記憶 ~確かに在った幸せな日々~
ひたすら眩しくて、息を吸えば肺の中が焼き尽くされてしまいそうな……。
それぐらいの、とてつもない猛暑が続いたある日のことだった。
山奥の河原。
四方を深緑に囲まれて、セミの鳴き声が幾重にも重なって響いている。川底の深い箇所では、若い観光客たちが次々と岩から飛び込み、大声を出して遊んでいた。
「お兄ちゃんっ」
振り向くと、妹の「つぐみ」が小さな歯をのぞかせて、笑っていた。
「早く遊びましょ。じゃあママ、パパ、行ってくるね!」
「はぁい、行ってらっしゃい!」
「健介!」
パパに呼ばれる。
彼は今まで見たことのないような「明るい笑顔」で、僕にこう言ったのだ。
「流されないように気を付けろよ?」
「うん!」
返事だけして、僕は大きな麦わら帽子を追いかけた。
◆◇◆
ぽちゃりと膝まで浸かっても、爪の先まではっきり見えるぐらい川の水はきれい。色とりどりの小石の、模様の一つ一つまで確認できる。
「えいっ」
「うわぁっ!?」
そうやって下を向いていたら、いきなり水をかけられてしまう。
変な声を上げた僕を、つぐみは手を口に当ててくすくす笑うのだ。
「うふふ、お兄ちゃんったら変な顔ぉ」
「やったなぁ? こらあっ」
同じように両手で水をすくい上げ、ざっぱーん! とぶっかけてやる。つぐみは「きゃあっ♡」と顔を背けて僕から離れると、大きな岩の裏へ隠れてしまった。
「あっ、待てよ!」
強い流れを一生懸命かき分け、誘われるがまま岩の陰へと回る。すると、つぐみが岩に背中を預けて待っていた。じぃ……と見上げるその視線は熱っぽい。
「お兄ちゃん……」
どくん。
……ああ、ダメだってわかっているのに。
ユラリ、小さな体に迫る。
パパもママも観光客も、誰も僕らの「遊び」に気づかない。
「んっ……ちゅっ……」
「ちゅっ……あう。……おにいちゃ……んっ」
人の目を盗んでする、つぐみとのキスが好きだった。
特に両親に隠れてするキスは、頭の中がぐちゃぐちゃになって、とろけ落ちてしまいそうなぐらい気持ちよかった。
そのとき僕は小学生の男の子に過ぎなかったから、こうやって自分のしたいことをしたいように、どこまでも素直に、率直に、行為へと及ぶことしかできない。
そしてその行為にはあれこれごちゃごちゃ、面倒な意図や下心などなくて――ただひたすら僕の妹が可愛いすぎて大好きだったから――想いのままにつぐみと繋がり続けたのだ。繰り返し、繰り返し――。
「……ふぁっ……、んっ……」
つぐみの下唇から僕の唾液がこぼれ出る。口を開けっぱなしにさせたまま僕を見つめ、はぁ、はぁ、と熱い息を吐き続けた。
それにドキンと肋骨の中身を弾かせた僕は、きっと悪いお兄ちゃんなのだろう。すかさず妹の頬を両手で持ち、再び小さな紅い舌先へと吸い付いてしまう。
「大好き……おにいちゃん……」
つぐみ。
それは僕のかけがえのない、大事な大事ないもうと――。
【続く】
※「ボーイズラブ」の表記は、一部分ですが、今後そのような描写が入ることが見込まれるため付けております。