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第三章 パーティーの夜

 ある日レオはお城に住む王様に呼ばれました。世界から魔王の脅威が去った後、王様は定期的にお城でパーティーを開いています。テーブルにはとても珍しい、見た事も無い様な料理ばかりが並びます。そしてその料理は不思議な事に、どれを食べても美味しいのです。お城に招かれた人々はその味を楽しみ、お酒に酔いしれ、楽しくお喋りをするのです。今までにレオは数回このパーティーに参加した事がありました。

「これはこれは勇者レオ。よく来てくれた」

 壁にもたれかかってひとりワインを飲んでいると、王様が楽しそうな顔でレオに近付いてきました。

「いえ……毎度呼んで下さりありがとうございます」

 レオは丁寧に王様にお礼を言いました。

「何を言う。そなたは世界を魔王の手から救ってくれた偉大なる勇者なのだ。呼ばない訳がないだろう」

「俺ひとりの力じゃありません……死んでいった仲間達がいたからこそです」

「……その通りだな……ところで、今日もやはり、あの娘は来ておらんのか?」

「ええ……まあ……こういう賑やかな所が苦手なものですから」

「たまには気分転換に来てみてもよかろうに。酒だけではなく、ジュースもあるというのに」

「はは……今日帰ったら言っておきます」

 王様が言う「あの娘」とはアルルの事です。

 レオがアルルを町に連れ帰った時、人々には彼女の事を旅の途中で知り合った孤児(みなしご)と紹介しました。なので誰もアルルが魔王だなんて知りません。レオがそうであった様に、世界中の誰も魔王の姿などはっきりと見た事が無かったのです。

「ところで勇者レオ……少し、よいか?」

「?」

 レオは王様に誘われ誰もいないベランダへと出ました。今宵は涼しく、夜風が心地よくレオの体を流れていきます。

「いやな、改まって話すほどの事でも無いのだが……」

 王様は先ほどまでとは違って真剣な顔つきになりました。

「風の噂で聞いたのだが、どうやらクダラ国とアルハインツ王国が近頃共同で戦闘訓練を行ったそうだ」

「……はあ……それはまたどうして」

「うむ……何でもな……我が国に対抗しようとしている……とか何とか……」

「? 我が国に? 対抗? なぜです。別に我が国にクダラ、アルハインツと戦う意思はございませんでしょう」

「うむ。その通りだ。しかしな、どうやら、勇者レオ、そなたを輩出した我が国をあの二国は羨ましく思っているそうでな……」

「羨む?」

「そうだ。そこでだ。自分達の国にもレオ、そなたの様な勇敢で屈強な者達がたくさんいるぞと、そういう事をアピールしたい様なのだ」

「……別に俺は、自分が世界で一番強いだなんて少しも思ってませんが。俺より強い者はきっといくらでもいます」

「うむ。そなたはそう思っているのだろうが……だが事実、そなたが世界を救った」

「……」

「あれから半年……魔物はまだ少しだけ生き残っておるが、各地で殲滅がどんどん進んでおる。おそらくあと一月もすれば絶滅するだろう……その時こそ、やっと真の平和が訪れるのだが」

「つまり、二国は我が国を妬んでいると?」

「あくまでも風の噂だ」

「……」

「つまらん話だったな。まあ、所詮酒の席での話だ。さあ、あまり外にいると冷えそうだ。そろそろダンスが始まるぞ。踊らないというのならせめて見るだけでもどうかね」

「……はい」

 レオはグラスに残っていたワインをごくりと飲み干しました。

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