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『ハイパーガール』春美と地球、最大のピンチ!

作者: JFZ

地球を侵略宇宙人や怪獣達から守る特殊チーム『ATTACK』東京支部の若き隊員の中で、東郷裕と神村春美は仲の良いカップルである。

春美は、裕と春美の同期隊員でもある長原ひとみにしか知られていないが、侵略宇宙人や怪獣達から地球を守る為に戦う、X55星雲から来た正義のヒロイン『ハイパーガール』が同調している(乗り移っている。)のだ。


そんな裕と春美は今日も職場で仲むつまじくしている…、


筈だったのだが?


何故か今日は春美の機嫌がすこぶる悪く、裕の顔さえも見ようともしない。


どうやら昨日の2人のデートに問題があるようだった。


話は昨日の夕方に遡る。「すごーい!気持ちいいーっ!ここの景色最高!」


デートの終わりに、裕は春美を基地の近くの小高い丘に連れて来たのだ。


「どうだ!連れて来てあげたんだから、少しは感謝しろよ!」

「何よっ?その上から目線な言い方は!」


春美が唇を尖らせた。


「あ、怒った?怒った?」

「もーっ!また私の事イジメる!」


春美は怒って顔を裕から背けた。


「あはは、怒るなよ!」

(春美はいつも、ATTACKの隊員としても、ハイパーガールとしても頑張ってるんだから、ちょっとは楽しんでくれないと、な。)


裕は口では春美をからかっていても、心の中ではハイパーガールでもある春美を気遣っていた。

それだけでなく、裕は2人きりになれるこの場所である決意をしていた。


(今日こそは、告白するぞ!)


裕は、固唾を呑み込み、春美に近づいた。


そして、2人の後をつけてきたひとみも、木陰の中からこの様子を同じく固唾を呑み込みながら見ていた。


(裕!私の春美に変な事したら絶対に許さない!)


春美の事が親友以上に気になり、かつ、裕にも恋心に似た不思議な感情を抱いているひとみには、耐えられない光景だった。


「なあ、春美…さん。」

「なぁに?どうしたの?『さん』なんかつけて?裕らしくない!」


春美には、友好的な人々にしか使えないが、他人の心を読み取る能力がある。

しかし、他人のプライバシーや気持ちを侵害したくない春美はこの能力を普段は使っていない。

今もまさにそうであり、

だから、


(裕…やだ、告白してくれるの?嬉しい!)


と、普通の女の子のように胸を躍らせていた。


「は、春美…、す。」

「ん?」


カチカチに緊張してる裕とは対象的に、カワイくにこやかに裕を見つめる春美だった。


(言うぞ、言うぞ!「好きだ!」って言うぞ!)

(もーぅ、じれったいなぁ、早く言ってよ!)

(裕…春美にあんな事やこんな事をしたら只じゃおかん!)


3人の気持ちがそれぞれの心の中でこだまする。


「春美、す、す、す…。」

「はい?」

(裕もイジワルキャラだけじゃなくて、こんなにカワイイとこもあったのね!ウフフ…。)


意を決意した裕が思いきった行動に走った!


「す…、スカートめくり-!」


裕自身も驚いた!何せ、全く思いもよらぬ出来事に!

緊張のあまり、裕の右手が、今日のデートで女子力をアップさせようと春美が穿いてきたスカートを思いっきり捲った。


「きゃあーっ!」

(な…裕?)


被害者である春美は悲鳴をあげ、ひとみは意外な結果に固まった。


「バカーッ!最低!」

「い゛、痛で-っ!」


怒りに支配された春美に思いっきりビンタされ、裕はその場にがっくりとうなだれてしまい、裕が春美に抱きつく程度なら後ろから蹴り飛ばそうとしたのに、予想外の行動にひとみはとにかく春美を追った。


それが昨日の話だったのだ。

もちろん、話はATTACKの全隊員の知るところとなり、

当然、女子隊員からは総スカンを喰らい、

他の男子隊員からは取り囲まれるなり、


「春美のパンツ、何色だった?」


と、聞かれる始末。


「うーん、ピンク色だったかな?」


答える方も答える方だった。

その時だった!


『バチコ~ン!』

と、ひとみは思いっ裕の頭を叩いた。


「あんたって、救いようのないバカね!」


ひとみが怒りまくりながら裕を叩き、その場を後にした。


裕と春美の2人の仲以外には平和な基地内だったが、この後、地球が未曽有の大被害に見まわれる事になるとは誰も想像出来なかった。


地球最大の危機!

そして、ハイパーガールでもある春美にも危機が迫って居た。



前兆は、ATTACKにある全ての飛行機や車両に配線断裂や燃料漏れ、それに部品の欠落が発見された事だった。


「一斉に故障なんて有り得ない!」


疑問を持ちながらも、メカニック担当者達は一斉に整備を始めたが、修理完了見込みには数日間を要するそうだ。

基地内への侵入者がいないかチェックしたが、監視カメラ等を解析しても何の不具合もなかった。

さし当たり、故障程度の少ない偵察機やパトロール車両から整備を始めた。


続いて、レーダーの電波に変調が出て、まともに映像が出なかったり、世界中のATTACKの基地間の通信が不通になった。


「飛行機や無線機の一斉故障などは有り得ない!」


隊員である赤井秀夫は、ATTACKの飛行機や車両が修理出来次第、隊員に守備範囲の偵察を行う事を命じた。


そうして1時間後、故障程度の少ない偵察機の修理が完了し、ATTACKの副隊長であり、秀夫の妻でもある赤井碧が裕と春美に偵察機で出るように命じたが、昨日の件で怒りが収まらない春美が裕との任務に反対し、代わりにひとみが春美と偵察任務に出ることになった。


「こちら偵察機、L81付近異常なし。」

「本部了解!」


今のところ異常のない日本の上空で、春美とひとみは何らかの兆候がないかを確認していた。


「燃料も少なくなってきたわ。」

「一旦帰りましょう。」


偵察予定時間が着て、基地に帰投しようとした時だった!


