避しなければ。そう思ってはいたのに焦りすぎて足が絡まり、私は勢いよく転けてしまった。
「あれ、楓花じゃん。どしたの、そんなとこに寝そべって」
「あ、あははは。ちょっとここで寝てたんだー」
我ながら言い訳が下手すぎる。明日香だって何言ってんだこいつって顔になってる。
「んー、まあ良いや。ほらいつまでも寝そべってないで立ちなよ」
「あ、ありがと」
私は差し出された手を取った。
「んじゃ、帰ろっか」
「そ、そうだね」
「………………」
「な、なに?」
じーと明日香が私をみてくる。
「楓花、さっきの見てたでしょ」
「っ な、なんのことかな~」
「嘘つくの下手すぎ。棒読みになってるよ」
うぅ。そんな呆れた顔で私を見ないでくれぇ。
「ーーーうん、見てた、ごめん」
「? なんで謝んの?」
「え、怒ってないの?」
「なんで怒るの? 楓花は私を探しに来てくれたんでしょ?それくらい分かるよ。他の友達と帰っても良かったのに私を待っててくれたってことでしょ? それで怒るとか意味わかんないんだけど?」
「え? あ、うん」
なんだかうまく解釈してくれたみたいだ。
助かった、のか?
まあ怒られずにすんだのは良かった。
「ーーー明日香ってモテるんだね」
「意外だった?」
「ううん」
意外ではなかった。明日香って毎日楽しそうだし、その楽しみに恋人と過ごす時間も設けているんじゃないかとか、優しいところとかあるし、告白もされたことだってあるんだろうなぁって思ってた。
でもなんでだろう。いざそういう場面を見せられると変な気分だ。
「私、好きな人がいるんだ」
「え?」
にっと明日香は私に笑いかけた。
「誰だと思う?」
「ーーーそんなの、わかんないよ」
「教えてほしい?」
どうなんだろう。私は明日香の好きな人を知りたいんだろうか。友達の好きな人とかはそれなりに気になるものだ。人の恋愛話って聞いてて面白いし気になるけど明日香のは聞きたくないような気がする。でもやっぱり知りたいような。
うーん、よくわからない。
「悩んでるってことはちょっとは気になるんだ~」
ニタニタといやらしい笑顔。
「ま、まあちょっとは気になる、けど」
「そっかそっか~」
くっ、その顔やめろ!その小バカにしたような笑顔を今すぐにやめろ!
「私の好きな人はねぇ」
え?
明日香が私の頬に触れてきた。そしてーーー
ちゅっ。
キスをされた。頬に、だけど。
「なっ」
「無防備過ぎ。もうちょっと警戒しとかないとね」
「は? え?」
なに? なんなの? もしかして明日香ゲームのやりすぎでで頭がおかしくなったの?
「何その顔。絶対ろくなことかんがえてないでしょ」
「い、いや、別になんにもっ」
「あっそ。まーそれはそれとして。私の好きな人、これでわかった?」
これとはキスのことでしょうか。私は明日香にキスされた。つまり明日香は私の事を、そのー、好きってことなんだろうか?
え、ちょっと待って。そもそも明日香は女の子だよ?私だって女だし好きとかそういうのってあるの?ありなの?
「えーっと、つまり明日香は同性愛者、ってことなの?」
「んー、ちょっと違うかな~。私は女が好きなんじゃなくて楓花が好きなの」
「ーーー理由、聞いても良い?」
「聞かれても答えないよ~」
「なん…………っ」
私は息を飲む。
「さ、早く帰ろう」
「あ、うん…………」
明日香は笑っていた。
笑っているのに泣いているように見えるのは何でなんだろう。
もぉ、わけわかんないよぉ…………。
明日香のことそんな目で見たことなんてなかったし、これからどう接していけばいいの?
なんにも分からない。明日香を見てるときに感じるこのモヤモヤとか、明日香が何を考えているのかとか。
もー、なにもかもが分からないよ…………。
明日香からの衝撃的な告白から数日が過ぎた。その間明日香は何事もなかったように私に接してきている。本当にいつも通りだったから、あの告白はもしかしたら私の夢だったんじゃないかって思えてきた。
いや、夢で明日香に告白されるとか私の方が明日香のこと好きなんじゃないか?
でもそんなことあり得るのか?私、明日香のことそれなりに好きなだけで超がつくほど好きって訳でもないんだぞ?なのにそんな夢見るはずないよね?
