日向君、ごめんね!
「……殺す……殺す……殺す……」
日向は小さな声で呟きながらこちらにどんどん近づいてくる。
「瀬戸、私っ」
力が使えなくなった事を伝えようとした私を瀬戸は遮った。
「話は後だ、とりあえず今は脱出するぞ。トラップは来る途中に仕掛けたあるから心配するな。……走るぞ」
瀬戸は私の手を引き日向から遠ざかるようにして走った。
「……チェック」
走りながら、仕掛けたトラップを解除していく。
しかし、瀬戸は突然走るのを辞めた。
「やばいな。糸で囲まれてる」
私が周りを見回すと、四方に糸が張り詰めていた。四方に糸が張り詰めているものの十分に動けるスペースはある。せめて、私も力が使えれば……。
すると、私達の足元が円形に光った。これは……。
「……はぁ。お待たせ、日鏡蛍さん」
「三鷹先生!」
三鷹先生の事はあまり好きじゃないが、助けに来てくれたのだ。素直に感謝する。
「瀬戸、あんたは何をしてるのかな?」
うわっ! また1オクターブ下がった。
「しょうがないだろ。てか、あんたも来るなら早く来いよっ……つぁぁ!」
三鷹先生は瀬戸の足を思いっきり踏んだ。
「………寮前に飛ぶわよ」
長いチョークで、円を描く。
「寮前……。あ、日向君。ごめんね!」
教師である立場からして、一方の生徒に肩入れするのはいけないことなのだろう。
私達は不覚にも三鷹先生によってあの場所から脱出する事が出来た。
「私は賢汰郎の所に戻るわね」
三鷹先生は私達にそう告げると、すぐにその場を去って言った。
寮前にある噴水は沈みかけた太陽が茜色の光を反射させている。
もう、こんな時間だったんだ。
「で、話があるんだろ? 向こうで何か言おうとしてたし」
「……うん」
「今日は泣くなよっ!」
勘弁してくれ、と瀬戸は一歩後ろに下がった。
「な、泣かないわよ!ただ、力が使えなくなっちゃって……」
「……まぁ、予想はしてたけどな」
そんなことか、というように瀬戸は緩い笑みを浮かべ続けた。
「守護神の力ってのは、何の為にあると思う?」
「え、それは……守護神だから自分を守るため、とか?」
「そう、その通り。自分を守るための力がこの力なんだ。だけど、お前はなんだ? 白川と高梨を守る、守るって。そんな事してたら守護神だって愛想つかすだろ」
な、な、な、何それ!?
「じゃあ、私はどうすれば良いのよ」
「だから、二人だって力持ってるだろ! 守らなくたって、二人は自力で何とかできる。お前はまず、自分を守れるようになれ」
「……そう、よね。でも、自分を守って、二人も守るってのもありよね?」
「お前なぁ……」
私は呆れている瀬戸に今日一番であろう笑顔を向けた。
「瀬戸がいるんだし、大丈夫よ」
「はぁぁ。調子狂う……。……特訓」
「え?」
「するんだろ?」
「もちです!」
私は瀬戸の肩をぽんっと叩き、たんたんと自主練場に向かった。沈みかけた夕日の最後の光が私の瞳に映し出される。最後の光を見れたこと、それが何だか無性に嬉しく感じられた。