突如として、無線機に何者かから発信された音声が流れた。

しかし、それは音声だけではなく、基地のテレビモニターには映像が割り込んで来た。

然も、全てのテレビやラジオ、果てはワンセグの周波数にまで及び、全ての電波が何者かによってジャックされていた。


『地球人、否、裏の地球人に告ぐ!』

「裏の地球人?」


偵察機の中で、春美とひとみはお互いに顔を合わせた。

それは偵察機の中だけではなく、ATTACKの基地内や世界中の全ての人に共通して言える事だった。


『私は『真地球人』、お前達とは違う次元にいる。この地球に地球人を語る存在はどちらか一方のみ、より優れた地球人がこの地球を統べるべきである。』

「は?何だ、コイツは?」


基地内のモニターを見ていた誰もが思った。

基地内のモニターに映る姿は真っ白な姿に狼のような恐ろしい牙と口を持ち、2つの目はこれまた恐ろしく吊り上がっている細身の容姿であった。


「宇宙人か?」


裕がテレビに突っ込んだ。


『私は宇宙人なんかではない!』

「つ…突っ込みがえし?」


何故か、テレビモニターの向こう側に居るはずの真地球人が裕に突っ込んだ。


『ただ今からお前達の次元を攻撃する!その後に我等にひれ伏せよ!』


真地球人は一方的に地球への攻撃を宣言すると、一切の交信を切った。


「どういう事だ?」


作戦室で隊員達が困惑していた時だった。


「隊長、大変です。整備格納庫に何者かが潜入して、修理中の戦闘機を破壊しています。」


戦闘機を修理中の格納庫から緊急の通信が入った。


連絡を受けて3人の隊員達が駆けつけると、銃を持った白い姿をした者が戦闘機を破壊していた。


「誰だ!」


隊員が大声を張り上げると、白い姿をした者が振り返った。その姿は先程のテレビモニターに映っていた真地球人の姿と同じであった。


「お前は…!」


隊員が銃を構えると、真地球人は壁に向かって逃げ出した。


「止まれ!撃つぞ!」


隊員達が制止したにもかかわらず、真地球人は全速力で壁に激突した…、

正確には、壁の中に消えて行った。


「…、消えた?」

「まさか、一斉故障の犯人は奴か?」

「異次元からこっちの世界に自由に侵入し、破壊しては自分達の次元に戻る!非常に厄介だな!」


隊員達が取り逃がした真地球人の事を考えていた時、偵察機のひろみから緊急連絡が入った。


『隊長、怪獣が一体、H-114地点に出現!街を破壊しています!』


狛犬が巨大化して2本足で歩きながら破壊を繰り返す白い姿の怪獣が暴れ狂っていた。


「市街地から離さないと、民間人に被害が出てしまう。」


操縦席の春美は懸命に攻撃しているが、偵察機に装備された武装はバルカン程度しかなく、白い怪獣には歯が立たなかった。


「ダメ!全く効かない!」

「もう一度やってみて!」


春美とひとみは白い怪獣を倒すには心許なさすぎなバルカンで攻撃を再開した。


「隊長!春美達の応援を出さないと!」


戦闘の推移を気にした裕が隊長に進言した。


「しかしな…、飛べるものがこうも破壊されると、行きたくても行けないからな!」

「他には無いんですか?」


そこへ、武装を持たないパトロール車両が修理完了した旨の連絡が入った。


「わかりました。」


誰も命じていないにも関わらず、裕が車両格納庫に駆け出して行った。


「裕、待ちなさい!…もう、あの子ったら!」


何時もの無鉄砲さに呆れる碧に構わず、裕は基地を出た。


その頃、春美達は、バルカンの残弾も乏しくなり、それでも何とかして謎の白い怪獣を食い止めようとしていた。


「何とかしなきゃ!」


残弾も少ない中、春美やひとみには焦りが現れていた。


その時!


「きゃあああーっ!」


白い怪獣の口から光線が出て、春美達の乗った偵察機のエンジンを破壊した。


「脱出しましょう!」


春美が脱出装置のボタンを押したが…、


「ダメだわ!作動しない!」


先程の被弾のせいか、脱出装置が作動しなくなった。


「付近の広いとこに不時着するんだ!」


基地から秀夫が呼びかけたが、


「ダメです。操縦も効きません!」


エンジンを破壊され、偵察機は操縦が効かなくなっていた。


「春美ーっ!ひとみーっ!」


エンジンから炎の上げつつ、墜落する偵察機の姿は、裕の乗ったパトロール車両のフロントガラスからも確認できた。


その時!


偵察機がパッと明るい光に包まれ、中からハイパーガールが現れた!


