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第四章 アルルのお願い

「帰ったぞ」

 レオがパーティーから帰った時、アルルは車椅子に座り、リビングで本を読んでいました。彼女はいつでも読書をしています。本を読む事が好きなのです。

「あら、お帰りなさい。楽しかったですか?」

「……まあな」

 レオは無愛想に答えました。

「……その様子じゃ、ちっとも楽しくなかったみたいですね」

 アルルはくすくすと笑いました。

「楽しくないのでしたら毎度毎度行かなければいいのに」

「付き合いがあるんだよ。しょうがないだろう」

「人付き合いですか……大変ですね、勇者様は」

「王様がお前も来ればいいのにとまた言ってたぞ」

「あら、またですか……う~ん……そこまで言うのなら、行ってもいいですけど」

「騒がしいのは嫌いじゃないのか?」

「昔は好きでしたよ? ただ今は……体にも障りますしね」

 アルルは胸をそっと撫でました。

「それよりも、勇者様」

 彼女はぱたんと本を閉じ、テーブルの上に置きました。

「私、行きたい所があるのですが」

「行きたい所?」

 レオは珍しく思いました。アルルがこの家に住みついてから、ただの一度もそんな事を言った事が無いからです。それに最近は、行きたくてもなかなか行けない、というのが本当でしょうか。

 アルルがこの町に来た頃は、今とは違って自由に大地を駆ける事が出来ました。近くの山まで行ったり、町の子供達と一緒に遊んだりしていました。

 しかし時間が経つにつれて徐々にアルルの体力は衰えていき、二月が経過した頃にはもう自由に歩く事もままなりませんでした。なので今彼女は一日のほとんどをベッドの上で過ごしています。家の中を移動するには車椅子を使います。たまに子供達と遊ぶ時には彼らがこのお家までアルルを迎えに来てくれるのです。そして車椅子を押してもらって外へ出ます。

 そんな状態のアルルが、急に行きたい所があると言い出したのです。

「どこだ? それは」

 レオは尋ねました。

「シェラドの湖です」

「シェラドの湖?」

「はい」

 アルルは嬉しそうに話し始めます。

「そこは、とてもきれいな湖だそうですよ。何でも、ここから山をふたつ越えた先にあるそうです。今日レナから聞きました」

 レナとは町に住む女の子の事で、アルルの友達です。

「その話を聞いた時、私、とっても行きたくなって。だから勇者様、連れて行って下さいませんか?」

「……あそこの山道はかなりハードだぞ……」

 レオは幼い頃に一度だけ、両親に連れられシェラドの湖に行った事がありました。その両親はすでに魔物に殺されてしまっています。

「それはもう、勇者様が頑張って私の車椅子を押して下さいますから安心しています」

「……他人事だと思って……まあいい」

 レオは少しも迷わずに決めました。

「わかった。行こう。シェラドの湖」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

「それで、いつ行くんだ?」

「明日です!」

「……急だな……」

「えへへ」

 アルルがこの家に来て半年。足が動かなくなって四ヶ月。今はまだ動かないのは足だけです。ならば足以外の体が動く今の内に、アルルの行きたい所へ連れて行ってやろう、レオはそう思いました。

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