自主練場の髪くせ毛男
自主練場には私達の他には誰もいなかった。だがそのお陰で私達はここを広々使えた。
瀬戸に力を見せたあと、瀬戸の命令で力を出すスピードをアップさせるため何度も「CONTRACT」と「解除」を繰り返した。
「うん、三人とも最初よりスピードが上がったぞ」
「はぁぁ、同じことすると結構体力使うわね」
「私も、お腹すいたー」
そう言い紗奈は芝生に座り込んだ。
「もう、お昼過ぎか。賢汰郎、いや早水のやつが作ったサンドイッチだ」
「サンドイッチ! 俺の大好物だ〜サンキュー」
蒼は大好物のサンドイッチに興奮し瀬戸に抱きついていた。
「おい、重いんだが……」
「あ、悪い、悪い」
「あんまり、紗奈を待たせない方が良いんじゃない?」
昨日の今日で切れられたら、たまったもんじゃない。
「そうだな、じゃあここで座って食べよう」
四人が座った中心にサンドイッチの沢山詰め込まれた大きなお弁当箱基タッパーを二つ置いた。
私達が談話しながらサンドイッチを食べていると、ギシシシ という音と共に自主練場の扉が開く。
制服を着た赤い瞳の男が先頭。茶色い髪の毛はくせっ毛なのか、所々跳ねている。その後ろに続く二人の男女。長い黒髪に少しだけつり上がった目は桜色の唇で微笑む彼女から美しさを感じさせる。そして、彼女の隣には同じく長い黒髪だが後ろで一つに結いている男。少々下を向いていて怖い。
彼らはこちらに向かって歩いてき、瀬戸の目の前で止まった。
「やぁ、モーメント代表の瀬戸直人。君が人と居る所なんて始めてみたよ。仲良くピックニックでもしているのかい? にしても、君がモーメントのメンバーを増やせる日が来るなんてびっくりだよ! ああ、そっか。あの三人は転入生だったね〜、だから上手く騙せたって事だね」
赤い瞳の男は瀬戸を見下ろし可笑しそうに言った。
私は我慢できなかった。瀬戸を悪く言われた事が、私達を馬鹿にしたことが、何よりこんな髪くせ毛男に言われたのがとても気に食わなかったのだ。私は席を立ち男の前へ行った。
「髪くせ毛男! あんた、誰よ!? そっちの二人も」
「か、髪くせ毛っ? ごほんっ。君は……転入生の」
「日鏡蛍よ」
「……僕はセルフ代表の椎名。そして、彼らは僕の補佐、のようなものかな? 自己紹介を」
「はい。私は小南と申します」
最初に名を名乗ったのは彼女だった。続いて男の方が口を開けた。
「俺は夜長というものだ」
自己紹介はちゃんとしてくれるのね、でも
「……私、椎名の事嫌いよ!」
「あなた、何て事をっ! もう行きましょう、椎名さん」
小南が咄嗟に椎名の手を引く。
「……」
椎名は私に返す言葉が出ないのか口を開けたまま、外へと連れ去られて行った。
「椎名さん、大丈夫ですか?」
外に出たセルフの彼らは椎名を心配していた。
「やばい……」
「椎名さん、やはりお気分を悪くされたのですね」
夜長も椎名の顔色を伺った。
「日鏡さん……彼女は僕の女神だ! まだ僕の鼓動は大きく波打っているよ! あの芯をもった美しい瞳、何て素敵なんだ、彼女になら罵られたっていい!」
『し、椎名さん!?』
思わぬ椎名の発言に驚きを隠せない二人。
まさか、椎名がそんなことになっているとは中で怒りを溜めていた私は知るよしもなかった。