「春美…、じゃなかった、ハイパーガール!間に合ったんだ!」


春美が変身したハイパーガールはひとみを乗せたままの偵察機を無事に地上に置くと、白い怪獣に向かってキックした。


「ハァーッ!」


しかし、白い怪獣は一瞬姿を消して、ハイパーガールのキックが空振りしてから再び元の位置に姿を現した。


『無駄だ!ハイパーガール!この怪獣の名は『ゲンドン』、同じく次元の間を往来する力を持つ!貴様の攻撃など全てかわす。』


声の主は、先程無線やテレビモニターで喋っていた真地球人の声だった。


『行け、ゲンドン!』


声に操られるかのように、ゲンドンはハイパーガール目掛けて口から光線を吐いた。

ハイパーガールは難なく交わすが、ゲンドンはハイパーガールの行く先に光線を放つ。


その頃、現場に到着した裕は、ハイパーガールのおかげで無事に不時着できた偵察機からひとみを救出した。


「裕、ありがとう!」

「ひとみ、俺はハイパーガールを援護するから、お前は安全になとこに隠れてろ!」

「裕、無茶よ!」


裕の行動をひとみが止めるように促したが、


「あいつは強敵だ!ハイパーガールを助けないと!」


裕はひとみの制止を聞かずに付近のビルに駆け込んだ。


「裕、待ちなさい!」


裕の暴走を止めるべく、ひとみも裕の後を追った。


ハイパーガールは、ゲンドンの口から放たれる光線をかいくぐりながら、ゲンドンの隙を窺っていた。


裕は廃墟となったビルの屋上に来ると、ゲンドンの顔めがけてレーザーガンで撃ちまくった。


「裕!そんなの撃ったって効かないわよ!」


裕を追い掛けていたひとみが裕に向かって叫んだ。


「例え無駄でも、やってみなければ分からないだろ!やらないで悔いてしまうよりはやって悔いしろ!だからな」

「…わかったわ、やってみる。」


ひとみも裕に触発されてか、ゲンドンの顔目掛けて撃ちまくった。

そして、裕の放ったレーザーガンがゲンドンの口元に命中し、ゲンドンが初めて苦しむ姿をみた。


「やっぱりな。」


そういうと、裕はハイパーガールに向かって話し始めた。


「ハイパーガール!奴の弱点は口元だ!」


裕はハイパーガールに向かって叫ぶと再びゲンドンの口元目掛けて撃ちまくった。


「裕、知ってるの?」


ひとみは撃ちながら尋ねた。


「勘だよ!」

「…勘?」

「あいつは全身が白いのに、口の中だけは赤いからな。」


ひとみは呆れながらも裕と一緒にゲンドンの口元目掛けて撃ちまくった。


すると、


裕たちの撃ったレーザーガンがゲンドンの口の中に命中し、怯んだ。


「ハァーッ!」


ハイパーガールは必殺技の一つである『スパークスター』を放った。


「グオオオオ!」


スパークスターを食らったゲンドンは悶え苦しんだ。


そうしているうちに、ハイパーガールの地球上での活動の限界時間である五分がこようとしていた。ハイパーガールは最大の必殺技


『ブリリアントアロー』


をゲンドンに目掛けて撃ち込み、ゲンドンは爆発した。


その時だった。


爆発して弾け飛んだゲンドンの体の一部が裕達のいるビルに激突し、ビルが崩れてしまった。


「うわあああ!」

「きゃあーっ!」


裕とひとみは崩れ落ちるビルに飲み込まれて行った。


「裕ーっ!ひとみーっ!」


変身の解けた春美は裕達のいるビルに駆け寄った。

正確には、ビルの跡であり、瓦礫の山であった。


「裕ーっ!ひとみーっ!」


春美は懸命になって探した。

程なく、瓦礫の中から人の手を見つけた。


「ひ、裕?」


春美は恐る恐る近付いた。その手は紛れもなく、裕の右手だった。


「裕ーっ!」


春美は一目散に駆け寄った。


「は、春美?」


裕は瓦礫の中から頭と右手だけを出していた状態で、そこから動けないでいた。


「裕!今助けるわ!ひとみは、ひとみは無事なの?」

「ひとみは俺の下にいる。ビルが崩れ落ちる時にひとみをかばったからな!」

「裕!ありがとう!ひとみを助けてくれて。今出すからね!」


そう言って春美が裕に手を差し伸べようとした時だった。


「きゃあああーっ!」


突然、巨大な手が春美を掴み取り、春美を大空高く奪い去った!


「は、春美ーっ!春美ーっ!」

「裕ーっ!助けてーっ!裕ーっ!」


春美は裕の名を叫び続けながら、自分を握り締めた巨大な手と共に大空の中に消え去った。


「春美ーっ!」


裕は春美を連れ去った大空に向かって叫び続けたが、春美は帰って来なかった。


「畜生、畜生、畜生ォ!」


瓦礫に閉じ込められたまま、裕は怒りに身を震わせた。


「いやーっ!離して!」


漆黒の空間に連れ去られた春美は自分を握り締めている巨大な手から逃れようと全力でもがき暴れたが、巨大な手の力はとても強くて、小さな春美が幾ら暴れようとしてもびくともしなかった。

そうしているうちに、巨大な手はいきなり春美を離した。


「キャッ!」


巨大な手から解放されてすぐ、春美は床のようなところに尻餅をついて倒れ込んだ。


「ここは…、どこ?」


漆黒に包まれて何も見えない空間に置き去りにされた春美は、不安な気持ちを隠せないまま周囲を見渡した。


その時!

『ガガー!』

「キャッ!」


春美の頭上から何かが一気に落ちてくるようなけたたましい音を聞き、春美は反射的に両手で頭を覆った。

すると、落ちて来た謎の物体は春美の頭上の両手に絡まり、まるでクレーンで引き上げるかのように春美を爪先立ちさせる位まで持ち上げた。


「やだぁ…、何これ!」


両手を天井高くに吊り上げられて手の自由を奪われ、爪先立ちになって些か不安定な状態で立たされ、春美は不安に、否、恐怖を感じていた。


「ようこそ、我々の次元に!ハイパーガール!」


どこからともなく何者かの声がした直後に、何色とも判別のつかない光が春美の周囲を照らした。

野球場程はあろうかと言う広さの空間の中心に自分がいて、高すぎて天井があるのかどうかわからない頭上から延びた鎖に自分の両手が縛られていることがわかった。


「誰?誰なの?」


春美は明るくなった周囲を見渡しながら、声の主を探した。


「此処にいるよ!」

「ヒッ…。」


声の主は突然春美の目の前に現れた。

その姿はATTACKに対して宣戦布告したあの真地球人だった。


「あなた何者なの?私をどうする気?」


春美は真地球人を睨みつけながら叫んだ。


「ハイパーガールよ!我々真地球人の目的は地球の全次元の制覇にある。既にほぼ全ての次元を制覇した我々にとってお前達のいる次元の制覇などは容易い。ハイパーガールという邪魔な存在が無ければの話だがな。」

「あなた達は地球を侵略してどうするつもりなの?」

「侵略?とんでもない!我々も地球に住む地球人だ!ただ、お互いが別の次元、所謂『異次元』の住人なのだよ。別の次元であろうと我々の地球を統べる地球人の存在は一つで無ければならない。」

「だからって、他の次元の人々を倒す必要があるわけないでしょ!今すぐ侵略を止めなさい!」

春美は目の前の真地球人を睨んだ。


その時!

