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4話 少年と剣は契約を結び立ち上がる

「いいねぇ! いいねぇ! この緊張感! なぜか久しぶりの気がするのは置いといて、自分が剣になった理由も後にして! まずはこの状況を楽しもうかね! 我が名はヘレーナ。剣神の称号を受けし者なり!」


 ディモの身体を借りた剣は自らの名をヘレーナと名乗る。剣を構えるその姿は芯の通った剣豪の風格を与えており、剣神と名乗るだけの威圧も放っていた。


「本当にさっきのガキか? 急に雰囲気が変わってやがる。それにヘレーナと名乗ったな? その名は我が主を一〇〇〇年の眠りにつかせた極悪人の名前じゃねえか! おい! 油断するな! 名を騙る(かたる)馬鹿かも知れんが、油断せずに一気に押しつぶせ!」


 それまではバラバラに襲いかかろうとしていた魔物達だったが、魔族男が真剣な顔で指令をすると秩序だった攻撃を開始する。そんな相手の動きにディモの身体を借りたヘレーナは嬉しそうに口元を綻ばせ(ほころばせ)ながら正面の魔物への間合いを一気に詰めると袈裟斬り(けさぎり)にした。


「私の切れ味は最高じゃないか!」


 一刀の下で絶命させられた魔物が崩れ落ちる前に次の魔物が両断される。その戦いとの名にすらならない一方的な殺戮劇に、魔族男は目を細めながら見守り続けていた。そして縦横無尽の動きが一瞬止まったタイミングを見計らって声を掛ける。


「本当に剣神ヘレーナのようだな。それに剣の造りもデタラメだ。魔剣か刀匠の逸品か?」


「当たり前だろ! こんな剣筋を他の誰が出せるんだよ。剣については知らないね」


 肩に剣を乗せた状態で魔族男に答えたヘレーナだったが、身体の異変を少しずつ感じていた。身体の動きがいつもに比べて悪すぎるのである。

 ディモの身体を借りているから当然なのだが、ヘレーナはその事すら忘れており、いつもに比べて調子が悪いくらいにしか思っていなかった。


「まあ。ちょっとだけ調子が悪いみたいだけど、あんた達クラスなら瞬殺だね」


『ヘレーナさん。僕の身体が悲鳴を上げています。これ以上は……』


「黙ってな! 死にはしないよ!」


 突然、ヘレーナの脳内にディモの声が聞こえてきた。それと同時に身体の重さが倍増した事を感じる。なにかが影響して動きが悪くなっている事に内心舌打ちをしながら、相手に気付かれないように剣を構え直すと後ろから攻撃してきた魔物を突き刺した。だが、致命傷になり得ていないようで、魔物は最後の力を振り絞りながら攻撃をしようとする。


「ちぃ! さっさとくたばりな!」


「どうした? 調子が悪いなりに俺達を瞬殺出来るんだろう?」


 止めを刺されて断末魔を上げている魔物を全く気にもせず魔族男がヘレーナを挑発する。今度は聞こえるように舌打ちすると、波状攻撃を始めた魔物達との戦いを再開した。


 ◇□◇□◇□


「ふー。ちぃ! まさか、この私が雑魚相手に呼吸を整える必要があるなんてね!」


『ごめんなさい。ごめんなさい!』


「その謝り方はやめな! 本気で腹が立つ! それにしても、この身体には魔力はないのかね! 技を出そうにも全く反応がないじゃないか!」


『ごめんな……。なんでもないです! 僕の魔力は右腕に集まって魔石になる能力として使われるから、普通の人達のように魔法は使えないのです』


「なんだいそりゃ? レアスキル持ちかい」


「ちっ。やっぱりお前ら使えねえ」


 ヘレーナの強さに魔物達が怯えた表情になるっているのを見ながら、脳内でやり取りしていた二人だったが、突然の絶叫に目の前の光景に視線を向ける。そこには魔族男が剣を片手に立っており、それ以外の魔物は一匹も立っていなかった。


「仲間を斬ったのかい?」


「仲間? 家畜の間違いだろ? 魔族からしたら魔物なんて家畜と同じだぞ」


「へぇ。いい感じに倒しがいがあるね。おっと! なっ!」


 ヘラヘラと笑いながら話していた魔族男が、唐突に斬りかかってきた。剣で受け止めたのだが、剣速と勢いをいなせずに吹き飛ばされてしまう。


『痛い……。あれ? 痛みを感じる? ヘレーナさん?』


「魔力がないと、身体も操れなくなるとはね」


『えっ? 僕の思い通りに身体が動く。じゃあ! 目の前の魔族との戦いは、ど、ど、どうするんてすか?』


「知らないよ!」


『そんな無責任な!』


 倒れた状態でやりあっている二人を警戒しつつ見ていた魔族男だったが、状況を理解したようでニヤニヤとした笑いを浮かべながら近付いてきた。


「お? ひょっとしなくても、体力か魔力切れですかぁぁぁ? 無駄に家畜を殺さなくても良かった系? まあ、外で待ってる奴らがいるから問題ないか。君らの犠牲は無駄ではありませんんんん! 良かったねー」


 腹を抱えながら笑っている魔族男を見ながら、ディモがヘレーナに語りかける。


『魔力って魔石でもいけます?』


「よく分からないけど、いける気はするね。なにか持ってるのかい?」


 ヘレーナの声にディモは袋の中に魔石があることを伝える。


「へえ。なかなかいい魔石を持ってるね」


『さっき産み出したとこです』


「あー笑った。笑った。もう殺しても良いよな?」


 先ほどまで馬鹿笑いしていた魔族男が舌なめずりしつつ近付いてくる。これからなぶり殺し出来る事がよっぽど嬉しいのか笑みを浮かべつつ、無駄に床を斬りつけ火花を散らしながら恐怖心を煽っているようだった。


 そんな魔族男の様子を気にする事なく、身動きをしていなかったディモが突然立ち上がる。そして手から剣がこぼれ、意識が無くなったように崩れ落ちた。


「なんだ? 力尽きたのか? だったら起きるまで待って、それからなぶり殺しだな。逃げないように腱でも斬っとくか?」


 魔族男が呟きながらディモに近付こうとすると、剣が空中に浮かび上がり眩いばかりに輝き始める。

 あまりの眩しさに思わず目を閉じていた魔族男だったが光が収まったので目を開けると、そこには鋭い目つきで自分を見ている女性がいることに気付いた。

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