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俺の弟が気持ち悪すぎてしぬ【休止中】  作者: ポール
第1話 俺の弟が気持ち悪すぎてしぬ
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1.俺の弟が気持ち悪すぎてしぬ

 ――あったかい。

 もうそれだけで無理。布団から出るなんて絶対無理。


 こんな十二月の朝に布団から出るなんて、無理なものは無理だ。だいたい少し前に夜が明けたばかりなのだから、もうちょっと寝ていたって許されるだろう? 朝練とか言って真っ暗な時間に起きる奴らはどう考えても未来の社畜候補だ。

 お外が薄暗いうちは、人は素直に寝るものである。俺、前田健介(まえだけんすけ)はウィンタータイムの採用を提唱します。

 真冬のお日様はじりじり昇り、すぐに俺の部屋を真っ白に染め、室温を上げていく。次第に首元が汗ばみ、寝苦しくなってきた。横向きから仰向けになるよう転がって、うっすら目を開けたときだった。


「んーっ…………♡」


 我が「弟」の、ぷにっぷにの唇が、俺の唇に重なる数秒前だった。


「あああああああああああああ!」


 恐怖! 一瞬にして覚醒した俺は羽毛布団を蹴っ飛ばし、腰の関節をグリンと回転させることで上半身をしならせ、本気で目の前の顔をブッ叩いた。変態は「きゃうん」とぶっ飛ばされるとベッドから転がり落ち、涙目でキッと睨み上げてくる。


「何するのお兄ちゃん!」

「何するのじゃねえよ!? お前がいきなり何しようとしてんだよ!?」

「何って、――――ちゅう♡」


 あっあっもうダメやばい。一日の始まりから大変申し訳ないのですが、コイツもう殺していいですか? 

 枕元に隠してある護身用の鈍器を取り出そうとしたが、大きなため息が出てきてしまい手を止める。バカバカしくなったのだ。


 前田ツグミ。中等部一年生。


 この床に座り込んでメソメソ涙粒を浮かばせ、じぃっと俺のことを見つめている「男」がそうだ。足を横に揃えるようにして床に投げ出し、腰部をねじったポーズで俺を見上げている構図は単刀直入に言って超キモい。


「もう。お兄ちゃんったら乱暴すぎだよ」

「お前が悪いんだろうが!」


 ツグミは立ち上がると、衣類に付いたホコリをぱっぱと払う。

 男の分際でフワフワとしたエアリーボブ。髪の色素はとても薄く、顔立ちも声の質もかなり女の子に近い。俺とは違って生まれつき蒼い瞳を持っていて、日本人とは思えない特徴的な姿をしている。


 誰もが口をそろえてツグミを「かわいい!」と大絶賛。

 駅前で変な輩から声をかけられるのも、クラスの女子にコスプレを依頼されるのも、きっとコイツならではだ。


 何それありえねえ。

 どいつもこいつもツグミに弱みでも握られてんの? 

 そうだとしたら直ちに兄としてツグミを折檻し、関係各所に土下座して回らねばなるまい。


 今だって俺がアマ●ンでうっかりポチってしまい、大きすぎて着ることができなかったゆるゆる超ロングまっしろ袖余りカットソー一枚だけの姿でこの場にいるのだが、正直申し上げまして激しい怒りと生理的な嫌悪感しか湧き上がりません。下着付けてないことだってとうの昔に知ってるし、朝日で何か透けて見えちゃってるし、ホントもうね??


「朝ごはんできてるから、ちゃんと食べてね?」

「わぁーったよ。起こしてくれてありがとうな」

「えへへっ、どういたしまして」


 目を覚ましたら悪夢が始まっていたわけだが、これは一体どういうことか。

 それはもういいとして、とっとと制服に着替えてツグミの作ってくれた朝食を片付け、早く一人で家を出てしまおうと思った時だ。


 とても妙なことに気が付いた。

 部屋の中がいつもより明るい。

 太陽が、やけに高く昇っているせいだ。

 まさかと思ってスマホの電源を入れる。

 八時十分。

 目を擦ってから見直してみても、八時十分。

 無意味と分かっていても、いったん電源を入れ直してみても八時十分。たった今「八時十一分」をデジタル時計は表示した。


「っ……、おま、遅刻じゃねえか!?」

「お兄ちゃんいくらゆすっても起きないんだもん」


 これはまずい。ちょっとヤバい。

 不眠症のせいで、ただでさえ余計な遅刻を重ねている現状だ。学費全額免除の上にありとあらゆる待遇の数々を頂戴している「異能スカウト生」が、これ以上失点を重ねるわけにはいかない。

 慌てて寝間着とシャツをベッドに脱ぎ捨て、トランクス一枚になった。もう寒いとか言っている場合ではなかった。


「お前も何のんびりしてんだよ! 早く着替えろ!」

「お兄ちゃんのハダカ……」

「ブチ殺すぞてめえ!?」


 小指を咥えて瞳を濡らしていたバカを蹴っ飛ばし、部屋から叩き出す。

 産まれたまんまの姿になり、清らかな朝日の温かさを股間に感じながら真剣に下着を選んでいたとき。ツグミが扉の向こうでまだ何か言っている。


「ところでお兄ちゃん、そんなに汗かいてちゃ不潔だよね? だから」

「だから?」

「一緒にお風呂入ってから、学校行こ♡」

「………………………………………………」


 ――諸君。

 ここで声を荒げたり、扉を破ってツグミを階段から突き落としたりするようでは兄失格である。この手の会話は前田家のデフォに過ぎないのであり、いちいち些細なことで修羅になっていたら面白いぐらい己の寿命を縮めることだろう。

 この場合の模範解答は、こうだ。


「わかった。先に入ってろ」

「やったぁ♡ じゃあ待ってるね、お兄ちゃんっ」

「ああ」


 変態が階下へ降りていく音を聞いてから、俺はすぐさま洗濯済みのきれいな下着を履き、ワイシャツのボタンを締め、ネクタイもばっちりキメる。

「普通科」の職掌たるグレーのブレザーを羽織り、最後に革製の通学鞄を持った。


「ふんふんふん~♪」


 浴室の扉越しに、真っ白な裸体がクネクネと動いているのを確かめてから。

 朝食など取ることなく家を飛び出て、大急ぎで自転車のキーロックを解除して。

 必死の形相で危険人物からの逃走を図るのだった。

【続く】

※「ボーイズラブ」の表記は、一部分ですが、今後そのような描写が入ることが見込まれるため付けております。


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