「ウッ!」


真地球人のボディーブローが春美の腹に炸裂し、春美は一瞬呼吸が出来なくなった。


「物分かりの悪いお嬢さんだ、何度説明すればいい?我々の行為は侵略ではない!地球に蔓延る不浄な人間共を浄化し、地球を我々の物にするだけだ!」

「それって、地球人を滅ぼす事?」

「そうだ!我々にとって他の次元の地球人など取るに足らん虫けら共だから、今まで征服した全ての次元の地球人などは絶滅させるまで。」

「それを侵略と言うのよ!」


春美は真地球人を思い切り睨みつけながら叫んだ。


「それと、私をどうする気?」


すると、真地球人は春美の隊員スーツに手を伸ばした。


「…ヤッ、な、何する気?変態!」


春美は真地球人の手から逃れようとしたが、両手を天井から吊り下げられた鎖で縛られている身ではその場でもがく事しか出来なかった。

そうしているうちに、真地球人は春美の隊員スーツの胸ポケットからハイパーガールに変身するために必要な変身カプセルを取り出した。


「ダメ!それは…。」

「お前はこれがなければただの女。」


真地球人は一気に変身カプセルを握り潰した。


「あーっ!」


春美の絶叫も虚しく、粉々になった変身カプセルは真地球人の手のひらから零れ落ちた。


「フッフッフ、これでお前達の次元を制覇したと同じだな!」


真地球人は両手のひらに付着している変身カプセルの残骸を払いのけながら不敵な笑みを春美に見せつけた。


「な…どうしよう…。」


目の前の強敵を倒すのに必要な変身カプセルを粉々に破壊され、春美は落胆した。


「後はお前をどうするかだな?」


不敵な笑みを浮かべたままの真地球人が春美のヘルメットとレーザーガンを取ると無造作に放り投げ、今度は春美の顔を平手打ちにした。


「痛いっ!」

「お前には恐怖を叩き込ませてから始末しよう。あと、言い忘れていたが、今まで制覇した地球人のサンプルを一体ずつ収集しているから、お前をサンプルにしてやらなくもないぞ。」


真地球人がそう言うと、床の一部から円筒形の大きなカプセル状のものがせり上がり、何かの液体で満たされたガラス張りのカプセルの中には今まで見たことのない異形の魔物達が一体づつ陳列されていた。


「きゃあーっ!いやあーっ!」


春美は恐ろしい物を見た恐怖と自分も同じ運命を辿るかもしれないと直感した事に悲鳴をあげ、自分を縛りつけている鎖から逃れようと懸命にもがいた。


「フハハハハハ!次元が違うだけでこうも恐れるとは何とも情けない!」


真地球人は声高に笑った。


「そうだ!お前だけではなく、お前の仲間にも恐怖を与えてやれ!」


真地球人は何かを思い付いたらしく、自分が侵略してコレクション用の標本にしたカプセルを床に納めると春美の目の前から姿を消し、再び、春美のいるところは漆黒の闇に包まれた。


