噂
「これから、閉会式を開始致します」
そう告げられて少しすると、舞台に黒いスーツを着た白髪のおじさんがつかつかと上がってきた。その人はマイクのある中央手前まで来ると足を止めくるりとこちらを向いた。
「こんにちは。……学園長の三神です。守護力開放祭の結果私と戦うのはモーメントですね。日程は明後日時間は問いません。いつでも仕掛けてください。……モーメント代表、瀬戸直人。せいぜい……考えのある作戦を……」
「……嫌味だな」
隣の席で瀬戸が静かに呟いた。
三神――あれが、セイレント学園、学園長……。
あの人が瀬戸が話した全てを行ったと考えるとどうも、見えなかった。あんな、おじさんにそうも出来るものなの……?
一人で色々と思いを巡らせていると、あっという間に閉会式は終わった。
その後は全員、休む事が義務付けられ、一日休みとなった。各自、部屋に戻り体力や気力の回復に努める。エアは三鷹先生が預かると言い出し、私にもその後はよく分からなかった。しかし、三鷹先生も何だかんだ信用出来る人だ。心配はいらないだろう。流石の私も今日だけは休養を取ることにし、部屋でゆっくりと自分の時間を過ごした。
次の日は元々休日だった為、学校に行かずにすんだ。しかし、私は部屋にこもっている気分でも無く何となく外へ出た。すると、私は名前を呼ばれた。
「日鏡さぁん!」
「うっ……椎名」
「聞いたよ。日鏡さん達、転校するんだって?日鏡さんと、もっと思い出を作りたかったのに残念だなぁ」
転校……?
私があの世界に帰ると言う事はそう言う事になるのだろう。私はまだ、決断しきれていないのだが、瀬戸が私の事を察して噂を流したのだろう。
「椎名、瀬戸は?」
「瀬戸直人?知らないよ」
私は椎名に背を向け瀬戸を探した。寮や校舎を探してみたものの、姿は無い。私は他に思い当たる場所を当たってみる事にした。
「日鏡?」
声がした方向を振り向くと、そこには本を片手にこちらを見る瀬戸の姿があった。
「いた、こんな所に!」
「こんな所ってなぁ。……そういえば、ここ、俺達が初めて会った場所だよな」
瀬戸が居たのは、あの木の下。
――どいてくれないか?ここは俺の場所だ
あの時の瀬戸のセリフが脳内に響く。
本当っ、あの時の瀬戸……自己中心だったのよね。
懐かしくて、思わず笑いが溢れる。
「で、何か用?」
「そうそう!忘れるところだったわ。私達の転校の噂、流したの瀬戸よね?」
瀬戸は開いていた本を、ぱたん、と閉める。
「……そうだけど?」
「私はまだ、決めてない。どうして、そんな……」
「いや、日鏡は自分の世界に帰るべきだ。違うな……二人の為にそうしてやるべきだ。……第一、俺が言わなくてもお前はそうするだろ?」
「私だって………皆を帰せるか分からないわよ!!」
瀬戸の言う通り、私の心なんてもうとっくに決まってきた。私は二人とエアをあの世界に返す――と。しかし、私がこの木に願いを言ったらそれは叶うものなのだろうか。あの世界に帰れると言う確証は無いのだ。
瀬戸は何も言わずに、私の頭を軽く、ぽん、と叩くとその場から遠ざかって行った。
やってみる価値はあるのかもしれない、その思いが私の中に生まれた。