まぁ夢だった方が良いかもだけど。
「楓花、ちゃんと聞いてる?」
「あ、ごめん。なんだっけ」
「もぉ、ちゃんと聞いてよー」
「ごめんって」
普通だ。明日香との会話に違和感はない。何もかもがいつも通りだ。
明日香を見るとモヤモヤするし、なんでモヤモヤするのか知りたいと思っている。私の考えは変わっていない。明日香の傍にいれば、いずれは思い出せるような気がするんだ。私が忘れたくなかった記憶を取り戻せるような気がするんだ。
だから今は明日香の気持ちとか他のことを考えるのはやめておこう。私はそんなに器用じゃないからどちらかが疎かになってしまう。そんなの不真面目だ。自分のためにもならない。
チラッと明日香を盗み見る。
「ん?どうしたの?」
「いや、なんでもない」
明日香が私の事を好きだろうが、今の私はそれに応えることはできない。
ごめんね。
心のなかで明日香に謝る。
明日香がいつも通りで接してくれているから。だから私はそれに甘えることにする。私は明日香を失いたくないから。この関係を、壊すことはしたくないから。
<明日香>
ほんと、夢かと思った。生まれ変わりって本当にあるものなんだと身をもって知らされた。でも私は生まれ変わりたかった訳じゃない。あの子の傍にいたかっただけ。あの子がいないなら生まれ変わる必要なんてなかった。むしろ生まれ変わりたくなかった。
私は五歳のときに前世の記憶を思い出した。人は皆前世があるんだと、私は思う。ただ忘れているだけで誰にだって前世というものは存在するはずだ。
「明日香はどれにする?」
落ち着いた声が私を現実に連れ戻す。顔をあげるとキョトンと首を傾げる楓花の顔があった。
「あ、えーと。どれにしようかなぁ」
「迷うよね」
本当に悩んでいるのか楓花は眉を潜めている。
私たちはクレープ屋に来ている。私が食べたくなったからだ。楓花は私のわがままについてきてくれただけ。
楓花を横目で見る。ボーイッシュって言うんだろうか?楓花は髪をバッサリ切っていて一見男の子のように見える。顔も可愛いって言うより凛々しい感じ? 女受け良さそうな顔をしている。おまけに優しいし、困っている人がいたらすぐ助けにいくし、イケメン過ぎる行動が目立つ。
そんな感じだから男子にはあんまりモテてないけど女子にはモテモテなのよね~。告白されそうになっていたところを何度か見かけたし、その度に私は邪魔しにいっていた。
いやはや、無自覚イケメンの人気は恐るべし、だね。
「よし、決まった。明日香は?」
「んー、私はストロベリーで」
「わかった。あの、ストロベリーとバナナチョコクレープをください」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員さんが店の奥に入っていった。
すると甘ったるい匂いが漂ってくる。
「美味しそうな匂いだね」
「そうだね~」
私はまた楓花を横目で見た。楓花に告白してからもう二週間が過ぎた。私はその間何事もなかったかのように振る舞っているが内心ではドキドキしぱなしだ。楓花からの返事を期待している訳じゃない。いや、それもちょっとは期待しているけど今は楓花に前世の記憶を思い出してほしい。
楓花は絶対あの子だから。一目見てわかった。楓花があの子なんだって。直感ていうんだろうか。
前世の私が大好きだった人。でも楓花は記憶を失っていた。それが当たり前で普通のことなんだけど、私だけ覚えてて楓花は覚えてないなんて寂しいから、私は楓花に前世の記憶を取り戻してほしい。そして今度こそはーーー
「明日香、はい、クレープ」
「ありがと」
いつの間にかクレープは出来上がっていたらしい。私は楓花からストロベリーのクレープをもらった。
「ん~、やっぱりクレープ最高!」
「ほんとに美味しいね」
「うん!」
私は、はむはむとクレープを味わって食べた。すると視線を感じて顔を上げた。私を見ていた楓花だった。
「どうかした?楓花」
「うぇ!? な、なんでもないよっ」
「うそ。なに?何か言いたいことがあるならはっきり言って」
「うっ」
じっと楓花を見る。目なんかそらせないんだから。
数秒見つめあっていると楓花が観念してポツポツと話し出した。
「明日香のクレープ、美味しそうだな~って、思っただけ」
「なんだ、そんなこと。一口食べる?」
「え、いいの!?」
「? 別にいいよ、一口くらい」
「いや、そうじゃなくて…………」
「なに? まだなんかあるの?」
「ーーーーじゃない?」
「え、なんて?」
「か、間接キス、嫌じゃないの?」
瞳を潤ませ、私の顔を不安げに見つめてくる。
間接キスって……。
「私は別に嫌じゃいけど?普通じゃない?間接キスなんか」
「そ、そっか。じゃあ一口貰おうかな」
「はい」
わたしは楓花の前にクレープを持っていった。
「じゃ、じゃあ一口だけ……」
「うん」
楓花は恥じらいながらクレープに近づき、ぱくっと本当に一口サイズだけ食べた。
「んー、ストロベリーも美味しいね」
「でしょでしょ」
「うん」
楓花は薄く微笑む。私も連れて笑顔になった。
やっぱり似てるな、あの子に。
容姿とか髪色とか声は全然違うけど、柔らかい物腰や優しすぎるところとか、雰囲気が似ている。
「それじゃ私も一口もらうね」
「え?」
ぱくっと楓花のクレープにかぶりつく。甘ったるさが口に広がる。
「んー! 楓花のも結構美味しいね!」
「ちょ、食べ過ぎだよ!」
「一口もらっただけだけど?」
「その一口が大きすぎ!」
「あはは」
「笑ってごまかそうとしてるじゃん!」
「まあまあ、いいじゃん別に」
「もぉ…………」
文句をいいながらも楓花は毎回喧嘩になる前に引いてくれる。本人が無意識で喧嘩を遠ざけているんだろうけど、私は正直すごく助かっている。
私はこんな性格だから友達とも結構喧嘩していたのだ。でも楓花とは一度も喧嘩したことがない。それは楓花が喧嘩になる前に引いてくれるから。私は喧嘩したら引かないタイプだから楓花みたいに引いてくれるのはすごく助かるのだ。
んー、間接キス、か。
楓花って意外と潔癖性なのかな?それとも私の事を意識してるとか?