「裕…、どうしよう?私もう変身出来ない…。グスッ…、助けて。」


春美は誰もいない闇の中で裕の事を思い出していた。

変身カプセルを破壊され、ハイパーガールになれなくなった春美には最早絶望しか残されていなかった。



同じ頃、ATTACKの日本支部では、次の真地球人への対策と真地球人に捕らえられた春美の救出について対策を練っているところであった。

全世界中で同時多発的に発生した真地球人達の攻撃に、ATTACKを始め、世界中が混乱していた。


「副隊長、メディカルセンターに運んだ裕の容体は?」


作戦室にいた秀夫は副隊長である碧に尋ねた。


「打ち身が多少あるだけで、命に別状ありません。ただ…。」

「ただ…?何だい?」

「あの子…、目の前で春美を攫われてるから…、その事を物凄く責めてて、このままだと危ないから麻酔で寝かせてます。」


碧は攫われた春美や負傷し、自分を酷く責めている裕の事を思い出して涙ぐんだ。


「碧、どうした?」

「な、何でもありません!」

「お前、裕の事が好きなのか?」

「隊長!こんな時にからかわないで下さい!」

「隊長!こんな時にふざけないで下さい!」


碧と一緒にひとみまで怒った。


「そう怒るなよ2人とも!それはそうとひとみ、お前は診察を受けなくて大丈夫なのか?」


作戦室にいたひとみも先程まで裕と瓦礫の中に閉じ込められていたので、秀夫はひとみの事も気遣った。


「私は、ビルが崩落する時に裕が私に覆い被さって守ってくれたから無事でした。しかし、春美は今何処なんですか?」


ひとみは目から大粒の涙をこぼしながら秀夫に尋ねた。


「残念だが、分からん!それに、次の真地球人達の攻撃が予測出来ない以上、先ずはそちらに全力を傾けねば…。」

「じゃあ、じゃあ春美を見殺しにする気ですか!?」


自分としては予想外だった秀夫の言葉に驚きを隠せないひとみだった。


「そんな事はない!春美は大事な仲間だ!必ず助け出す!」


そんな時だった。



再び作戦室のテレビモニターに真地球人の姿が現れた。


「地球人の諸君、元気かね?」


作戦室の全員が一斉にテレビモニターを見た。


「今から面白いものを見せてやろう。」


真地球人はそう言って姿を消すと、画面の向こうに手術台のようなテーブルの上に大の字で両手足首を固定されている春美が映し出されていた。


「春美っ!」


全員がテレビモニターに映し出された春美の姿に釘付けになった。


「安心したまえ、この映像はこの基地にしか流していない。では面白いものを見せてやろう。」


真地球人が喋り終えた瞬間、春美を乗せた手術台が高熱を帯びたように真っ赤になった。


「あああーっ!熱い!熱い!」


大の字にされて固定されている春美が高熱に襲われ、今にも焼け焦げそうになっていて、熱い!と叫び続けながら高熱から逃れるために懸命にもがいていた。


「貴様ーっ!春美を殺す気か?」

「はっはっはっ、遅かれ早かれお前達は死ぬ運命にあるんだ!それまでは仲間が悶え苦しむ姿を見て嘆き悲しむがいいわ!」

「熱ーい!いやああーっ!」


隊員達がテレビモニター越しに見ている前で春美は焼き殺されそうになっていた。

手術台と密着している春美の背中から白い煙のようなものが出て来た。


「仲間が悶え死ぬ姿を目に焼き付けるがいいわ!」

「いやーっ!熱ーい!」

「お願い!もう止めて!」


春美の悶え苦しむ姿を見て、ひとみが金切り声で叫びながらその場に泣き崩れた。


「裕ーっ!助けてーっ!裕ーっ!」


熱さに苦しめられている春美の裕を呼ぶ叫び声が作戦室に鳴り響いていた。


その時だった。


「春美ーっ!」


メディカルセンターの病室で寝ていた筈の裕が作戦室に入って来た。


「裕!寝てなきゃダメだろうが!」


男子隊員達が裕をメディカルセンターに返そうとしたが、


「隊長!今すぐ春美の救出に向かわせて下さい!」


裕はふらふらの状態であったが、春美の危機を見ていられなくなり、裕は春美の救出を秀夫に申し出た。


「裕、今のお前じゃ無理だ!」

「今のあなたには療養が必要よ!無茶しないで!」


秀夫と碧が裕を制止しようとした。


「熱ーい!裕ーっ!裕ーっ!」


テレビモニター越しに映し出されている春美の悶え苦しむ表情は変わらず、裕には耐えられない怒りとなっていた。


「私達もあなたと同じ気持ちなの、でも、今のあなたのその身体じゃ何も出来ないわ!」


碧は何が何でも春美を助けてようとして、身の危険を冒してまで出て行こうとする裕を懸命に宥めた。


「ATTACKの諸君!仲間を見殺しにしながらやがては殺される自分達の運命を嘆き悲しめ!あっはっはっはっはっ!」


真地球人の笑い声を最後にテレビモニターの映像は途切れた。


「副隊長!今すぐ俺を春美の所に…。」

「いい加減にしなさい!」


裕の身を案じるあまり、無茶してでも行こうとする裕の頬を碧が平手打ちにした。

思わぬ碧からの一撃で裕は一瞬黙った。


「あなた、あいつらや春美がどこにいるかさえわかってない癖にどうするつもりなの?」

「そ、それは…。」

「それ見なさい!それが無茶と言うものよ!何時まで経っても分からないの?」

「だからと言って、春美が殺されそうになっているのに何もしないなんて!」

「あなたは何回同じ事を言わせたら分かるの?」


何度も同じ事を言って聞かない裕の態度に業を煮やした碧は、泣きながら裕の顔を自分の胸の中にうずめさせて優しく抱きながら諭した。


「春美は大事な仲間、裕、あなたも大事な仲間よ!今のあなたには春美を助けるのは無理よ!だから私達を信じて!」

「副隊長…。」


碧の懸命な説得に裕は冷静さを取り戻し、他の男子隊員に付き添われてメディカルセンターに戻った。

作戦室には春美の悶え苦しむ姿に心を打ちのめされたひとみ達女子隊員のすすり泣く声だけしか聞こえなかった。



「裕と言う奴がいるのか、この女には?」


手術台の上で大の字に固定されながら、高熱の拷問に遭わされて気を失った春美を見つめながら、真地球人はほくそ笑んだ。


「おい!」


真地球人は彼の部下である別の真地球人に何かを命じた。



その日の夜、万が一の発作を恐れて再び麻酔で眠らされている裕は悪夢にうなされていた。


(は、春美…。)


