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俺の弟が気持ち悪すぎてしぬ【休止中】  作者: ポール
第1話 俺の弟が気持ち悪すぎてしぬ
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17.戦いの幕開け

 先ほどはお騒がせしました。

 つぐみちゃんが想定していた以上に好戦的な性格だったため、驚いています。


 健介くんが話してくれた、昔の事件。

 封印されていた、女の子としての「つぐみちゃん」。


 近いうちに、健介くんたちの過去や事件の真相が明らかになるでしょう。

 つぐみちゃんの正体が判るのも、時間の問題です。

 九割がた、私の中で結論は出ていますから。


 また今度、二人でお話しましょう。

 安心してください。

 次会う時は「別のお話」をしましょうね。

 二人きりでお食事でもしながら……。


 もちろん、つぐみちゃんには内緒でね……♡


(追伸)

 あなたの「血」をつぐみちゃんに与えるようのないよう、くれぐれも気を付けてください。


   ◆◇◆


 投げやりなスワイプでSNSのアプリを閉じた。

 スマホの電源を切り、ソファに放り投げる。俺も寝転がる。

 先輩は五年前に俺たちと出会ったあの日から、つぐみの力に興味を抱いて独自に調査をしていたようだ。それが生徒会長としての使命なのか、異能一族の長女としての義務なのか、単につぐみに興味津々なだけなのか、俺の知ったことではない。

 はっきりしているのは、「先輩の眼中に俺なんか無かった」ということだけ。


「お兄ちゃんっ」


 つぐみがひょこっと、ソファーの背もたれから顔をのぞかせた。


「お風呂の準備が出来ました。お先にどうぞ」

「ああ、ありがとう」


 立ち上がる。

 と同時に、後から感動が追いついてきてスゥーッと熱いものがこみ上げてきた。

 妹のいる暮らし。

 これが本来俺にあるべきものであって、ずっと失われていたものだった。

 朝つぐみにちゅー♡ されながら起こされて、つぐみと一緒にお着換えしてご飯食べて、つぐみと一緒に登校して、お昼はつぐみの作ってくれたお弁当を食べる。

 何それ、すっごい幸せ。

 ツグミ? そんなやつのことはもう忘れた。


「お兄ちゃん、早く行かないとお風呂冷めちゃいますよ?」


 つぐみが小首を傾げて俺の顔を覗き込む。

 ふわっふわの前髪がぱっちりお目目にかかり、そういうのもすっげえ可愛いの。

 ねえ皆さん聞いてください。うちの妹、すっごくすっごく可愛いんです!!

 思わず抱き締めて、ぎゅーってしてしまう。


「んうっ……。ちょっと、お兄ちゃん♡」


 つぐみも小さな手を俺の背中に回し、きゅっと結んでくれた。

 つぐみが可愛すぎて辛い。

 カミサマに泣いて感謝したいぐらいつぐみが可愛い。


「もう、だらしない顔」

「あ……」

「いけないお兄ちゃん♡」


 両目を細め、小さな指先を俺の唇に当ててくる。

 ドッキンと高鳴った音が聞こえてしまったのか、つぐみはさらににゅうっと口角を上げて、妖しく笑ってみせた。


   ◆◇◆


「やっぱ妹っていいなあ!」


 手桶に汲んだお湯を体に浴びながら、しみじみ呟く。

 つぐみが女の子に戻ってくれて、嬉しいことずくめだ。これで俺はホモ兄貴として後ろ指をさされることもなく、今後あんなふわふわきらきらした天使のようなつぐみを関係各所に自慢して歩くことができると思うと小躍りすらしてしまう。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん」


