一番やさしい天使
「おいしい。私、クリスの入れたお茶が好き」
「そう? ありがとう」
クリスはほほ笑んだ。
オレンジのさわやかな香りが二人の空間を包み込んでくれているようだった。
「出発まであと一週間もないね」
「うん」
ジェニーの公演が近づいていた。
「練習のほうは大丈夫?」
「うん、順調よ。あとは体力と気力の問題だけど、いまの調子ならなんとか大丈夫だと思う」
「そう……無理しないでね」
「うん、ありがとう」
ジェニーは、ほほ笑んだ。
「今日もこれから練習する?」
「そうね……一、二時間練習する。そしたら、今夜もホリーおばさんの家に行かない?」
「そうだね。六時半ごろ公園で待ち合わせしようか。今日はなにが食べたい?」
ジェニーは、ちょっと考えた。
「ラザニアがいいな」
「いいね。あたたまりそう」
「うん」
二人は、ほほ笑み合った。
待ち合わせの時間まで、クリスは新しいキャンバスを立てて、今度はなにを描こうか考えた。
いつも、これが最後の絵かも知れないと思う……だから、いつもいま描ける最善のものを描きたいと思う。
三十分ほど考えていたクリスは、描きたいものを思いついた。
一番やさしい天使……最も哀しい人の哀しみも癒してくれるような。
クリスは、セルリアンブルーの絵の具をパレットに出した。
今回も水色が基調の絵にしようと思った。
それから、淡い紫色も。
きっと、哀しそうな雰囲気になってしまうだろう。
でも天使のほほ笑みは、やさしくあたたかなものになるといいとクリスは思った。