止められない思い
寮の扉を開けると肌寒い風が吹き込んできた。私は勢いをつけて扉を開けそのまま前方に走った。噴水にぶつからないように横によける。私は俯き、歯を食いしばって涙をこらえた。
「日鏡? こんな夜中にどうした?」
顔を上げると噴水には瀬戸が座っていた。本を片手に持っている様子からしてここで本を読んでいたのだろう。
私は瀬戸の顔を見た途端、歯を食いしばっていた口が緩み安心感を覚えてしまった。私の目から暖かい雫が流れ落ちる。それに気づいた私は咄嗟に瀬戸の前から逃げようとした。
「おい、待て! ……何があった、逃げるな」
瀬戸は逃げようとした私の手を掴んだ。
「どうして……あんたに指図られなきゃいけないのよ? …………放して」
私は掴まれた手を瀬戸の手から振り切ろうと力を込める。
「はぁ……。あんたは俺の協力者なんだ。協力者がそれじゃあ俺は困るんだよ」
瀬戸は背中を向けている私に向かって言った。
「……辞めて。今は私に優しく、しないで」
瀬戸はその言葉を聞き私の手を離した。そう、それで良いのよ……。
その瞬間、ふわっと背中を温かい物が覆う。
「カーディガン……。手、冷たかったから」
どうして……辞めてって言ったのに。
私の感情とは別に目には涙が浮かんだ。そして、その涙を私は止めることが出来なかった。
私はゆっくりと方向転換し瀬戸の方を向いた。瀬戸の服の右肩あたりを握り締め、私はそこに頭をつけた。
「……っご、めん。少しだけだからっ………うっ、うわぁぁぁーーーあっぁぁぁ」
ーー私は声を潜めて泣き叫んだ。
私が泣いていいはずはないと、分かっていた。でも、ぐちゃぐちゃになる心の中を抑える事は出来なかった。紗奈は心の中がぐちゃぐちゃになってもずっと我慢していた、それを思うと私という存在を自分自身が否定してしまっていた。
それを拒むかのように涙は、私の心は、溢れ続けた。