12話 教会での会話
「うぅ……。酷いよお姉ちゃん……。身体が痛い事を完全に思い出した」
「痛みで悶絶してるディモの姿も可愛かったよ。うりうり!」
「止めて! 痛ぃ! お姉ちゃん止めて」
家を出て痛そうに身体を引きずるように歩いているディモの背中をヘレーナが笑いながら突く。突然襲ってきた痛みに思わず膝をついて涙目になりながら見上げてくるディモの姿に、ヘレーナの背中がゾクゾクと軽い興奮が襲ってくる。
「やばいんじゃない? このディモの下から涙目で見上げられる感覚。癖になりそう」
「嫌いになるよ」
「ごめんなさい。もうしない事を考えながら検討すると思う」
「反省してよ! それと、またやる気でしょ! 止めてよね!」
全く反省していないヘレーナの回答にディモは頬を膨らませて苦情を入れた。筋肉痛が激しくユックリとしか歩けないディモが教会に着いたのは一時間ほどしてからだった。
「いたたたた。お姉ちゃん! もうやめて!」
「でも楽になっただろ?」
ヘレーナの言葉にディモが恐る恐る身体を動かすと、寝起きの状態より身体が軽い事に気付く。どんどんと軽くなっていく状態に嬉しそうにしながらピョンピョンと跳ねてるディモを見ながら、ヘレーナは蕩けるような顔になっていた。
「回復促進魔法を少しだけ掛けたけど効果絶大みたいだね」
「なにか言った? お姉ちゃん?」
「なんでもないよ」
ヘレーナの呟きを聞いたディモが問い返したがはぐらかされてしまう。ディモは軽く首を傾げながら教会に入ろうとすると、フラフラになりながら後片付けをしているマイクに出会った。
「あっ! おはようございます! マイクさん! ど、どうしたんですか? フラフラですよ!」
「ごめんなさい。もうしません。二度と仕事をサボりません。一生懸命働きます。だから……」
「マイクさん!」
いつもと違う様子にディモが心配そうに話しかける。だが、マイクの視点は定まっておらず、死んだ目で明後日の方向を見ながらブツブツと呟いていた。ディモが思わず身体を強く揺すると、マイクの視点が徐々に定まってくる。
「ん? ディモ? おぉ! ディモ! ディモじゃないか! 本当にごめんなさい! 私が全部悪いのです! 許してください! お願いします。ディモに許してもらえないと俺は! 俺は……」
「ええっ! な、なんですか? 大丈夫ですよ! マイクさんから悪い事なんてされてませんよ! 大丈夫です! 許しますから! 土下座は止めてください」
「へぇ。神父の仕事だろうね。いい事するじゃないか。そもそもディモをこき使おうなんて一〇〇〇年早いんだよ」
必死に土下座をして許しを請うマイクと、意味も分からず許しているディモを眺めながらヘレーナは感心したように呟くのだった。
◇□◇□◇□
「やあ。ディモ。いらっしゃい。それとヘレーナ様もようこそお越しくださいました。お会い出来て、話も出来る事を心から嬉しく思います。私は神父のトーカスと申します」
「ああ。あんたが神父かい? いい仕事をしたね。あんたの話しなら聞いてもいいよ」
「あの。神父様。マイクさんになにをされたのですか?」
「ディモは気にしなくていいよ。大人の事情だからね」
神父の挨拶にヘレーナが笑顔で頷く。二人が納得した表情で握手しているのを、納得のいかない顔で眺めていたディモが質問したが、軽くはぐらかされてしまった。何事もなかったかのようにトーカスは二人に座るように勧めるとユックリと話し始めた。
「今日来ていただいたのはお願いがあるからです」
「お願いですか?」
首を傾げているディモにトーカスは頷きながら話を続ける。
「そうです。お願いです。お二人には各地にある封印石を開放した後に、王都まで行ってもらいたいのです。必要な費用は事前にお渡ししますし、王都で教会の総本山から報奨金も支給されます」
「何をさせるつもりだい?」
依頼が自分にされているのを理解できずにいるディモに代わってヘレーナが問いかける。トーカスはヘレーナと目を合わせながら説明を始めた。
「本来ならマイクがその役目をするはずでした。彼の役目はこの地にある封印石を見て赤色なら王都に早急に伝達。入口が開いているなら中に入ってヘレーナ様の……、言い方は悪いですが回収する事でした」
「えっ? 封印石に行くのがマイクさんのお仕事だったんですか?」
実は封印石に向かうのがマイクがする仕事だったと聞かされたディモが驚いていると、苦い顔をしながらトーカスが頷きながら話を続ける。
「そうです。ですが彼は役割を果たさず、しかも代々引き継がれているはずの内容も覚えておらず、ましてやディモに代理で見に行かせる始末! 本来なら八つ裂きにしてもいいのですが、ディモのお陰で村が救われたのと、結果的に封印石に向かったのがディモだった事で最良の結果を生んだのを加味して、軽い罰で許す予定です」
「まあ、良かったよ。ディモじゃなかったら動かなかったからね」
本当かどうか分からない返事をしながら頷いているヘレーナに、トーカスはさらに説明をする。
「本当にヘレーナ様には感謝しております。そして、これからもご迷惑をお掛けしますが各封印石を巡って、王都までディモと一緒に行って頂けませんでしょうか?」
「ああ。構わないよ。旅の資金は十分にもらえるんだろうね?」
「それは大丈夫です。足りなくなったら、教会に寄って頂ければ融通するように手配しておきます。その際はこちらの証明書を現地の神父に見せてください。鑑定魔法を使えば内容が表示されるようになっております」
神父から渡されたネックレスには教会のシンボルが描かれた模様が描かれていた。ヘレーナが試しに鑑定魔法を使うと、そこには『このネックレスを持ちしディモに資金援助をする事。かの者は神剣を携えし者なり』と表示された。
「間違いないね。これだったらいいだろう」
「なんて書いてあるの? お姉ちゃん?」
「『お姉ちゃん?』」
ヘレーナの呟きにディモが確認すると『お姉ちゃん』の単語に神父が不思議そうな顔をする。慌てたディモが何か言おうとしたが、ヘレーナが遮った。
「そうだよ! 私はディモのお姉ちゃんなんだよ!」
「なるほど。それはいいですね」
「神父様?」
胸を張ってお姉ちゃん宣言をしたヘレーナに満面の笑みで賛同したトーカス。思わず確認するディモにトーカスが説明する。
「二人旅をするのだから姉弟と言った方がいいだろう? それに二人とも呼び合っていても違和感がないようだからね」
「当然! ディモは可愛い弟だからね!」
「だそうだよ? いいねディモ?」
トーカスから改めて姉弟となるように伝えられると、ディモは恥ずかしそうに頷くのだった。