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プロローグ 会議は蠢く。

例え海軍が米海軍に勝ったとしても有利に講和できるはずがない。日露戦争で二回の海戦に勝ってロシア海軍を完膚なきまでに叩きのめしてさえ、外務省が焼き討ちされるような講和条約しか結べなかったのだ。一回の決戦に勝って有利に講和するなぞできるはずがない。陸軍は全ての責任を海軍に押し付けて、ハルノート受諾へと動いた。

 昭和十六年十一月。帝都某所。

 米国からハルノートを突きつけられた日本政府首脳部は責任を押し付けあうべく右往左往していた。

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「海軍が勝てない以上、ハルノートを飲むしかないだろう」

「は? 海軍が勝てない?」

「山本君は『半年は暴れて見せるがそれから先は判らん』と言ったそうじゃないか」

「それがどうして『海軍は勝てない』になる?」

「米国が建造中の艦艇が戦力化する前に不利な条件で講和するわけがないだろう」

「神国日本が負けるわけがない!」

「両洋艦隊法でしたか。今現在米国が建造中の艦艇の量を考えれば、一回負けたからといって不利な条件で講和は難しいでしょう」

「講和交渉は外務省の仕事であって海軍の仕事ではない!」

「そんな無茶な事を言われても困る。大体、東郷さんが日本海海戦で勝ってロシアの海軍力を無力化しても、外務省が焼き討ちされるような条件でしか講和できなかったんだぞ。一回勝ったぐらいで有利に講和できるわけがない」

「統帥権の干犯だ!」

「勝てたとしても有利な状況で講和できなければ勝った意味がないでしょう」

「陸軍は神国不敗を信じないのか!」

「勝てないとはいいませんが有利な条件で講和するのは難しいなら戦争する意味が無いのではありませんか?」

「うるさい! 海軍は負けん!」

「では海軍が勝てば米国は石油の禁輸を中止するのか?」

「米国に勝てば蘭印から石油を輸送する事が可能でございます」

「残念ながら長大な補給線を維持しながら小が大に勝った事例はございません」

「つまり二度目の決戦には勝てないということか?」

「おそらく」

「何を言う! 神国日本が負けるはずがない!」

「戦争に勝っても国家の財政が破綻すれば負けと変わりません」

「現在の状況を見る限り、一回勝って有利に講和するという海軍の戦略は破綻しております。例え勝ったとしても有利に講和するのが不可能な以上、ハルノートを飲むしかございますまい」

「しかたがないねえ」

「申し訳ございません」


 かくして大日本帝国は諸般の事情により全ての責任を海軍になすりつけ、ハルノートを受諾する事になった。


 横須賀某料亭。

「お疲れ様です」

「本当に大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫です。海軍が無駄遣いしたのは国民の税金であって、陸軍のように国民の血税を無駄にしたわけではありません」

 ちなみに血税とは徴兵制を意味し、血で納める税の事である。

「銭金の恨みは恐ろしいぞ」

「国民は陸軍への恨みは孫や子の代まで伝えるでしょう。ですが海軍への恨みは欧州の戦争のおかげの来るであろう好景気で綺麗さっぱり忘れますよ」

「だと良いがな」

「まさかとは思いますが、本気で米国と戦うつもりだったんですか?」

「東郷さんの頃とは時代が違う。蘭印までの補給線を抱えた海軍が米国に勝てるはずがない。満州に油田でもあればよかったんだがな」

「ありますよ」

「あるのか?」

「満鉄の調査部が油田のようなものをみつけたらしいですね」

「油田のようなもの?」

「取れるのが重質油で今現在の技術では採算は取れないようです」

「うまくいかんもんだなあ」

「さいですな」



満州の油田は1950年代の技術、重質油から軽質油への改質技術があって始めて採算の合う開発が可能だそうです。

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