ネトゲしてたんだけど
オーケー、まず状況確認からだ。
・1つ 俺は誰?
羽竹育17歳、農家の息子でネトゲ好き、彼女居ない歴=年齢。お婆ちゃんっ子。
・2つ ここは何処?
郊外の野菜栽培地、一般的に畑と呼ばれる場所。但し見覚えはない。
・3つ 目の前で大根を顔に突きつけてきている3人組は?
知らない人、ってか大根を人に向けてくるとか頭おかしいのかな?関わりたくないなぁ。
「と言うわけで、失礼します」
「だから待ちなって言ってるだろ兄ちゃん。つべこべ言わず金目の物を置いていけってんだ」
どうしてこんな事になったのだろう?
答えの出ない疑問に思いを馳せ、俺の意識は逆行していった。
その日の俺は、日課のネトゲをやっていた。普段と違うのは、友人に面白いから一緒にやろうと誘われた牧場経営のシミュレーションであったことくらい。
毎日実家の手伝いで野菜を世話をしているのに、何故ゲームでもやらねばいけないのか?
可愛がってくれた婆ちゃんに「女の子には優しくしなさい、家族は大事にしなさい」と教えられて育たなかったら、それすら手伝ってなかった気がするよ。
そんな思いからシミュレーションゲーム、特に経営物は嫌いなのだが、あんまりにもしつこく誘って来るので、今日一日やって詰まらなかったらやめると言う条件で渋々了承した、のだが・・・
「よっし!薄紅芋の収穫終わり!あとはこれをスイートポテトにしてスイーツを作って納品すればクエスト完了だな」
がっつりハマっていた。
種を蒔いてから収穫までの時間がそれほど長くないし、一部の長期栽培しているものはクエスト埋めをしていれば効率よく進めれるので、暇な時間と言うものがほとんど無い。品種改良と言う名の魔改造錬成もジョークに富んでいて、非常に楽しませてくれる。『刃物野菜』とか『棍砕類』を初めて見たときは牛乳で画面を濡らしてしまった。弁償して貰いたい。
そんなわけで気付けば日付が切り替わる頃までプレイしていたのだが、画面が突如歪み別のフィールドへと切り替わっていた。
「ん?何だこれ?知らないマップに行ったぞ」
草が青々と茂った小さな広場、周囲は木々に囲まれ落ち着いた場所だった。
「突発イベント?それとも隠しか?どっちにしても面白いギミック積んでるんだな」
今までとは雰囲気が全く違う展開に、俺は心を躍らせながら先に進んでいく。すると、より拓けたところに何者かがいた。
白いワンピースを着た女性キャラクター、横には吹き出しが出ており、『助けて!』と叫んでいる。
『はい』と『いいえ』の選択肢もポップアップ。
「『いいえ』を選んでもいいけど、今回限りの奴だと勿体無いよな。それにゲームとはいえ一応女の子だし・・・」
逡巡した後、『はい』をクリックした瞬間、"ピシッ"という音と共に画面にヒビが入った。
「えっ!何っ!?ちょっ!」
想定外の事態に陥ったとき、人間の語彙力というものはこうも低下するするのは何故なのか。俺はあたふたしつつ、画面に触れたが、奇妙な事に気付く。
「画面、じゃない?なんだこれ。空気?がヒビ割れてる?」
液晶に損傷はなく、その手前の空間に亀裂が入っていたのだ。それはみるみる広がっていき、視界全てが覆われた瞬間、硝子が砕け散る様な音と共に俺の意識はブラックアウトした。
『助けて!』
でも意識を手放す直前、誰かの声が聞こえた気がしたんだ。