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夏は輝く  作者: 高乃優雨
第一章 烏合の集
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「野球は大嫌いなんだよ」

夏って本当に一日中暑いですよね。暑いの苦手です。

学生時代は必ずカバンにシーブリーズを忍ばせてました。

そのお陰でカバンの中で中身が全部溢れるなんて事もありました。

カバンに何も入ってなくて良かったです。

 あつい。真昼間ではないのに夏特有のこの暑さ。

 凛太朗の真っ白な制服に、汗がにじむ。

 学校の駐輪場は校舎から離れており、小さなグラウンドを通り過ぎなくてはならない。

 お陰様で、駐輪場に行くだけでこの様だ。


 グラウンドの隅を歩いていると茂みに硬式の野球ボールが落ちていた。

 凛太朗にとっては、ひどく懐かしい物だった。ボールを拾って、軽く投げる素振りをしてみせる。


「はぁ」


 小さくため息をつく。ボールを拾ったことを後悔し、茂みへ投げ捨てる。


「き、君!」


 もしかして、見られたのかと恥ずかしくなり、振り向かずに足早に立ち去ろうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ。すごく綺麗なフォームだったよ」


 頭を丸めた男は、その場を立ち去ろうとする凛太朗の手を握る。


「なっ! 急いでるんだ離してくれ」


 凛太朗は目を輝かせている男の手を、振り払う。


「ごめん。つい思わず。もし、野球が好きだったら一緒にーー」


「やらない」


 凛太朗は再び歩き出す。


「待って待って! 俺、一年五組の村上誠也むらかみせいや!  野球部なんだけど、二年生が二人、一年生が三人でさ、全然人数足りなくて大会にも出られない状況でさ⋯⋯」


「ふーん。二年生っていうのは、あそこでバット持ってる連中か?」


 小さなグラウンドの真ん中に、制服を着たままバットを振り回す生徒がいる。


「う、うん⋯⋯」


 村上は拳を握りしめ俯く。


「おーい! 村上ぃ! さっさとボール拾って戻ってこいや」


 二年生が大きな声で村上を呼ぶ。村上のどこか幼さが消えない顔がこわばる。


「は、はい! 今行きます! あの、名前だけ教えてよ」


「⋯⋯綾瀬だ」


「綾瀬ね! 絶対また誘うから! またね」


 村上はグラウンドに待つ先輩達の元へと駆けっていった。

 凛太朗は前髪を搔きあげ、茂みに投げ捨てたボールを見つめる。


「はぁ、めんどくさいことになんなきゃいいけど」


 そう言って凛太朗は、なるべく陽に当たらないように、影を踏み駐輪場へと向かうのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 昼休憩になると毎日、凛太朗のいる三組までやってくる男がいる。

 そして今日もーー。


「おっす! 綾瀬、考えてくれたか?  野球部に入る話!」


 坊主頭の男は、なんの躊躇いもなく他クラスのドアを開け詰め寄ってくる。


「なんども言ってるだろ。野球は大嫌いなんだ。それと頼むから教室には入ってくんな」


 クラスの女子達の視線が、二人に注がれる。


「あんな綺麗なフォームしてるやつが、野球嫌いなんてわけないだろ? 頼むよ。このまんまじゃ廃部に⋯⋯」


 顔を近づけてくる村上を手で押しのける。


「いいか? 俺は野球なんてやらないし、興味もない。俺を誘う暇があるなら他当たれ」


 しっしっと、手で村上を払う。


「なんでそんなに野球を嫌うんだよ」


「別にお前に話す理由はない」


「⋯⋯もういいよ。しつこく誘って悪かったな」


 村上は肩を落とし、無理に笑顔を作る。


「野球がやりたくなったら、声かけてくれよな! いつでも大歓迎だから!」


「ああ」


 頬杖をつきながら短く答えた。

 村上は静かに教室を去っていく。

 あんな落ち込みようを見ると、少し悪いことをした気持ちになってしまう。けれども自分が野球をするのは、許されないのだ。


 これ以上俺は、兄に迷惑をかけるわけにはいかない。

 机に顔を伏せる。


「野球なんて大嫌いだ⋯⋯ 」


 そんな凛太朗の姿を納得のいかない表情で、勝部は見ていた。

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