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約束

「ちょっとは、落ち着いたか?」


 噴水のレンガ造りに座らせられた私は息を大きく吐いて答えた。


「……うん。あ、ありがとう」

「ああ」


 瀬戸は何も聞かなかった。私は何も聞かれなかったことにホッとしたが、同時に瀬戸に話さないことで逃げている、とも思った。


「……何があったか聞かない、の?」


 私はあえて、質問した。


「まぁな。話せる時に話せば良いだけだ」


 なんて優しく笑うのだろう。私にはその優しさが少し苦しかった。


「今……話すわ。そうしないと、私逃げちゃうから」


 私は震える唇で精一杯笑顔を作った。きっと、私の笑顔は相手に悲しみしか与えないもの。


「おう」


 瀬戸は小さく頷いた。


「さっき……紗奈が蒼と話してたのを私が聞いちゃったの。紗奈が帰りたいって言ってて……」

「ああ、そうだったな。三人とも異世界から来たんだよな。白川は異世界に来ることを望んでなかったのか?」


 私は瀬戸の問にコクリと頷いた。


「異世界に来たかったのは私だけ。私が二人を巻き込んだのよ……」

「なるほどな」

「私、この異世界で楽しみすぎた、よね? 紗奈がそんな事を思ってるなんて全然気づかなかった……蒼は気づいてたのに」

「日鏡……いつまで、ここは異世界なんだ?」


 一瞬質問の意味が理解できなかった。


「え?」

「今、日鏡がいるのはここなんだ。正しい言葉で表すなら日鏡が前いたのが今は異世界と言うべき所だろ?」


 私は異世界を何だと思っていたんだろう。


「そう、かもしれないけど……」

「異世界だ、異世界だ、と意識しすぎていつも見えていたことが見えなくなっていたんだろ? ちゃんと、逃げずに話してみろよ」


 隣で夜空を見上げながら言った瀬戸の顔は少しだけ大人びて見えた。


「……うん。そう、よね」

「今日は寝ろ、明日また相談に乗ってやるから。明日は早めにクラスに来い」


 明日の約束は、私を動かす原動力になった。きっと約束がなければ私はしばらく引きこもるだろう。

 私は逃げない、そうしなければならない……。逃げない事がこの世界に来た代償、そんな気がする。



 朝、私は誰もいない静かな道をゆっくり歩いて学校に向かった。


「おはよう」


 教室には、この時間だけあって瀬戸しかいなかった。


「日鏡か、おはよう。眠れたか?」

「ありがとう、大丈夫よ」


 私は戻らない調子を誤魔化すべく、引きつっていただろう笑顔を作った。瀬戸はそれに気づいたのか困ったように笑った。


「白川と今日、普通に話せそうか?」

「分から、ない。でも、話せるようにするわ」


 決意を固めた目で私は言った。


「そうか、がんば――」


 その瞬間、瀬戸の言葉は巨大なノイズによってかき消された。

 これは、何? 何かが壊れたような、爆発したような……とにかく通常では聞こえない音。


「マジかよ……」


 音を聞いた途端窓を開け外の様子を伺った瀬戸は血の気の引いた顔で呟いた。


「瀬戸、何今の?」

「三ヶ月前から姿をくらましていたから言う必要ないと思ったんだ。あいつらは、学園の生徒を狙った無差別殺人組織……」

「……え、さつ、じん?」

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