ーーーやばい。そう考えると無性に恥ずかしくなってきた。
「明日香?」
「うぇ!?」
「顔赤いけど大丈夫?熱、あるんじゃない?」
「な、ないない!全然熱なんてないから!心配しなくていいから」
「でも…………」
「大丈夫、大丈夫たがら!」
「そ、そっか」
「うん」
「「……………………」」
なんなの、このいたたまれない空気。私が意識しすぎなのかもしれないけどこれは絶対私だけのせいじゃない。
楓花が間接キスとか言い出すから…………。
だから意識しすぎてしまっているんだ。
うん、そうに違いない。
「そ、そろそろ帰ろっか」
「そ、そうだね」
私たちは無言のまま家に帰った。
私は全身の力を抜いてソファにもたれた。
今日は一段と楓花のことを意識してたと思う。だからかすごく緊張した。
「早く、思い出してくれないかなぁ~………………」
楓花が前世を思い出したら、私の事、気づいてくれるよね?わかってくれるよね?
会いたいよ、志織。
私が求めているのは楓花であって楓花ではない。私は楓花じゃなくて楓花の前世を追っている。それは楓花に失礼なことだってわかってるけど、仕方ないじゃん。私は志織に会いたいんだ。会って、言葉を交わして、ハグをして伝えたい。前世の時は言えなかった想いを。楓花にはもう言っちゃったけど、志織にはまだだから。
だから、早く思い出して、楓花。
でないと私、淋しいよ。
私だけこんなに楓花のこと好きだなんて嫌だよ。楓花に私の事を好きになってもらいたい。そして前世の私の事を思い出してほしい。それが私たちの願い。
「好きだよ、楓花」
どこが好きだとかいうの恥ずかしいから言わないけど、私は楓花が好き。とにかく好き。
だから楓花も私の事を好きになって。
お願いだから。
<楓花>
「あんたさぁ、調子に乗ってない?ちょっと可愛いからって何でもかんでも許されると思わないでよね」
「私がいつ調子に乗ったっていうの?仮にそうであってもあんたに言われる筋合いないんだけど」
うわぁ、挑発してるよ。
やっぱり穏便にってわけにはいかないか。
私は今、体育館裏に来ている。なぜかというと明日香が体育館裏に連れていかれるところを目撃したからだ。それも二三人に。全員名前は分からないけど顔くらいは覚えている。全員二組の子達だ。
「っ そういう態度が調子に乗ってるっていうのよ!」
「あっそ。そんで用事ってこれだけ?なら私教室に帰るから」
「あ、ちょっと待ちなさい!」
先ほどから大声を出している子が明日香の腕を掴んだ。明日香を引き寄せるために力を込めたのか明日香は体勢を崩してしまった。そしてそのまま地面に尻餅を着いた。
「いたっ」
「ふ、ふん!あんたがいけないんだからね!」
あの子は何をいっているんだろう。まずは謝るべきだろ?なのにあんな高飛車な態度をとって何様なんだろうか。
さすがに見逃せなかったので私は明日香の元へ足を動かした。
「明日香っ」
私が名前を呼ぶと明日香は顔をあげ、ビックリしたかのように目を見開く。
「先生が明日香に用事があるんだって。だから来て」
尻餅を着いたままの明日香に手を差し出す。でもなかなか取ってはくれなかった。
「明日香?」
明日香は動かなかった。いや、動けなかったんだ。明日香の肩は少し震えていた。
「ふ、楓花さん!?な、なんでこんなところに…………」
「明日香に用があったから。あの一言言っても良いかな?」
「は、はい!」
なぜか目をキラキラして私を見てくる。何を期待しているのか分からないけど、少なくとも彼女が今考えていることではないのは確かだ。
「今後一切明日香に関わらないで」
睨み付けながらはっきりと拒絶の意思を見せる。彼女は目を見開き固まってしまった。
「ほら、明日香。先生が呼んでるから早くいこ」
「え? あ、はい」
私は明日香の手を取って二人でこの場から離れた。
やってしまった。
別にあんなにきつく言わなくても良かったんじゃないか?なのに睨んじゃったし…………。
「はぁ…………」
「ーーー楓花ってやっぱり優しいね」
