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夏は輝く  作者: 高乃優雨
第一章 烏合の集
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「コーヒー牛乳」

皆さんは学生時代に何を飲んでいましたか?

僕は学校の自販機で午後ティーをよく買って飲んでいました。

なんだか午後ティーを飲むと女子からモテると思ってました。

 入学してから早くも、3ヶ月が経とうとしていた。しかし、凛太朗りんたろうは特に行事に積極的に参加することもなく、授業中は寝るか、窓の外を眺めるかの二択だった。その結果、当然孤立を極めることとなった。

それは別に凛太朗にとっては辛いことではなかった。元々男子は少ないし、どうせ目立たない。そう思っていた。

 桜商は圧倒的に女子が多いため、六組ある中の一年一組、二組が女子だけのクラス、女子クラスというのが存在するのだ。凛太朗の三組は四十人中、十三人しか男子はいない。これは、他の四組、五組、六組も同じである。

 クラスメイトである勝部涼かつべりょうは、容姿端麗で人当たりも良くクラスの人気者だ。しかし、休憩時間などは独り読書をしていることが多い。そこがギャップというらしいが、とても理解できなかった。

 午前中の退屈な授業が終わる。昼休憩になると、自動販売機のある食堂へ向かうのが日課だ。お目当てはコーヒー牛乳である。

 凛太朗は身長が伸びたのは、全てコーヒー牛乳のお陰であると考えている。

 幼い頃から牛乳だけは、大の苦手で飲めなかったのだが、中学一年生のある日、母親が牛乳嫌いを克服させようとコーヒー牛乳を買ってきてくれたのだ。それから、コーヒー牛乳のあまりの美味しさに虜になった。それ以来、毎日のように飲み続けた。馬鹿みたいに。

 そして、どういったわけか中学三年間で20センチも伸びたのだった。

これはコーヒー牛乳のお陰だと言っても過言ではなかった。

 高校生活の中でコーヒー牛乳を買いに行く時ほど、心が躍る時間はない。

 親から毎日貰う百円玉を、握りしめ階段を駆け下りる。そして愛しのコーヒー牛乳がある自販機に百円玉を入れ、力強く購入ボタンを押す。

 コーヒー牛乳を買うと、売り切れの文字が点灯する。最後の一個だったのだ。


「あぶねー。ラッキーだったぜ」


 すかさず自販機から紙パックのコーヒー牛乳を取り出す。

 躊躇する事なく飲みながら教室へ向かう。もし生徒指導の先生にでも見つかれば反省文ものだろう。

 階段を上っていると、物凄い勢いで階段を降りていく一人の女子とすれ違う。

 階段を登りきると、教室の曲がり角で何かにぶつかる。

ぶつかった衝撃で尻もちをつく。手に持っていた飲みかけのコーヒー牛乳は廊下に落ちて、中身が少しでていた。


「いたたた。君大丈夫?」


 凛太朗の正面には、同じく尻もちをついた女がいた。

溢れたコーヒー牛乳を見て、絶望のあまりすぐに起き上がることができなかった。

 しかし、女も尻もちをついたまま固まっていた。


「え、嘘⋯⋯ 。なんで君がここにいるの⋯⋯ 。いや、他人の空似だってこともあるし⋯⋯ 。でもこんな目つき、他にはいないと思うし。けどこんなにも陰気そうな人だったっけ⋯⋯ 。もっとイケメンかと」


 女は声を震わせていた。


「おい、それほとんど悪口だろ」


 女の言葉に目を細める。

 すると、階段の踊り場から声が聞こえてくる。



「真帆ー! 早くしないとミーティング遅れるよー!」



「ごめーん! 今行く! えっと⋯⋯ それごめんね! 私、急いでるから!」


 女は足早に去っていった。


「くそ、ついてない」


 中身の無くなったコーヒー牛乳をゴミ箱に捨て、独り雑巾で床を拭く。


「なんで俺が拭かなくちゃいけないんだよ」


 学校で唯一の楽しみを邪魔されたうえに、後処理までさせられているこの状況が許せなかった。

 もし、次会ったら文句を言ってやろう。

 その為に午後からも睡眠に勤しむのだった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「起立! 礼! ありがとうございました!」


