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プロローグ 神話の裏側と少年の旅立ち

生まれて初めての二作品目です。

最近はバタバタとしており感想等への返信が遅くなる場合もありますが、しっかりと読みますので返事は気長にお待ちください。

「はっ! まさか、あんたに最後で裏切られるとはね。私も焼きが回ったね」


 背中から突き抜けた剣から滴り落ちる血を眺めながら女性が振り返る。そこには涙目で震えながら剣を握りしめている少年がいた。顔面蒼白で歯はカチカチと鳴っており、その姿は魔王城まで辿り着いた歴戦の勇者ではなく、初めて戦いに赴いている新兵のようであった。


「ご、ごめんなさい。世界の平和のためには、こうしないと駄目なんです!」


「へぇー。背後から仲間の身体を突き刺すのがかい?」


 慟哭するように叫んだ少年と、冷静に状況を指摘する女性。突然始まった裏切りを喜劇を見たような表情で魔神は哄笑を上げながら嘲る(あざける)ように話しだす。


「はっはっは! 我を倒した直後に仲間に殺されようとしている気分はどうだ? なぜ、お前が刺されたのかは知らんが最高の気分だ。一〇〇年の眠りで復活した後にお前が居ないのは寂しいが、お前の苦しむ顔を見ながら復活の時を待つとしよう。はーはっはっはっは……」


 虫の息だった魔神が幸せそうな顔で笑いながら消滅するのを他人事のようにで眺めていたが、口から熱い物がこみ上げてくる。それが自分の血である事に気付く前に膝から力が抜け始め、崩れ落ちるように地面に倒れこんだ。


「ごめんなさい! ごめんなさい……」


「謝る必要はない。お前は十分に役目を果たした」


「はっ! てめえが首謀者かよ! てめえが死ね!」


 項垂(うなだ)れながら謝罪の言葉を紡いでいる少年の横で、冷たい表情で見下ろしている男性に女性が悪態をつく。死にゆく者からの罵詈雑言(ばりぞうごん)に男性は冷笑しながら、なにかを思い付いたかのように話し始める。


「俺が首謀者だと? なにを言っているのやら。だが、これだけは言っておこう。お前は今までは本当に役に立った。そして一〇〇〇年の間は偶然(、、)だが役に立つ」


 遠のく意識の中、男性を睨み付けていると涼やかな詠唱が聞こえてきた。男性の背後に控えていた親友と言っていいはずの少女が視界に入ると苦笑が浮ぶ。


「あんたもグルだったとはね。どおりで回復しないはずだよ」


 涙を流しながらスキルを封印する詠唱を続けている少女。横で謝罪を続けている少年。冷徹な目で様子を眺めている男性を視界に入れながら女性の意識は途切れた。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 ◇□◇□◇□


「こ、こんにちは。魔石の買い取りをお願いします」


「ああ。ディモか。どれ? なんだ、またクズ魔石か! お前さんと一緒で役に立たん魔石を買い取る儂の身にもなれ!」


「ごめんなさい! ごめんなさい」


 手渡された魔石が入った袋の中身を確認した初老の男性は盛大なため息を吐くと、怒りと共に袋ごと投げつけた。ディモと呼ばれた少年は袋に入っているクズ魔石は当たらなかったが、恐怖のあまり頭を抱えながら(うずくま)っていた。その様子を忌々しそうに見ながら初老の男性が叫ぶ。


「さっさと帰れ! そのクズ魔石は賤貨八〇枚で買い取ってやる」


「えっ? 前は銅貨三枚で……」


「クズに金を払ってやるだけ有り難いと思え! そこにいたら商売の邪魔だ!」


 地面に投げつけられた賤貨を慌てて拾いながら、逃げ去るように店からディモは飛び出した。静寂を取り戻した店内に若い男性の声が響く。


「じいちゃん。なんであいつのクズ魔石を買い取ってやるんだよ? 役に立たないだろ?」


「おお。マイクか。このクズ魔石は加工すれば銀貨一枚には化ける。それにディモの母親には頼まれているからな」


「それって、あいつが産まれる前の話だろ? 一〇年以上前の話じゃん」


「それだけじゃないがな。あやつの……。それよりも封印石の確認はしてきたのか?」


 クズ魔石が入った袋を拾い上げながら初老の男性はマイクに問い掛ける。


「ああ。いつも通り紋章は青色だったぞ? それにしても定期的に見に行く必要があるのかよ? それこそディモにやらせればいいじゃん」


「馬鹿もん! 封印石を守る仕事を役立たずに任せられるわけないだろうが!」


 あまりの剣幕に後ずさりながら、マイクは慌てて謝る。


「ごめんって。でも、一〇〇年後に魔神が復活すると古文書にあったのに、もうすぐ一〇〇〇年になるぞ? 魔神も石の中で死んでるよ」


「それは誰にも分からん。我らは封印石の紋章が赤色になったら王都に早馬を走らせる義務がある。その役目があるからこそ税金が少なく、徴兵も免除されておる」


「分かってるよ。何度も聞いたよ。ありがたい話だからな。しっかりと役目を果たすよ。いくら遠い場所にあったとしても」


 物心ついてから聞かされている話にうんざりしながら頷きつつ、マイクは店を出てディモを探すのだった。


 ◇□◇□◇□


「これからどうしよう?」


 ディモは手元の賤貨を眺めながらため息を吐いていた。この街で暮らしていくには毎月銀貨が五枚は必要だった。亡くなった母親が残してくれた遺産も底を突こうとしており、お金を稼ぐのが急務となっていた。


「だけど、僕の能力ではお金は稼げないからなあ」


 独り言を呟きながらトボトボと歩いていたディモを見付けてマイクが声が掛かる。


「よう。ディモ。金がないなら簡単な仕事を紹介しようか?」


「えっ? マイクさん本当ですか!」


「ああ。ある場所に行って確認するだけの簡単な仕事だよ」


 喜んでいるディモにマイクは笑みを浮かべながら封印石の確認をする仕事を依頼する。ディモは封印石の名前を聞くと青ざめながら確認を始める。


「封印石の確認? あれは神官職の一族しか入れないはずでは? それに、封印石まで往復で三日はかかりますよ。あと魔神が封印されている場所に近付くのはちょっと……」


「大丈夫だよ。俺がその神官職の一族だから。三日分の食事付きで銀貨一枚渡すからどうだ?」


「食事仕込みで銀貨一枚! やります! やらせてください!」


 確認するのが魔王が封印されている聖域であり、ディモは近付きたくない気持ちでイッパイになったが、マイクから提示された食事付きで銀貨一枚の報酬は魅力的であり思わず頷いてしまった。


「よし。じゃあ、この腕章を持ってろ。これがあれば結界が抜けられるからな」


「そんな貴重な物を?」


「いいんだよ。気にするな。それと食事代は先に渡しておいてやる。」


「ありがとうございます!」


 腕章と一緒に数枚の銅貨をマイクから渡されたディモは嬉しそうに頷きながら、無くさないように腕に巻き付けるのだった。


「ふう。これで楽ができるな。後はじいちゃんに見付からないように隠れるだけだな」


 足取り軽く旅の準備をするために市場に向かったディモの後ろ姿を眺めながら、マイクは大きく伸びをすると隠れ家としている彼女の家に向かうのだった。

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