 真後ろから俺を呼ぶ声がした。

 ホモ野郎からエンジェルへと奇跡のような羽化を遂げた、マイシスターのおでましだ。

 ン、ン、と声の調子を整えて、喉の響きを意識したイケメンボイス(福山潤)をひねり出す。


「なんだい、つぐみ?」

「一緒にお風呂入りましょう」


 俺はスゥーーーッと気の遠くなる気がした。

 軽く目を閉じると、今度はフスーーーッと熱い鼻息が出てきた。

 酩酊を伴う甘い響きが、頭の中で何度も何度も共鳴している。

 ふむ。復活早々早速「一緒にお風呂」ですか。

 これが勝ち組の暮らしなんだと実感する。

 ついに紳士の仲間入りをしたのだと感慨にふける。

 すると、扉の向こうで十三歳の女の子が全身を肌色に変えた。

 うおおおおおお! と昂ぶる気持ちを押さえつけ、クールに言ってあげる。


「おいで。体洗ってあげる」


 ――諸君。俺はお兄ちゃんだ。

 つぐみの兄だ。血の繋がったきょうだいだ。

 兄として妹の面倒見ることは権利ではなくて義務である。

 ロリコンだの罵る輩は、そいつの心や目が腐っているに過ぎないだと、あえてバッサリ断言してやろう。

 この兄妹の微笑ましいふれあいを温かく見守ってやれないとは、ああ! 何とまあ、心の貧しいことか!

 そうこうしているうちに戸が開く。冷たい空気が濡れた背中を撫で、ぶるっと震えてしまった。


「待ってたよつぐみ。さ、お兄ちゃんの背中を流してくれ!」

「嬉しい……♡ まかせてお兄ちゃん!」


 ?

 はて?

 今なんか低い声が聞こえた気がしたんだが?

 つぐみはこんな声も出せたのか。いやはや意外や意外。


「ボクの胸やお腹にボディーソープを塗ってね……、」


 な、ワケねーよ。ちげーよ。

 こりゃ男の声ですよ。

 正真正銘、誰が効いても甘ったれた野郎の気持ち悪い声だよコレ。


「背中をくっつけてぇ……、」


 がっしりした硬い胸板が、俺の背中に密着。この瞬間びっしりと全身を覆いつくしたのは寒気による鳥肌ではなく、重度のじんましんだった。


「ごしごししてあげるね! お兄ちゃん!」

「あぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 飛びのいた。湯船にザブンと逃げ込み、がたがたと身を縮こませる。

 全身に白い泡を塗りたくり、胸や股間の要所要所もきわどく隠した、存在自体がお茶の間を凍り付かせてしまうモザイク必須変態男がそこにいた。


「お兄ちゃんなんで逃げるの? 背中流しってって言ったじゃない」

「何で男に戻ってんの!」


 もはや会話なんか成立させてる場合じゃない。

 ねえ俺のつぐみは!? 

 俺のふわふわきらきらしたちょお可愛いつぐみをどこにやったの!?


「おとこ……? 何言ってるのお兄ちゃん?」


 きょとん、と小さく首を傾ける。

 ああ、そのしぐさは共通なんだな……。

 しかしそんな俺の動揺など軽く吹き飛ばす、とんでもないことをツグミは言うのだった。


「ボクは昔から男の子だよ?」

「は」


 こいつは何を言っているんだ……?

 ツグミは俺と違って嘘をついたり人を騙したり、平気でまず友情と親友から売り飛ばすような人間じゃないから、素でそんなことを言っているのだろう。


「じゃ、じゃあ、滑り台での一件は……?」

「もー、今はそんなことよりぃ……♡」


 ぺろり。

 ツグミは舌なめずりを見せて俺を恐れ慄かせると、なんとザブンと湯船に侵入してきた。いい年をした野郎二人が、裸のまま風呂場にいるという異常事態。


「また……ちゅーしよーよお……」


 逃げ場を失った俺の体にすり寄り、唇を突き出してきた我が弟。

 それを聞いて、俺は一瞬ハッとなる。

 ツグミとキスをすれば、またつぐみに戻すことができるのでは?


「なーんだ、そっか! そうすればいいんだ! ……って、誰がやるか! やんねーよバカぁ!」

「お兄ちゃんがしてくれないなら、ボクからしちゃお……」

「おいやめろ、やめてくれ」


 ツグミの唇がどんどん近づく。

 確かにその顔つきはどこか、つぐみに似ている。

 ふわっとしたエアリーボブ。蒼い瞳。

 それでも俺は実の弟に手を出す、あるいは出されるような倒錯した趣味など持っていないし、嫌なものは嫌だ。

 家族愛? きょうだい愛? もう知るかそんなもの!


「お風呂場でちゅーなんて、いけない遊びだね♡」

「やめろお―――――――――――――――――――――――――――――ッ」


 つぐみを本当の意味で元に戻せるまで、俺の戦いは終わらない。

【第1話 おしまい】

ここまで追ってくださった方は本当にありがとうございました。

第2話『図書委員の澄子さん』へと続きます。

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