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夏は輝く  作者: 高乃優雨
第一章 烏合の集
38/49

「中途半端な奴ら」

僕は何をやっても中途半端でした。

勝手に自分の限界を決めて諦めてましたねー。

まあ、ただ失敗とかするのが怖かっただけのビビリですね。

 一回表の攻撃は男子野球部から始まる。

 山県が何やら打席に入る勝部に話しかけて、軽く頷いてから打席に立つ。


「てか、()()を打てんのかよ素人が」


 ベンチに踏ん反り返る平川(ひらかわ)が不機嫌そうに言う。

 ()()ーー西野真帆が投げ込みを行なっていた。

 たった数球見ただけで素人じゃまず、打てないだろうと分かってしまうほど、えげつない球を投げていた。


「なあ、あのフォームどっかで・・・」


 村上が呟くと、皆が投げ込む真帆の姿を凝視する。すると、全員「あっ」と声を出して一斉に凛太朗を見つめる。


「なんだよ」


「綾瀬と西野さんってすごく似てないかな?」


「・・・あいつの方がよっぽど綺麗で、良い球投げてるよ」


 凛太朗の的をいない回答のせいで村上は、少し困惑した表情を浮かべる。


「それもそうだ!! 綾瀬なんかよりよっぽど西野ちゃんの方がすごいよな!」


 林が馬鹿みたいに大きな声を出す。

 そんな呑気な会話をしているうちに、男子野球部の攻撃は三人でしっかり終わっていた。


「いやー、西野ちゃんすごいよほんと。もしかしたら綾瀬よりもすごいんじゃね?」


「当たり前だろ。俺なんかと比べてやるな。それよりもさっさと守備につけよ」


「へいへい。お留守番よろしくな」


 勝部は凛太朗と山県、二人しかいないベンチを見つめる。


「うるせ!」


 しっしっと勝部を追い払う。

 凛太朗は静まりかえったベンチで、再び頬杖をついて戦況を見つめていると、反対側のベンチに座る真帆と目が合ってしまった。すると真帆はバツが悪そうに帽子を深く被り目元を隠す。


 ーーだからなんなんだよと、理解できない真帆の行動に舌打ちをしてしまう。

 少し苛立っていると、


「この試合勝てると思うか?」


 と山県が訊いてくる。

 数秒の沈黙の後に「どうでしょうね」と凛太朗は答えると、山県は「ふん」と鼻を鳴らして


「平川はうちの貴重なサウスポーだし良いピッチャーだ。けどな」


「けど?」


「良いピッチャー、それだけなんだよ。綾瀬、どうせお前も分かってるんだろ? なあ、なんで俺がお前を投げさせなかったか分かるか?」


「・・・いや」


 凛太朗は依然と頬杖をつきながら、女子相手に苦戦するチームメイト達を見つめている。

 スコアボードには二という数字が書かれている。あれだけエラーをしたら点が入るのも当然だ。

 緊張かそれとも実力か。転がせば何か起こるとはよく言ったものだ。

 さすがに頭にきたのか、平川はマウンドの土を乱暴に蹴り上げる。

 すると「どんまい、どんまい」と林が声をかけるが、大半のエラーは声の主によるものだった。さらに平川の顔が険しくなっていく。


「いいか綾瀬」


 珍しく低いトーンで山県が言った。


「俺はいつも言ってるな? 中途半端な気持ちで高校野球なんてするもんじゃないと。それでも、今も泥だらけになって白球を追いかけている連中からしたら、俺達は中途半端だろうな」


「・・・はあ」


 適当に相槌をうつが、山県は御構い無しに話を続ける。


「じゃあ、いったい何が大切なんだろうな。技術か? 坊主にすることか? 試合に勝つことか? どれも違うな。野球を心の底から楽しむことだよ。だからあいつらは、()()中途半端なんだよ」


「それと俺が投げないの、なんか関係あるんすか」


「お前は中途半端にすらなれていないからだよ。お前の場合、楽しもうとすらしていない」


「ーーなっ」


「見てれば分かるさ。お前くらいだよ、あんなに苦しそうに野球をする奴は」


 自分の中ではちゃんと区切りをつけていたはずだった。真摯に野球と向き合おうと思っていた。心ではそう思っていたけど、体は違ったわけだ。自分では気づかなかった。もしかしたら、周りは気づいていたのだろうか。

 震える右手を見つめる。ほんのり日焼けをした綺麗な手だ。


「綾瀬、お前が投げる時、それはお前が誰に言われるでもなくお前自身が投げたい、野球がしたい、そう心から本気で思った時だ」


 スコアボードを見ると、もう五点も入っていた。平川は大粒の汗を拭っている。

 それでもこんなチームでツーアウトまで取ったのだ。素直に褒められるべきだろう。


 自分が投げたところで状況を変えらるわけじゃない。

 凛太朗は右手を握りしめて俯く。

 結局いつまでもうじうじと塞ぎ込んで、言い訳を並べて逃げる。

 変わった気でいただけで、何一つ変わっちゃいなかった。

 やっぱりそんな自分が大嫌いだ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに試合が始まりましたね! 野球物はここから盛り上がることは間違いありませんので、楽しみにしてます!! [一言] SNSで長らく見かけなかったので心配してました。 体調にはくれぐれもお気…
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