明かされた鳴子の力
私が連れ去られた後、雲行きの怪しくなった森の手前では気の抜けない雰囲気が漂う。
「瀬戸君!蛍、連れてかれちゃったよ」
森の奥へとエアに連れていかれる私を見た紗奈は瀬戸に訴えかけた。
それを聞いた蒼は即座に上を見た。
「あいつっ!」
「大丈夫だ。日鏡なら大丈夫だ」
二人に言い聞かせるように瀬戸は言った。
エアを除いてもDOは黒髪のメガネと金髪のチャラ男とアフロの細い男と、黒髪のドS男が残っていて日向を合わせてしまうと向こうは五人という事になる。モーメントの人数は三人。瀬戸が二人分の力だと考えても、こちらが有利とは言えない状況だ。
「瀬戸直人、確かにお前は強いかもしれない。けど、そんなのはお前にトラップを仕掛けさせなければ良いだけの話だぁぁ!」
DOのリーダー、黒髪のメガネがそう叫ぶのと同時に金髪のチャラ男以外が瀬戸へと襲いかかった。
流石の瀬戸も四人一気にこられては紗奈と蒼を守る余裕が無い。自分の身すら守れるかどうかだ。
しかし、瀬戸の余裕などお構いなしに金髪のチャラ男は紗奈と蒼へと足を進める。
「雑魚は早く始末しないとっ!」
ピアスの付いた舌で、唇をゆっくりと舐める。
紗奈はその抑圧感に思わず後ずさりした。そんな彼女が視界に入った蒼は、紗奈を守るようにして前に出る。蒼はその男の力を見たことがなかったため男が手に持つ鳴子でどんな攻撃をしてくるか分からなかった。
「くっ……!」
瀬戸はどう見ても激戦だ。念のためで持っていた、短剣で応戦してはいるものの押されている。トラップを仕掛けられなければ瀬戸の力は意味がない。そんな瀬戸に助けを求めるわけにはいかず蒼は自分の力で戦う事を決めた。とりあえずではあるが魔法書の隕石のページを開き、チャラ男に向かって、それを言葉にするだけだったのだが、少し遅かったようだ。金髪のチャラ男は鳴子を鳴らした。
「ーーーー………ーー……ーーー」
一体どうしたというのだろう。その瞬間蒼の耳から音が消えた。時々、聞こえそうになるのに、砂嵐のようにそれは耳障りな音でしかない。
音ぐらい無くたって……っそう意気込むものの蒼はその異変にすぐに気がついた。
音が無い、それだけのはずなのにバランスが崩れるのだ。音のある世界に慣れすぎて、音の無いこの感じは気分が悪くなる。しかし、それだけでは無かった。世界から切り離された様な感覚と、どこから敵が来るか分からないのに加え紗奈の声を聞いて無事を確認できない恐怖。
一体、なんなんだよ!我慢出来ななり、俯かせていた頭をゆっくりと上げるとチャラ男の顔を見る。
とても人ではない。悪魔……そのものだ。俺は紗奈を守れるだろうかと言う不安が蒼を襲う。……怖い、怖い……怖い、怖い……怖い。その思いだけが蒼を支配していく。
それと同時に空からは黒く冷たいものがぽつり、ぽつり、と降り始めた。