裕の夢の中で、春美は真地球人に惨殺されている光景に涙した。


そこに…、


「…裕。」


誰かが眠っている裕を起こした。


「…その声は、春美?」


裕が目を覚ますと、すぐ傍に真地球人に捕らわれていた春美が立っていた。


「春美…、どうして?」

「裕…、私が苦しめられているのに、どうして助けてくれないの?」

「ごめん…、それは…?」

「私の事が好きじゃなかったの?」


そう言って春美はベッドに寝ている裕の上に身体を乗せた。


「は、春美?何する気だ?」

「フフフ…、私の事が好きな癖に。」



春美は裕の顔に自分の顔を近付け、寂しそうな表情で裕の耳元で囁いた。


「私の事が知りたい?」

「春美?いつもの春美じゃない!」


裕がそう叫び、自分の上にいる春美をどかそうとしたが、金縛りにあったかのように身体が動かなかった。


「私の事を教えてあげる。」


春美は裕の上に馬乗りに跨がると、春美の隊員スーツの上着のファスナーをゆっくりと降ろした。


「は…、春美!」


春美がファスナーを降ろし終え、隊員スーツの上着をはだけた。

そこにあったのは春美の肢体ではなく、漆黒の闇が広がる空間だった。

然も、中心には何かが蠢いているようにも見えた。

裕が目を凝らして見ると、そこには両手首を後ろ手に縛られ、足首も縛られている春美が蛇の大群の中で悶え苦しむ姿だった。


「きゃあーっ!いやあ!きゃあーっ!」


両手足首を縛られながらも蛇の大群から何とか逃げようとしても、春美の身体に無数の蛇が絡み付き、もがけばもがく程蛇が纏わりつき逆効果となっていた。


「春美ーっ!春美ーっ!」

「いやあーっ!誰かーっ!」


裕の目の前にいる春美の偽物はファスナーを上げ、春美が蛇の大群に襲われている映像を隠すと、


「裕が私を助けに来ないから、私がこんな酷い目に遭ってるのよ。」

「止めろ!春美を返せ!」

「だったら私を助けにあなただけが来て!私がどこにいるか?私が攫われたとこに来ればわかるかもね?」


そう言い残して、春美の偽物は姿を消した。


「畜生!」


裕は病室を抜け出し、パトロール車を置いている格納庫にやって来た。


「どこ行くの!」


裕が声のする方を向くとそこには険しい表情のひとみが立っていた。


「ひとみ…、邪魔しないでくれ!」


裕はひとみを無視して行こうとしたが、


「私も連れて行きなさい!」

「え?」


裕はてっきり自分を止めに来たと思っていたひとみが、まさか自分と行動を共にするなんて思ってもいなかった。


「足手まといになるから来るな!」


裕は1人で行こうとしたが、


「その身体で何が出来るの?本当にどうしようもないバカね!副隊長にあんなに迷惑かけて!あんたにもしもの事があれば春美や副隊長に申し訳無いじゃない!」


ひとみは裕から車のキーを引ったくると、自分はパトロール車の運転席に乗り込んだ。


「乗りな!」


ひとみは裕を助手席に乗せると、静かに車を走らせた。


「ひとみ…。」

「何?」



裕は申し訳なさそうにひとみに言った。


「ありがとう。」

「あんたみたいなどうしようもないバカに言われても嬉しくない。」


2人のぎこちない会話が終わると、パトロール車は春美が連れ去られた現場に着いた。


「春美はどこにいるの?」


真っ暗闇の中で廃墟と化した不気味な市街地で不安に駆られたひとみが裕に尋ねた。


「さあ…?」

「さあ?さあっ?あんた、何かわかったから来たんじゃないの?」

「真地球人がここに来いっていったから来たんだよ。」

「呆れた!罠かも知れないのに、よくのこのこと来れたわね!」


ひとみが苛立ちを裕にぶつけている時だった。


「キャアアア!」


ひとみが春美を奪い去った時と同じあの巨大な手に握り締められた。


「ひとみーっ!」

「助けてーっ!裕ーっ!」


あの時と同じく、ひとみが巨大な手に握られながら上空に連れ去られそうになっていた。


「あの時みたいに見逃さん!」


裕はひとみを握り締めた巨大な手にしがみついた。


「裕ーっ!」

「ひとみーっ!」


裕は巨大な手に握られたひとみの頭を抱きながら、夜の帳が包む大空の彼方に消えていった。



「痛っ!」

「キヤッ!」


2人は巨大な手によって漆黒に包まれた空間に放り出された。


「ここはどこ!」

「ここが真地球人達のいる次元なのかもな。」

「怖い!でもここに春美が捕まってるのね。」

「多分な。」


恐怖に震えるひとみを優しく抱き締めながら、裕は周囲を見渡した。

しかし、そこには闇以外の何も無かった。


「探そう、春美を。」


裕が意を決して春美を探すために立ち上がった時だった。


「その必要はない!」


何者かの叫び声が聞こえた。


「誰だ!」


謎の声に怯えたひとみを庇いつつ、裕が叫んだ。


その時!


