一日の重さ
メインディッシュは、鶏のオーブン焼きラズベリーソースだった。
香ばしく焼き上げられた鶏肉の味は淡白でやさしい味がして、ラズベリーソースは甘酸くさわやかで、ハーブ同様二人の精神をなだめてくれた。
「二人とも、デザートのチョコレートケーキは入るかしら? 小さめにしたわ」
食事を終えた二人に、ホリーおばさんがにこにこしながらトレーに二つのチョコレートケーキを乗せて運んできた。
チョコレートでコーティングされた焼き立てのケーキの表面に、小さく白い文字で「dears」と書かれていた。
胸がいっぱいになる思いがした二人は、喜んでうなずいた。
ホリーおばさんの家からの帰り道、二人はまた青い公園に寄った。
噴水のところには、もう白い蛾はいなかった。小さな泉は、夜の間じゅうずっとひかえ目な音を立てて水を噴き上げていた。
「いま、何時?」
クリスはジェニーに訊いたのだが、クリスのことばに反応したネットワークシステムが、噴水の上に「8:45」という電光文字をうかび上がらせた。
二人は、ちょっと苦笑し合った。
とても便利な世の中なのだが、聞き耳を立てられ、監視されている感じが否めない。
「今日ももうじき終わるね」
「うん」
クリスのことばに、ジェニーはまつげを伏せながらうなずいた。
短い人生の彼らにとって一日の終わりは否応なくタイムリミットを意識させずにはいられない。
普通の人々にとって毎日の日々とは永遠につづくようなものとしか感じられないだろうが、一刻一刻を心を命を神経を削られる思いですごす彼らにとって、一日は長く限りなく重い。
その濃密さに疲れ果て、強力な睡眠薬で眠りに就くことは彼らにとって本当に救いだった。
そして、そのまま二度と目覚めないことを彼らはいつも願っていた。
薬によっていつでも自らの命を絶つことはできたが、神の意思によってこの世から解放されることができるならそのほうが望ましかった。