「え?」
「あんなの放っておいてもよかったのに私を助けるために嘘まで付いてくれたんでしょ?」
うっ、全部お見通しと言うわけか。
明日香は微笑んだ。
「そういうところ…………めっちゃ好き」
「!?」
「あはは、何その顔。私前に告白したじゃん。そんなに驚くこと?」
「い、いや、だって。あの告白から結構たつし………………」
「変わってないよ、私は楓花のことが好きなまま」
「そ、そうなんだ」
「うん」
なんか、恥ずかしいな。
返事、した方がいいんだろうか? ーーーしたほうが、いいよね。
私は深呼吸をして、明日香を真剣な顔で見つめた。
「明日香、私ーーー」
声が震えてはっきりと聞こえてないかもしれない。
顔なんて真っ赤で恥ずかしがってるのが一目でわかると思う。
頭がくらくらしてきた。
返事をするのが怖くて、今まで何も言わなかったけどやっぱりこんなの良くないって思うから。
だからーーー
「私は、明日香のことが好き…………みたいです」
言った!言ったぞ! やっと言えた!
私は明日香から告白され、明日香という存在が私にとってどんなものか考えてみたのだ。考えないでおこうと思ってもそんなの無理だった。意識しないようにしたら逆に意識していた。それでなんか、今までとは違ったモヤモヤがでてきて、明日香が他の人と話ているところを見ると、その………………嫉妬していた。
嫉妬=好き、なのかは分からない。好きの定義とか難しすぎて理解できないけど、私はーーー
「明日香が好き」
好きだと思う。これがただの思い込みなのか、そんなのわからない。人間誰しも思い込みで出来ているものなのかもしれない。だって好きは目に見えないけど皆好きをもっている。
だから思い込みだろうがなかろうが、私は明日香のことが好きだ。
「それ、本気でいってるの…………?」
「うん」
「私のこと、好きなの?」
「うん」
「私、性格悪いし口悪いけど、それでもいいの?」
「うん」
「さっきみたいなことこれからも何回かあると思うよ?」
「その時は私が助ける。今度は明日香が怪我する前に駆けつける。絶対守るから」
<明日香>
「絶対守るから」
それはずっと昔にあの子が言ってくれた言葉。あの子はその言葉通り私を守ってくれた。どんなことがあっても傍にいてくれた。だから私は、あの子のことを好きになったんだ。
私の前には顔を真っ赤にしている楓花がいる。
好きだと、言ってくれたのだ。楓花が私の事を好きだと。
こんなに嬉しいことはない。なのに嬉しいはずなのに、涙が出てくるのはなんでなんだ?
「あ、明日香!?」
「な、なんでもないの。う、嬉しいだけだから」
本当に嬉しいだけだ。嬉しすぎて涙が勝手に出ているだけだ。
楓花に好きって言ってもらえた。嬉しい。まじで嬉しい。前世の時は私の片想いだったけど、今世では両想いになれたんだ。
見るからに楓花は前世のことを思い出してはいないけれど、それでも楓花は私の事を好きだと言ってくれた。ずっと前から恋い焦がれていた相手に好きだと言ってもらえた。
「私も、好き。ずっと好きだった!」
「あ、ありがと………………」
より楓花の顔が赤く染まった。モテるくせに自己評価が低いから告白されかけても気付かなくて、その間に私が邪魔に入っていったから私からの告白が初めてだったんじゃないかと思う。もし私より先に誰かが楓花に告白していたら、楓花はその子を好きになっていたかもしれない。
私は感極まって楓花に抱きついた。
「好き・・・好き・・・大好き」
「う、うん。私も…………」
楓花はまだ前世を思い出してはいないけど、いつか絶対に思い出してもらう。そしてもう一人の楓花に伝えるんだ。昔の私の想いを。
でも今は、この幸せに身を委ねよう。何も考えずに、幸せすぎるこの空間を味わう。
これからが私の・・・私たちのスタートだ。
すんごい疲れたぁ…………。
こんだけ一気に書いたの初めてですわ…………。
急に思い付いたので書き始めたんですけど、こんなに長くなるとは。
まぁ最後まで書けたんで投稿します。