自分達と他にもう一点、スポットライトのようなものを浴びた。

もう一点では、床から何かがせり上がって来た。

よく見ると、十字架と、そこに縛り付けられている春美がいた。


「春美ーっ!」


裕が春美を呼ぶために叫んだが、気を失っているのだろうか?春美は首をうなだれたままぴくりとも動かなかった。


「安心しろ!死んではいない!」


再び闇の何処かから何者かの声がした。


「春美を返せ!」


裕が声の主に向かって叫んだ時だった。

突如、真地球人が裕の目の前に現れた。


「お前は!」

「貴様か?あの女が熱で焼かれながら叫び続けていた男は!」


真地球人は裕の顔をまじまじと見ると、裕からひとみを奪い取った。


「いやーっ!」

「離せ!」

「お前達地球人は全滅するんだ!幾ら泣き叫ぼうとしても結果は同じだ!」


真地球人は部下に命じてひとみを春美の横にあった十字架に春美と同じように縛り付けさせた。


「お前達は何のために侵略するんだ?」


裕が真地球人の胸倉を掴みながら叫んだが、真地球人は裕の手を容易く引き剥がすと、


「侵略?そんな気はない!お前達が違う次元にいても目障りだから始末するまでだ!」


真地球人は裕を床に叩きつけた。


「ぎゃあ!」

「裕!」

「ハハハ、様がないな!些細な事で怪我するような弱いお前達など、我々に淘汰されるのみ。」


狡猾な真地球人の前には何もなす術もなく、痛めつけられる裕だった。


「そんな理由にもならない理由で皆殺しするの?最低よ!あんた達!」


十字架に縛り付けられたひとみも狡猾な真地球人に向かって叫んだ。


「ほざけ!弱い犬ほど良く吠える!と言うとおりだな。弱肉強食!これが全宇宙の真理!お前達負け犬は滅び去れ!」


「お前達は真がついても地球人じゃねぇ!絶対に許さねえ!」


裕が立ち上がって真地球人に掴みかかろうとしたが、逆に真地球人の部下に後ろから羽交い締めにされ、真地球人にサンドバッグのように何度も殴りつけられた。


「止めてーっ!」

「ハハハハハハ、虫けらが!」


「…止めて。」


十字架に磔られ、意識を失っていた春美が喋った。


「春美!大丈夫?」

春美の隣で同じように磔られているひとみが春美を気遣った。


「あなた達みたいな残忍で卑怯で自分勝手なの、見たこと無い!」

「気がついたか、無力なお嬢さんよ!」

「春美さんは…まだ気を失ってるわ。」

「…どういう意味?」


ひとみはうなだれたまま喋る春美の言葉の意味が理解出来なかった。


「こいつは驚いた!まさか深層意識からハイパーガールが出てくるとはな!」

「ハイパーガール!」

「そうよ、ひとみさん。私はハイパーガール、普段は春美さんの意識の奥に隠れていますが、春美さんが気を失っているからこうして喋る事が出来ます。」


春美ことハイパーガールが話を続けた。


「春美さんは彼等に精神を痛めつけられて相当参ってますが、あなたや裕さんが助けに来てくれることを信じていました。残念ながら彼等に変身カプセルを奪われて何も出来ませんが、戦う意志だけは消えていません。それは春美さんも同じ!」

「そ…、そんな、変身出来ないなんて…。」


変身出来ない驚愕の事実を知らされ、ひとみは言葉を失った。


「大丈夫よ、ひとみさん。変身カプセルが無くても春美さんが変身出来る方法があるの。」

「それ以上は喋るな!」


裕を殴っていた真地球人が春美の前に来て、春美の顔を殴った。


「ぎゃっ!」

「止めなさいよ!」


その衝撃で春美は意識を取り戻したが、変わりにハイパーガールの意識が春美の深層意識の中に戻ってしまった。


「春美!大丈夫?」

「ひとみ…?」


意識を取り戻した春美の目の前に自分と同じく磔られているひとみと真地球人に散々殴られてふらふらの裕がそこに居た。


「お願いよ!私はどうなってもいいから、この2人を帰して!」


春美が必死になって真地球人に訴えた。


「帰る?お前達はもうすぐすると死ぬんだ!変わりに幾らでも泣き叫べ!」

「何でそこまで私や裕をいたぶる訳?」

「ただ単にお前達をあっさり殺しても面白くない、だから面白可笑しくいたぶりながら殺すのさ。」

「許さない!絶対に許さない!…キャッ!」

「泣き叫べ!とは言ったが、刃向かうなとは言ってないぞ。」


真地球人は春美の頬を叩きながら叫んだ。


「いい加減にしろよ!弱いものイジメ野郎!」


裕がふらふらになりながらも立ち上がった。


「裕!もう立たないで!死んじゃうわ!」

「裕お願いよ!もう止めて!」


春美とひとみが十字架にかけられながら必死で裕を説得した。


「今やらなきゃいつやるんだよ?俺はこいつを絶対に倒す!」


裕はゆっくりだが真地球人に向かって歩き出した。

真地球人の部下達が裕を止めようとしたが、


「構わん、させておけ!」


と、部下の行動を制した。

代わりに、


「今からこいつをテレビで流せ!良い見せ物になる!」


春美達の傍にいる真地球人に向かって、裕は叫んだ。


「お前は最低の野郎だな!こんなクズに地球人は負けんぞ!」

「負け犬如きが好きに言え!」



この状況はすぐに秀夫達のいるATTACKの基地の作戦室のテレビモニターでも映し出された。


「裕にひとみまで…!助けないと!」


作戦室の中に居た全ての隊員がざわめき立った。

しかし、この人物を除いて…。


「ごめん、ちょっと便所。」


秀夫が緊張からか、便所に向かった。


「も~っ、あの人は昔っから良いところで何処かに隠れるんだから!」


秀夫が抜けた作戦室で一際声を荒げる碧だった。


その時、異次元空間では十字架に磔られた春美とひとみを助けるために、裕はふらふらの身体で真地球人に立ち向かうために歩いた。


「虫けらがむざむざ殺されに来るとはな!」

「むざむざ殺されには行かんよ!俺は春美達を助けてお前を倒すために行ってるんだ!」

「裕!もう止めて!」

「裕!無茶よ!死んじゃうわ!」


春美達が必死で止めようとする中で、裕はゆっくりとだが真地球人に歩み寄っていた。


「へっ、流石に今回は手というか策は無いや。最悪、無駄死にするかな?」

「裕止めて!約束したでしょ!無茶はしないって!」

「そうよ!あなたが死んだら意味ないじゃない!」


春美達が涙ながらに訴えても裕は止まることをしなかった。


「お前達は人間を皆殺しにするつもりだろうが、そうはさせん!」

「馬鹿が!死に損ないのお前なんかに何が出来る!」

「俺に出来るのはお前を殴ることぐらいかな?」

「面白い。やって見せろ!」


真地球人は笑いながら手に銃を取り、裕に照準を定めた。


「瀕死の人間を撃つなんて卑怯よ!」


春美が必死で止めさせようと叫んだが、


『ビューン!』


真地球人の撃ったレーザー光線は裕の右太股を掠った。


「きゃあーっ!」

「止めて!撃たないで!」


春美達の悲鳴や制止の声が響き渡る中、撃たれた衝撃でよろけたものの、裕は歩くのを止めず、真地球人にもう少しのところまで近付いた。


「ここまで来たぞ!」

「負け犬にしては大した根性だな!だが、お前はもう終わりだ!」

「止めてーっ!」

「逃げてーっ!」


春美達の悲鳴が先程よりさらに激しく響き渡る中、裕は最後の力を振り絞ってジャンプした。

真地球人も同時に引き金を引き、レーザー光線が裕の左腹部に貫通したが、裕の執念が痛みを忘れさせ、真地球人に飛びかかった。


「な、き、貴様ァ!」

「宣言通りだァ!」


真地球人に馬乗りになった裕は渾身の一撃を真地球の顔面に炸裂させた。


「この虫けらガァァ!」


真地球人は裕の腹部の中心に銃口を突き付けた。


「イヤーっ!」


裕も最期を覚悟し、春美達は十字架に磔られたまま泣き叫んだ。


(神様、裕を助けて!)


