スミレ色の服
クリスが噴水の近くに行くと、まっ白な小さな蛾が噴水の池の上をひらひらと飛んでいた。
きれいだな、と思いながらクリスが見とれていると、
「きれいね。かわいい蛾」
と、後ろからジェニーが言った。
「うん」
クリスはふり向いて、ジェニーにほほ笑んだ。
ジェニーは淡いスミレ色のワンピースを着ていた。過ぎ去った夏の浅い夜空のような色だった。
「そのワンピースもとてもきれいな色だね」
クリスは心から言った。
ジェニーはにこっとほほ笑んだ。
「生地屋さんで見つけて一目ぼれして、たくさんこの生地を買って仕立てたの。クリスにもこの生地でなにか作りましょうか?」
ジェニーは服作りが好きで、得意としていた。
「うん、ありがとう。シャツがいいな。死ぬときはそのシャツを着ていよう」
「じゃあ、私も。私も死ぬとき、クリスとおなじこの色の服を着るわ」
「そっか。おそろいだね」
クリスは少し悲しそうに、でもうれしそうに笑った。ジェニーもおなじほほ笑みをうかべた。
二人は、公園から出て小道を歩き出した。
まっ暗な空の下、街灯に照らされた道だけが白い。
やがて、ホリーおばさんの家に着いた。
ここは小さなレストランだが、表札は出ていない。一日一組だけ予約で食事ができるのだが、ホリーおばさんは二人だけは特別にいつでも受け入れてくれる。
二人は離れて暮らす家族以上にホリーおばさんに親しみをおぼえていた。