24話 宿までの道のり
「てめぇ! 俺が誰だか分かっての事だろうな?」
「は? 知るわけないだろ? 私達は初めてこの街に来たんだよ? 馬鹿じゃないのかい? それよりも、お前は自分がなにをしたのか考えた方が良い」
「なにを言ってやが……。ぐあぁぁ……」
殴られた事で鼻血を出していた男は服の袖で拭きながら真っ赤な顔で凄んでくる。そんな男を馬鹿にしたような顔を一瞬だけ向けたが、再び興味無さそうな顔になるとヘレーナはもう一度殴り飛ばした。そして気絶させ男の襟を掴みながらディモに笑顔を向けて話し掛ける。
「ディモ。ちょっと、お姉ちゃんはこの万死に値する男と話をしてくるから、先に宿屋に行っててくれるかな? シロツノもしっかりと護衛をするんだよ。それと、そこの案内人! ディモに色目使ったら開くからね!」
「えっ? え、ちょっと待ってください? 開く? 開くってどこを? えっ? なにを?」
「ひひん!」
「分かった。先に宿屋に行ってるね。じゃあ案内してくれる? そう言えば君の名前を聞いてなかったよね?」
「え? 名前? アメーリエです。えっ? 案内しても良いの? あの人は?」
「大丈夫だよ。後で必ず来てくれるから」
自分に向かって物凄い威圧感と、理解不能な言葉が飛んできて混乱しているアメーリエが確認しようとしたが、シロツノが元気よく大声で嘶き、ディモもヘレーナに軽く頷いてた。そして宿を案内するようにアメーリエの名を確認をしながら伝えてきた。混乱しながら名前を告げている状況を見て、なにかを納得して頷いたヘレーナは、二人と一頭に軽く手を上げると男を引きずってどこかに消えていった。
「行ってらっしゃーい。じゃあ、君の宿屋に行こうよ」
「ひひーん」
「い、いいのよね? じゃあ、私の宿屋に案内するから付いてきて」
どこかに消えていったヘレーナを唖然とした表情で見ていたアメーリエだったが、気を取り直してディモに向き合うと自分に付いてくるように伝える。二人と一頭は宿屋に向かいながら話をしていたが、ディモの興味は食材購入場所であった。
「次に旅立つまでに色々と食材を買い込みたいんだよね。旅の途中で美味しい料理を作りたいから。良い買い物が出来る場所を知ってる? 調味料を充実させたいんだよ」
「それだったら、宿屋に案内した後に一緒に買いに行こうか? それともお姉ちゃんを待っていた方がいい? さっきから気になってるんだけど、どこが宿か分からないのにどうやって合流するの? 魔道具を持っているとか?」
「大丈夫だよ! お姉ちゃんならすぐに僕とシロツノを見つけてくれるよ。ねえ。シロツノ」
「ひひん」
「だったらいいけど。さっきのお姉ちゃんなら大丈夫かもね」
自信満々に言い切ったディモと大きく頷くシロツノにアメーリエは首を傾げていたが、なぜか納得した気分になると気持ちを切り替えると引き続き宿屋へと案内をする。
「ここが私の宿屋だよ。その名も森の安らぎ亭! どう? いい感じでしょ?」
「わぁぁぁ。確かに。いい感じの宿屋だね。シロツノはどこに連れて行けばいいの?」
胸を張って宿屋を紹介するアメーリエ。自慢するだけあって店の佇まいは落ち着いた感じで、古くから良心的な店であるように見えた。シンボルとなる大きな木がそびえ立っており、木の陰に宿屋がある事で涼しく感じられた。掃除も丁寧にされており、旅人が気持ちよく寛げるように玄関口には足払い場も用意されており、宿舎も大きく作られていた。
「ああ。シロツノちゃんはこっちだよ。ここは魔物が泊まっても大丈夫な宿舎だから安心していいよ。ご飯はなにしたら良いの? 牧草とかかな?」
「ひひん! ぶるるるる!」
「えっと、シロツノは肉とかが好きだよ。あと魔石! だよね! シロツノ!」
「ひひん」
大きく何度も頷いているシロツノを見ながらアメーリエは驚いていた。意思疎通が出来る魔物は今まで見てきたが、それはなんとなく気持ちが伝わる程度だったからである。それが、ディモとシロツノは普通に会話をしているようで、ディモの質問を理解した上でシロツノは大きく頷いていた。
「本当に私達の会話を理解しているのね。それにディモ君によく懐いている。そう言えばディモ君はいくつなの? お姉ちゃんは二〇才くらいに見えるから一〇才くらい?」
「十五才だよ! もう成人している大人だからね!」
「えぇぇぇぇ! 嘘でしょ! 私と同い年? だって、こんなに小さいじゃない!」
「小っちゃいのは関係ないよ! もう大人なんだからね! ねえ! シロツノ!」
「ひひん」
てっきり未成年だと思い込んでいたアメーリエは心底驚いた顔をする。そして、その顔を見たディモは思いっきり頬を膨らませて抗議をするのだった。
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「こら! 店の前でなにを叫んでいるんだい!」
「お母さん! 見て! お客さんだよ! 痛い! なにするのよ! お客さんを連れてきたのよ!」
「だったら、なおさら接客てものがあるでしょうが! お客様相手に敬語も使えない娘がなにをいっているんだい! 失礼しました。私は森の安らぎ亭の女将のリカルダです。こんな娘の母親でもあります」
店の前でアメーリエとディモが言い合っていると、店の中から恰幅の良い女性が出てきて二人の様子を見て腰に手を当てながら叫ぶ。喜び勇んで客である事を告げているアメーリエに、母親のため息を吐きながら拳骨を落とすとディモに向かった頭を下げた。そんな様子を笑いながら微笑ましそうに見ると、ディモは問題ないと告げる。
「大丈夫! この子が良い宿屋を教えてくれるから付いてきただけだから。自信を持って勧めるだけあって、良い感じの宿屋ですね!」
「そう言って貰えると嬉しいですね。アメーリエもこれくらいしっかりしてくれたら良いのにね。久しぶりのお客様だからしっかり相手をさせて貰いますよ。アメーリエ! お客様の馬を宿舎に連れて行ったら寝床もしっかり作るんだよ!」
「分かっているわよ! じゃあ、ディモ君……。ディモ様。後で食料品店に案内しますね」
頭をさすりながら口を尖らせつつ、シロツノを宿舎に案内しながらディモに話し掛けようとしたが、リカルダの目を見て慌てて敬語に切り替えるだった。