 学級委員が元気な声で号令をする。クラスメイト達はすぐさま部活へと駆け出す。

一年生の宿命だろうか。

 教室に残るのは話し足りない帰宅部の連中か、特に帰ってもすることのない凛太朗がいるだけだ。

 この教室の窓から外を眺めるのが好きだ。この校舎は丘の上にあるためとても見晴らしが良い。考え事など吹っ飛んでしまう。

 窓から顔を出して眺める。グラウンドには部活動に励む生徒達が映る。


「よくあそこまで夢中になれるな」


 凛太朗にとって、部員達と笑顔で汗を流し切磋琢磨している姿は嫌悪感しか抱かない。


「あー。それわかるよ。そんなに努力してなんになるんだって、話だよな」



 凛太朗の独り言に、髪を長く伸ばした少年が反応する。


「勝手に反応するな。そして俺の隣にくるな」


 いつのまにか勝部も窓から外を眺めていた。


「んだよー。いっつも外見てるからさ、綾瀬の目には何が見えてるか気になっただけだよ」


「お前さえ隣にいなけりゃ、綺麗な景色が見えたさ。じゃ、帰るから」


「相変わらず、きついねー」


 勝部を払いのける。

 いつもヘラヘラ笑って変な奴だ。


「桜商新聞?」


 下駄箱には大きな記事が貼り出されていた。

 そこには、


(桜商女子野球部!! 今年も全国選手権大会出場なるか!? 一年生エース、西野真帆にしのまほがチームを引っ張るか!)


 といった記事とともに、おそらくエースであろう女の投球フォームが写真付きで掲載されている。

 そしてその隅に小さく、


(桜商男子野球部、今年も一回戦敗退!! 三年生が引退し、部員激減。存続の危機)


 と申し訳程度に掲載されている。

 桜商は女子野球部が強いというのは、噂では聞いていた。まさか男子野球部があるとはこの記事を見るまで知らなかった。


「ーーにしても。綺麗なフォームだな」


 投手一筋の凛太朗だ。この写真だけ良いフォームというのがすぐに分かる。


「けどこの顔どっかでーー」


「なーに、人の写真見つめてるの?」


 女子生徒が凛太朗の顔を覗く。あまりの距離の近さに思わず仰け反る。


「お、お前はあん時の!」


 コーヒー牛乳の怒りが蘇ってくる。

 この写真の少女とよく似ている。もう一度、写真を凝視する。


「そんな怖い顔しなくたっていいでしょ! それよりも、そんなに私の写真をまじまじと見られたら恥ずかしいじゃない。それとも見惚れちゃった?」


 悪戯に笑い女は顔を近づける。

 にわかに、この写真の少女と同一人物とは信じられないーーが、嘘では無いらしい。

 野球帽子を被り、真っ白な練習着は土で汚れている。どう見たって野球部だ。


「肌が黒すぎて気になっただけだよ」



「なっーーなによ! 白黒写真なんだから肌の色なんてわかんないじゃない!」


 女は顔を真っ赤にして怒鳴る。


「もう! せっかくこれ渡そうと思ったのに!」


 女のポケットからは紙パックのコーヒー牛乳がでてくる。


「お前、それどこで⋯⋯ 。 食堂の自販機は売り切れたはずじゃ」


 おもむろに手を伸ばすが女はそれを自分の背へと隠す。


「お前じゃなくて、西野真帆だから⋯⋯ 。ちゃんと名前呼んでくれたら、渡すから」


「わかった。西野。 そのコーヒー牛乳を渡せ」


 あっさりと呼ぶと、意表を突かれた西野は目を見開く。


「ほら。西野。 黙ってないで渡せ」


 凛太朗は図々しく手を伸ばす。


「もう! 知らない!」


 真帆は乱暴にコーヒー牛乳を渡し、去っていく。


「なんだよ。自分から名前呼べって言ったくせに。わけわかんねぇな」


 凛太朗はすぐさまストローからコーヒー牛乳を吸い上げる。

 やはりこの学校で、仲良くなれそうなやつなんて居ない。としみじみと思うのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「もう! 名前って、言ったじゃない! なんで西野なのよ」


 せっかく練習を抜け出してきたのに。少女は帽子を深く被り直し、全力で走る。


「絶対あの人じゃない。あんなひねくれて、目つき悪くて、愛想のないやつなわけないわ!」


 絶対にそんなはずはないのだ。幼き頃に目にした、光輝いた少年があの男のはず無いのだ。

瞳を閉じると、今でもあの時の光景が浮かぶ。

 あの人はわたしの憧れであり、英雄なのだから。

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