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夏は輝く  作者: 高乃優雨
第一章 烏合の集
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「珍客」

夜中に執筆すると誤字に気づきにくいですよね。

いつも眠くて目が閉じかけてます。

 終業式まで残り三日となり、完全に学校中お休みモードである。


「あと三日かー」


 ワックスで髪を立たせた小柄な男が、窓から身を乗り出し嘆く。

 校舎が丘の上にあるせいなのか、教室には心地よい夏の風が教室に吹き込んでくる。


「なにが?」


 三嶋の隣で同じように身を乗り出した、赤茶色の髪を揺らす勝部が首を傾げる。


「なにがって、あと三日で部員九人集めないといけないんだろ! 普通にやべーだろ」


「あぁ」と勝部は短く唸り、


「俺はてっきり夏休みの補修の話だと思ったよ」


「へ?」


 三嶋はぎこちなく首を曲げ、目を細める。

 桜峰商業高校では、期末テストで赤点を取って追試を不合格になった生徒は、夏休みに補修を受けなくてはならない。


「三嶋は大丈夫なのか?」


 勝部は意地悪く笑い、三嶋を見つめる。

 途端に三嶋の顔色が悪くなる。

 あの表情を見るとどうやら、補修を受けなくてはならないらしい。

 ーー馬鹿なやつ。

 凛太朗は頬杖えをついて、鼻で笑ってみせる。


「綾瀬、お前もだろ?」


 窓から身を乗り出したまま、勝部は言った。

 頭の後ろにでも目があるんじゃないかと、勝部の後頭部を凝視する。


「なんだ、お前も補修かよ! 仲間だな!」


 三嶋は窓にすがり、笑顔で微笑む。


「なんで笑ってられんだよ」


 大きくため息をつき頭を掻き毟る。

 どこか余裕たっぷりの勝部はまだ、窓から身を乗り出しくつろいでいる。


「そいや、お前こそ補修大丈夫なのかよ」


「ほれ」


 勝部から今回の期末テストの結果用紙が手渡される。

 思わず「は!?」と声を出してしまう。急に大きな声を出したものだから、教室中の女子から一気に視線を浴び、縮こまる。


「な、なんだよこれ」


 凛太朗が目にした用紙には、全て100としか記されていなかった。何度も太陽に透かして見るが、どうあがいても100にしかならなかった。


「そゆことだよ」


 勝部はテスト用紙を取り上げ、それを紙飛行機にして窓から投げたのだった。


「綾瀬知らねーの? こいつ見た目こんなんだけど、チョー頭いいんだぜ?」


 開いた口が塞がらなかった。正直、勝部も全く勉強ができないと勝手に思い込んでいた。

 人は見た目で判断するもんじゃないと思い知らされる。


 毎日のように放課後になると、勝部と三嶋に首根っこを掴まれ、凛太朗は強引にグラウンドに連行される。

 抵抗するだけ無駄だと悟り、大人しく引きずられてやるのだった。

 グラウンドには坊主の男と、見慣れない制服姿の男二人がいた。

 坊主の男は村上だろう。村上は常に誰よりも早くグラウンドに出て準備をしている。


「誰だろうな?」


 三嶋が勝部に問いかける。


「さあ?」


 どこか素っ気なく答える。

 男二人は村上に対して頭を下げていた。


「本当にすまん!」

「ごめん!」


 謝罪をする二人に村上はたじたじだった。

 どこかで見た事があると、凛太朗は目を細める。


「ーーあっ」


 思い出した。あの二人は以前に、村上を虐めていた二年生二人だ。


「ーーあっ」


 二年生二人も凛太朗達に気づき激しく動揺する。

 勝部は軽く会釈をするが、凛太朗はどこか気まずく目をそらす。


「だれ?」


 三嶋は二人を指差す。勝部は「うーん」と語るのを躊躇うが、


「あー、その人らは元野球部で村上を虐めてた二年生だよ」


 凛太朗は御構い無しに話と、二年生は顔をしかめ俯く。

「おいおい」と勝部が凛太朗を見るが、「ふんっ」と腕を組み知らん顔をする。


「あ、あの時は本当に悪いと思ってる」


 そう言って二年生の一人が地面に膝をつける。それを見てもう一人も同じようにする。


丸子まるこ先輩⋯⋯」


 村上が小さく呟く。

 村上に対して特に酷い扱いをしていたこの華奢な男は丸子というらしい。


「俺達、本当に反省したんだ。それで、どうしても謝りたくて」


 もう一人の男が地面に手をつく、今にも泣きそうな声だった。

 名札を見ると「佐々ささき」と書いてある。佐々木は頭を地面につける。まさにそれは土下座と呼ばれるものだった。

 丸子も隣を見て、少し驚いた顔をして「すまなかった」と言って頭を地面につける。


「いや、そこまでしなくても⋯⋯」


 村上は慌てて頭を上げるように促して、どうしていいか分からないといった顔で、凛太朗達を見つめる。


「ほんとに謝りたいだけか?」


 凛太朗は土下座をする二人を見下ろす。


「⋯⋯また野球部に入部させてほしい」


 丸子が声を震わす。


「はっ。なんだよそれ。自分勝手すぎんだろ」


「⋯⋯わかってる。けど本気で野球やろうとするお前らを見て、わかったんだ。俺達も野球が好きだって。許して欲しいだなんて思わない。ただ、俺達も野球がしたいんだよ⋯⋯」


「俺は今でも、先輩達がしてきた事を許す気はありません」


 村上の言葉に二人は何も言えず、ただ惨めな姿を晒し続ける。

 しかし、ただ」と前置きをし、


「先輩達が、野球を好きな気持ちは分かりました。先輩達が一緒に野球をやってくれるというなら大歓迎です」


 ゆっくりと腰を下ろし、村上は先輩二人に手を差し伸べる。


「いいのか⋯⋯」


「はい! でも俺達は本気で甲子園目指すんで、そこんとこよろしくお願いしますよ!」


 先輩達二人の目からは涙が溢れ、しばらくその場を動かなかった。

 凛太朗は腕を組んで渋い顔をするが、勝部と三嶋だけはなんだか穏やかな顔をしていた。


「いいのかよ」


「いいんじゃね」


 凛太朗の言葉に勝部は笑って答える。

 その後、林がグラウンドにやってきて、更に話がややこしくなったのは面倒だから触れないでおこう。

いやー、長くなった部員集めもようやく終了かな?どうかな?

あれ?凛太朗は?と思いの方もいらっしゃると思いますが、それはまた後々描かせていただきます!次話もお楽しみに!

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