また明日
「ヨーロッパ公演はいつなの?」
寂しそうにクリスは訊いた。
「三週間後よ。十二月二十日から。少し早いクリスマス公演という名目なの。二日前の午後にこちらを発つわ」
「そうなんだ……もう、すぐだね」
「ええ」
来月になるとぐっと寒くなるだろう。
クリスは寒さが苦手だった。暗くて寒い冬は、悲しい気分をより悲しくする。
ジェニーがいない寒さが増してゆく日々は、よりつらさが身にこたえることだろうとクリスは思った。
「公演前にできればシャツ、作っておくわね」
「えっ……だって、練習で大変なのに」
「ううん。気分転換になるから。バイオリンを弾くのも好きだけど、服を作るのも大好きだから。いろいろしたほうが楽しいわ」
ジェニーはにこっとほほ笑んだ。
「そっか」
自分のためにしてくれるとはいえ、ジェニーが少しでも楽しいのならうれしいとクリスは思った。
「じゃあ……楽しみにしてるね。ありがとう」
「うん」
ジェニーはほほ笑んでうなずいた。
「じゃあ、おやすみ。また明日、会えたら会おうね」
「うん。おやすみ。クリス。よい夢を」
「ありがとう。ジェニーもね。またね」
「うん、またね」
二人は、手をふり合って別れた。
クリスがその夜見た夢に、白い蛾が現れた。
一匹ではなく、二匹だった。
小さな白い二匹の蛾は、仲良く戯れ合いながら、清らかなスミレ色の天を目指して高く高く昇っていった。