少しの隙
雨の冷たさが体にしみる。雨で体が冷えきったせいなのだろうか?それとも……。
このチャラ男を前に紗奈は肩を震わす。
「私は弱いですよ」
「えー、じゃあ、あっちの奴が良い」
「でも、時間稼ぎぐらいはさせて貰わないと……」
「………あっそ」
だから?と嘲笑うようにそう言われてしまう。
紗奈にもう策は無かった。さっきと同じ作戦が通用するなどとは1ミリも考えていない。だが、それで時間が少しでも稼げるのならと覚悟を決める。
自分の中でカウントダウンし、タイミングを見て、男に背を向け全力疾走。
「何?逃げんの?」
程よく離れた所で、笛を構えた。
”巨人”
ゆっくりと息を吸い音を出す。それと共に霧が何処からとも無く現れその中に巨人の幻が浮かぶ。
「ちっ……舐められたもんだ」
霧の中で、チャラ男は鳴子を鳴らした。標的はもちろんーー紗奈。
「?……っああ゛!」
耳に衝撃が走る。
……何、この痛み!?
紗奈は余りの激痛に膝をつく。意識を保てているのが逆に凄いぐらいだ。けれど、もう限界だった。その場に倒れ込み、紗奈の意識はもうそこには無かった。
「あーあ、手応え無さすぎ。時間稼ぎ何て出来てないじゃーん」
「……ドラゴン、ファイヤーブレス!直人っ!」
そう叫びながら、倒れている紗奈の元へ、駆け寄る。あの空にいたドラゴンは下を目掛けて火を吹いた。瀬戸とは違い、全体に攻撃をする事を一つの攻撃としているため非常に範囲が広い。
瀬戸は蒼の意思を受け、トラップを仕掛けると即座にそれを解除した。
「チェック」
するとその瞬間、瀬戸のトラップの標的となったDOと日向、全員が雷に撃たれた。
終わった、と思った。しかし、瀬戸の前でふらりと二つの影が動いた。日向とDOのリーダーである黒髪のメガネだ。
「こんな……一撃で、やられる程なぁ……俺達は簡単じゃ……ねーんだよ!」
日向は雨に濡れて弱る炎を纏う糸を地面に叩きつけた。
瀬戸は何も言わない。その静けさに、強い雨音だけが児玉する。それはまるで誰かの感情がうねりを上げているかのようだった。
私はエアの気体を操る力で、森の手前へ運んでもらっていた。
雨が止む気配は一切無い。向こうの様子が一切分からないため不安が胸を過ぎった。
「大丈夫かな?」
「……分からない。けど、DOのリーダー、ヨタカさんは強い」
「リーダーって黒髪にメガネの刀使い?」
「うん、そう。……あ、見えてきた」
エアが扇を一回大きく降ると、ゆっくりと下降しているのが分かる。私がここを離れてかなり、時間がたってしまった。
三人は無事だろうか?
大丈夫、瀬戸がいるんだもの。
そう自分に言い聞かせた。




