二人の決意
「うん。そんな気もする」
「今度、見せてね」
「うん。ジェニーはなんの曲を練習していたんだい?」
「バッハよ。今度イタリアの三つの都市の教会で演奏会があるの」
「そうなんだ……その間、しばらく会えないね」
クリスは表情を曇らせた。
「うん。でも一週間で回るから、十日もないわ」
ジェニーも寂しそうにほほ笑んだ。
「そうか。でも寂しいな。ジェニーは大丈夫かい?」
「そうね……かなり、きついかも。たくさんお薬飲まなくちゃ」
「まだ……あの薬は飲まないでね」
クリスは、心配そうに言った。
「うん」
ジェニーは、精一杯のほほ笑みをうかべた。
二人は、できればあの薬を、二人でいっしょに飲みたいと思っていた。二人でいっしょに死にたいと思っていた。
もしどちらかが先に一人で薬を飲んだら、すぐにあとを追って薬を飲むつもりだった。
人の生死は世界中のどこでもメディアフォンで確認できる……国際ネットワークに、人々のバイタル情報が(秘匿申請者をのぞいて)開示されているからだ。
「さあ、サラダができましたよ。召し上がれ」
ホリーおばさんが、中型のボウルと二人分の小皿を運んできてくれた。
二人の大好きな、コーン入りのじゃがいもとさつまいものマッシュポテトだった。
「おいしそう」
ジェニーが言うと、
「おいしいわよ」
と、ホリーおばさんは笑いながらサラダを二人分の小皿に取り分けてくれた。
次は、カボチャのポタージュだった。
ホリーおばさんのポタージュは、世界一だと二人は思う。