それぞれの想いは月明かりと共に
「それはそうとお前ら今夜、どうするんだ? まだ、学生じゃないから寮は無理だろ」
解散しようとしていると瀬戸は不思議そうに聞く。
「あ……忘れてた」
どうするも何も、どうしようも出来ない状況なわけだけど。
私が考え込んでいると、
「お嬢さん達、ここで良ければ貸そうか?」
何と、嬉しい発言!
早水さんは凄くいい人だ。
「やったー! じゃあ、お言葉に甘えて」
ベッドは無いが雨風を凌げれば、まぁどこでも大丈夫だろう。何日もとなるとベッドのあるところが良いが一晩だけとなれば別に構わない。
「じゃあ、俺は帰る。朝、ここへ来るから」
「俺も家に帰るよ、お嬢さん達また今度な」
そう言い、二人は店をあとにした。残った私達3人は少しずつ離れた場所ね椅子にそれぞれ座った。私は窓際、紗奈はカウンター、蒼は扉の近く。
早水さんが「今日はもう色々疲れただろう。早く休めよ」と言ったので部屋の電気は消えていた。
月は優しく黄金の光を街に注ぐ。窓際からは月明かりを少し感じる事が出来た。綺麗……。
静まり返った部屋の中に突然音が広がる。蒼だ。
「俺さ、瀬戸の事ちょっと羨ましいって思った。この世界良いな……自分の力で世界の理不尽に立ち向かえる。向こうじゃこんな事絶対出来ない、だからさ俺……こっちで精一杯あいつの役に立ちたいと思う。何かそれが向こうの世界で逃げてきた俺へのけじめになるきぃするから」
「そっか、蒼もそうなんだもんね」
そう……蒼も両親を目の前で亡くしている。交通事故だった。
「……私は、蛍に着いていくよ。どこまでも」
「うん」
待ち望んだ異世界は少し私の予想とは違っていた。異世界……というだけで向かうの世界と何もかもが違う気がしていた。
けれど異世界、それは向こうの世界に抗える力を加えたっていう単なるそういう世界の事だったんだ。
がっかり……はしていない。抗う力、それだけで私は異世界にわくわくを感じられる。それに良い出会いもあった。ここに来たのは運命か偶然か
ーーーここが、この場所が私達のスタート地点。
この時の私は紗奈がどんな事を感じているか……本心、それをまだ知らない。