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たかられたんだけど

目が覚めるとそこは見知らぬ土地だった。俺が住んでいた場所はちょっとした田舎だったが、そこよりも空気がうまい。そんなどうでもいいことが最初に浮かぶくらいに、ここは長閑(のどか)だった。


「ってここ何処だよ!俺ネトゲしてる最中だったよな?()、高っ!昼!?俺のロンリーナイトいずこっ!?」


やっと現実を直視した俺は、一転パニックに陥る。本能が知ってる何かを探そうと暴れまわり、体も反応して俺は駆け出した。一人でぎゃーぎゃー騒ぎながら走り回る男、もし誰かが見ていたら薬でもキメてると思われても仕方が無かっただろう。


「よう兄ちゃん、待ちな。真っ昼間からテンションたけえな」

「「たけえな」」


見られていた。しかも三人も。もうヤダ死にたい……がっくりと項垂れた俺は、その場に突っ伏す。


「まあそんな気を落とすなよ。その程度で落ち込んでたらこの先、生きていけねえぞ」

「「ねえぞ」」


声に顔を上げるとそこには厳つい顔の頭にバンダナを巻いたオッサンが立っていた。ついでに後ろには同じ格好したチビが二人。ってかオッサン頬に古い年期入ってそうな切り傷あって怖いんすけど。でも何故か手に持ってる大根がシュール過ぎてどこか締まらないっすよ。


「生きてりゃもっといいことあるだろうし、もっと酷い目に遭うこともあるさ。具体的には今とかな。そんなわけで金目の物置いてけ」

「「置いてけ」」


そういうと今までの雰囲気から一転し、下卑げびた笑みを浮かべながら大根を俺の顔に突き付けてくる。艶がなくて美味しくなさそうだなぁ等とどこか場違いな感想を抱きつつ、変な人と関わりたくないので退散することを決める。


「と言うわけで、失礼します」

「だから待ちなって言ってるだろ兄ちゃん。つべこべ言わず金目の物を置いていけってんだ」


更に顔に大根を近づけながら声を荒げるリーダー格のオッサン。手に持ってるの刃物や鈍器とかではないけど、目だけは本気に見えてちょっと怖いですって。


「そこの姉ちゃんもだ」


 姉ちゃんという言葉に反応した俺は、オッサンの視線を追う。その先にはワンピース姿の可愛らしい女の子がいた。ブロンドの髪は風に揺れ、整った顔立ちと佇まいにはどこか気品が感じられる。気の強そうな大きな目は理不尽な相手への怒り。そして気丈さの奥に、ひっそりと怯えを隠していた。


「一体何なのよ貴方達!私が誰か知っての所業!?」

「知らねえな、どこのどいつだろうが俺たちの前に現れたやつは皆カモだ!」

「とっとと有り金全部よこしな!」


手下二人が鼻息荒く捲し立てるが、それを遮る手があった。


「まあ待てテメエら。誰かは知らねえが、その口ぶりからするとどっか良いトコの育ちか?だとしたらここでぎ身包み剥ぐよりも家に脅迫状でも送り付けたほうがたんまり稼げそうじゃねえか。待ってる間、楽しませてもらえば一石二鳥だしな」

「っ!この外道共めっ」


恐怖感を必死に押さえつけながらも女の子はキッと睨めつけ、周りに目を配らせて現状を打破する方法を探しているようだった。するとその目線が俺と交差する。


「あっ」

「え、俺?」


声には出さないものの、目は口程に物を言うとは正にこの事だろう。ここまでは気丈に振る舞っていたが、すがれる者を発見したせいか目元には涙が滲み始めた。その姿に思わず神経を逆なでられた俺は、女の子の体を隠すよう前に出て、オッサンにガンを飛ばす。


「おい、大の大人が女の子虐めるってのはどういう了見だ?いい歳こいて恥ずかしくないのか」

「ああん?何格好付けてるんだテメエ。こいつで伸されたいのか?」

「やっちまえアニキ!」

「今日もボッコボコにしちゃいやしょう!」


そう言って煽ってくる奴らにいい加減我慢が限界に達し、一歩踏み込んで不意打ち気味に拳を振るった。が、


「おっと、やる気か兄ちゃん。なら死んでも文句言うなよ」


向こうも警戒していたのか、ギリギリの所で躱されてしまった。そしてそのまま大根を大上段に振りかぶって来る。そんなもんガードすれば何ともないだろうが!


「あぶないっ!」

「っ!」


『危ない』とは人間の本能に刷り込まれた言葉なのだろう。思わず声に反応した俺は、咄嗟に後ろに回避した。すると、


「……は?」


ズーーン!と重い音を立てた大根は、地面に小さいクレーターを作っていた。


「え、どういうこと?」


普通の大根では決して起こりえない現象を目の当たりにし、俺の思考は止まってしまう。だが相手はそんなことを気にも留めず、横殴りに追撃してきた。結果、先ほどしようしていた防御すらしないまま、脇腹に大根がめり込む。


ベキィッ!


「がはっ!」


生まれて初めて聞いた不快な骨の折れる音、そしてそれを認識してる余裕を与えないとばかりに鈍く重い痛みが走る。オッサンは思いっきり振り抜いたのか、慣性のまま俺の体は横へと吹っ飛び、土の上に倒れる。

痛い、苦しい、痛い、痛い、熱い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、死ぬ

感情がほぼ痛みで埋め尽くされる中、ふと過った単語に『ああ、俺死ぬんだな』と諦めにも似た感想が抱く。


「なんだ、あっけなかったな。もう少し楽しめるかと思ったんだが」

「アニキの大棍を喰らったら無理ないっすよ」

「ありゃあ骨折れて肺に刺さってんじゃないっすか」

「いやぁあああああっ!」

「ま、しゃあねえな。とりあえず嬢ちゃんを先に捕まえて、それから剥いどけ」

「「らじゃッス」」


詰まらなそうに感想を述べる奴等に混じって、悲鳴が聴こえる。

(嗚呼、俺って無力だな。何も出来ないまま死んじゃうんだな。)

婆ちゃんに言われたことは女性に優しくしなさいだが、言い方を変えれば護ってあげなさいとも解釈できた。しかし実際には為す術無くやられてしまいこの有り様だ。


(くそっ、こんな結末で俺の人生終わるのかよ!)


痛みよりも悔しさで涙が溢れ、ろくに力が入らない手で拳を握る。


「いてえっ!」


直後、鋭い痛みが走った。握った左手は鋭利な刃物を振るわれた様に切り裂かれ、血がドクドク流れている。


(一体何が?)


目を向けるとそこには、血で赤く染まった葉っぱが生えていた。上に伸びるにつれて幅が広くなり、深緑の光沢を放っている。程々に皺が見てとれるのが上物の証と長年の経験からわかった。


(ホウレンソウ?まさかホウレンソウでこんなにざっくり切れたのか!?)


驚愕と共にもう一度手を伸ばし指先で触れると、ピッと薄皮が破れて血が滲む。

その時、タッタッタッタと誰かが駆けてくる音が聞こえた。

その音は俺の横で止まり、影が落ちた。


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