放課後
セルフの彼らが行ってしまったあとドームの中には何とも言えない空気が残った。
「あぁぁぁぁ! むっかつく!」
「おいおい、肝心の本人は黙ってんのに何故お前がそんななんだ?」
やれやれ、というように蒼が軽くため息をつく。
「だって椎名、最悪だったじゃん!」
「私も、ちょっとあれは無いと思ったけどさー」
どうして、皆分かってくれないんだろう。あんな、あんな事を言われたのに……。
薄情よ、皆。
「あ、あぁ! あれだ、俺、瀬戸の力見てみたいな」
蒼のやつ話題を逸らしやがった。しかし、私もそれは気になる。
「そういえば、言ってなかったな。俺が借りてるのはトリックだ」
瀬戸は私達から少し離れると「CONTRACT」と呟いた。
次の瞬間、瀬戸の手に有ったのは車によくあるカーナビのような電子地図だった。瀬戸は電子地図を操作し、私に「あそこに行ってくれ」と言った。
瀬戸が指さしたのは私がいた場所から数メートル離れた場所で特に何の変哲もなさそうな場所だった。私は言われたとおりにその場所へ行くと瀬戸は指を鳴らし「チェック」と薄気味悪い笑みを浮かべた。
「きゃあっ」
瀬戸が指を鳴らした直後、私のいた場所だけにどしゃ降りの雨が降る。雨は直ぐにやんだが私は凄く濡れた。
「ちょっと、何すんのよっ!」
「おお! これが、トリックか」
「凄いよ、これ」
紗奈と蒼は私がどしゃ降りの雨に振られた事など気にもせず瀬戸に輝きの目を向ける。
「頭を冷やせの意味も込めてやってやったんだ、日鏡。感謝しろ?」
瀬戸……また、地味にイラッとする事を。
「はいはい、お陰様で頭冷えましたー」
こうすりゃ、いんでしょ!?
「椎名達のせいで集中力も切れたし今日はこれで終わろう。寮へ案内する」
いつの間にか空になったタッパーを瀬戸は鞄にしまった。そして私達は瀬戸を先頭にし自主練場をあとにした。
寮は自主練場とは反対の方向で昇降口から見て左側にあった。これまた昇降口からだいぶ近かった自主練場とは違い、少し距離のある所だった。寮の前には噴水があり、光を反射した水しぶきは凄く綺麗だった。
「中に入るぞ」
瀬戸は茶色いレンガで出来た横長のオシャレな五階建てぐらいの建物を前にして言った。
「男子寮と女子寮別じゃないの?」
私は意外に思い、小首を傾げる。
「階段から右が女子で左が男子になってるけど建物自体は一緒だ。あと、一応全員同じ階にしておいたからな」
そこに蒼が口を挟む。
「相部屋?」
「いや、一人部屋だ」
階段しかないらしく私達は三階まで登らされた。瀬戸はそれぞれに部屋の案内をし今日はそこで解散。
私の部屋は階段から一番遠い部屋だった。近い方が良かった、と思いながらも紗奈が一番階段の近くだったので私が端のほうが良いよね……と納得することが出来た。
蒼も階段に一番近い部屋で階段を抜けば二人は隣ということになる。 瀬戸は蒼の隣の隣で私が一番階段から遠いようだった。
その夜、私は寮を抜け出し自主練場へ行った。
「少し、自主練!」
当たり前の事だが自主練場には誰もいない。
「CONTRACT……弓」
そう呟き、私は弓を構える。私は狙う場所を決め、そこに狙いを定めた。
「ふぅぅ、………当たれっ」
大きく息を吐き、当たる事を信じたが全然的外れな場所に針は刺さった。
「……もっと、もっと、集中」
自主練場に入ろうとした瀬戸はその手を止めた。少し空いていた扉の隙間から人影を見たのだ。
「あれは……日鏡?」
瀬戸は少し嬉しそうに笑い
「今夜は辞めるか」
と呟き寮へ戻っていった。