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第六章 「勝ち取った」平和

 レオとアルルがシェラドの湖に行ったすぐ後からアルルの体調は悪くなりました。思う様に体を動かす事が出来ず、食欲もあまりありません。アルルの顔は見る見るうちにやつれていきました。

「アルル」

 ある晩、レオはいつもの様にアルルの様子を見に彼女の部屋に行きました。

「…………あら……勇者様……まだいらっしゃったのですか……?」

 アルルは弱々しい声で言いました。それでも、アルルにとっては精一杯の元気な声です。

「ああ、これから行く所だ……調子はどうだ?」

「……………………凄く……いつも通り……ですよ……」

「…………そうか…………なら……いい……行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 レオにとって今のアルルを見る事は苦痛でしかありませんでした。かつて人々から魔王と呼ばれ恐れられた少女も、今となってはすっかり弱り切ってしまい、精気をほとんど感じる事が出来ません。まるで今にも……。

 まるで今にも、死んでしまいそうです。

 時々、レオは思うのです。もしかしたら自分は間違った選択をしてしまったのではないかと。あの時、七ヶ月前の、アルルと対決したあの日、レオはアルルを殺さずに、生かしました。それは純粋にアルルの望みを叶えたかったからです。ですがレオは思うのです。

 あの時あの場で俺が殺してあげていたなら、今の様に苦しい思いをせずに済んだんじゃないか、と。


 その後レオはお城にやって来ました。王様に招かれたのです。今度はパーティーではありません。ふたりきりで話をしたい、との事でした。

 広い食事室に、レオと王様がふたり、長い机を挟んで向かい合って座りました。

「よく来てくれたレオ。さあ、まずは食事を召し上がってくれ」

 王様に促され、レオは目の前に出された豪華な食事に手を付け始めました。やっぱり美味しいのは当たり前です。町にあるどのお店のものよりも美味しい料理です。

「それで……」

 レオは獣の肉をナイフで切りながら王様に話し始めました。

「今日は一体どんなご用件なのですか」

「うむ。実は今朝入った知らせでな、ギザ地方に遠征に行っていた部隊から連絡が入り、()の地の魔物を掃討したとの事だ。これで魔物が完全にこの世界からいなくなった」

「……それは……嬉しい知らせですね」

 レオはかちゃかちゃと食器を鳴らしながら食事を続けます。

「それに伴い、我が国とアスターク王国はこの度友好同盟を結ぶ事にした」

「……友好同盟?」

「先日話したであろう、クダラとアルハインツが何やら怪しい動きをしていると」

「怪しい……共同戦闘訓練……でしたか」

「そうだ。その後二国は正式に同盟を結んだ様だ」

「それでこちらも対抗してアスタークと同盟を結ぶと」

「対抗……というのは何か人聞きが悪いな。言っただろう、友好同盟だと。レオ、そなたの仲間であったあの魔導士を輩出した魔法王国アスタークだからこそ、今後の人間世界の発展を考えて我が国とより友好的な関係を築けると思ったのだ。いざとなったら協力し合える間柄というのは何事においても必要だろう。そなたの魔王討伐の時の様に」

「いざとなったら……とは?」

「例えば、人的援助などだ」

「……」

「アスタークの魔術の発展は目覚ましい。場合によってはレオ、そなたにも腰を上げてもらわなければならないかもしれん」

「……魔物がいなくなったこの世界で、俺に何と戦えと?」

「何も戦えとは言っておらん。そなたにも色々と協力してもらう事になると思ってな。そのあいさつを兼ねて、今日はそなたをここに招いたのだ」

「……」

「頼りにしておるぞ、勇者レオ」


 明くる日、王様は城下町に住む人々だけではなく、国民全員に告げました。

「我が兵士達の活躍により、この世界から獰猛な魔物は絶滅した! 奴らは我等人類が誕生する前からこの大地を荒らし回っていたという。我らの先祖達はいかなる時も奴らに恐怖し、怯えながら日々を生きていたのだ! しかしもうその様な心配は無い! 魔物はいなくなったのだ! これからは我々人類の時代だ! 真の平和と、自由がついにもたらされる! この世界は全て、我々人類の物だ!」

 この演説は、病床に伏すアルルの元まで届いていました。

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