春美は心の中で懸命に叫んだ!


その時、秀夫は1人、誰もいないATTACKの建物の外に居た。


「一か八かやってみるか!」


秀夫は両手を胸の前で交差させ、力を込めて振り下ろした。


すると!


秀夫の身体は金色のまばゆい光に包まれた。


大きな光の塊となった秀夫は、裕達の様子を受信しているアンテナに入り、異次元から送信されている電波に逆らって光の早さで進み出した。

強力な電気の塊となった秀夫のせいか?作戦室のテレビモニターも一時何も映らなくなったほか、その他の機材の計器類が一斉にショートした。


「ウワッ!」

「キヤッ!」


作戦室は一瞬パニック状態と化したが、碧が冷静に対処した。


「落ちついて!受信装置の系統は全て補助電源に切り替えなさい!」


碧の指示で落ち着きを取り戻したが、恐らくは碧の心の中が一番不安に包まれていたであろうか。


(神様、どうか裕達を助けて下さい!)


碧は心の中で裕達の無事を祈っていた。


この通信障害は異次元空間でも同様に起こっていた。


「ウワッ!」

「何だこれは?」


裕達のいる空間も突然の出来事にパニック状態となっていたが…。


「死ね、虫けら!」


真地球人は自分を馬乗りに敷いている裕に向かって引き金を引いた




それよりは早く、真地球人達の通信回線から出て来た光の固まりが裕の全身を金色のまばゆい光で包み込んだ。


「何?」


真地球人が目を凝らして見ると、裕の居たところには裕の姿がなく、代わりに全身が青みがかった謎の人物が居た。


「これが俺?」


謎の人物に変身した裕はこの現実を捉えられずにいた。


「ま、まさかあの姿は?」

「えっ?何?何なの?」


突然の出来事にひとみも驚きを隠せなかったが、春美にはなんとなくだが正体がわかりそうだった。


(裕、驚いてる暇はないぞ!)

(だ、誰だ?)

(説明している暇はない!さあ早く春美達を助けるんだ!)


裕の心の中に響く声が裕を立たせ、十字架に磔られた春美達の鎖を引きちぎった。


「すげーパワー?どうなってるの、俺?」


生まれ変わったような間隔におそわれた裕だったが春美は、


「裕、油断しちゃダメ!」


真地球人達が裕達を倒そうと一斉に襲いかかって来た。


「こいつら!」


裕が一気に飛び出したかと思うと、真地球人達は一瞬にして裕に殴りつけられてその場に倒れ込んだ。


「貴様!私が相手だ!」


裕を殺そうとした真地球人が立ち上がり、再び裕を殺そうと銃を撃った。


「きゃあーっ!」


ひとみが叫ぶ中、裕は真地球人の撃ったレーザー光線をいとも容易く跳ね返した。


「これが…俺?」


裕は自分が手に入れた力に驚きを隠せなかった。


「何だと?」


真地球人も同様に驚きを隠せなかった。


「裕、どうしたの?」


ひとみも同じく驚きを隠せなかった。

そのひとみに向かって、裕に倒された真地球人の1人が銃口を向けた。


「ひとみーっ!危ない!」


ひとみが撃たれそうになった事に気付いた春美がひとみを守るために彼女に覆い被さった。


瞬間!


春美の身体も内側から出た光に全身が包まれて、ハイパーガールの姿になった。


「えっ、私、変身したの?」


ハイパーガールに変身した事に驚いたのは春美だった。

真地球人に変身カプセルを破壊された筈なのに、今こうしてハイパーガールに変身出来たのだから。


「春美、さっきあなたが気を失ってた時にハイパーガールの意識が出て来て、変身出来る方法があると言ってたの。」

「それで…。」


ひとみの説明でも今一つ理解出来ないでいたが、


(春美さん。)

(あなたは…誰?)

(私はハイパーガール、あなたのひとみを助けたい想いが変身させることに繋がったのよ!)

(じゃ、じゃあ、私はやっぱり…。)

(今は感心してる暇はないわ。あの人と一緒に真地球人を倒しましょう。)


春美の意識の中でハイパーガールが初めて春美に問いかけた。


その頃、ようやくATTACKの作戦室のテレビモニターが復旧し、異次元空間の映像が映し出された。

そこにはハイパーガールとハイパーガールに似た謎の男戦士が真地球人と戦っていた。


「あ、あれは…!」


碧が画面を見て驚いた。


「ハイパーガイだわ!ハイパーガイが20年振りに帰って来たのね!」


20年前、地球の危機を、そして、ATTACKの新人だった碧のピンチを幾度となく助けた正義のヒーロー

『ハイパーガイ』

がそこにいた。


作戦室ではATTACKの全員が戦闘の推移を見守っていた。


「2人がかりとは卑怯な!」

「大勢で俺達を襲うような卑怯な奴はどっちだ!」


異次元空間では、真地球人を追い詰めたハイパーガイとハイパーガールがいた。


「うるさい!虫けらを手助けする極悪宇宙人が!」


「お前に極悪人呼ばわりされるとはな!」

「こうなれば!出でよ、ペルガー!」


真地球人が叫ぶと、ハイパーガール達の頭上からゲンドンに似た怪獣が現れた。


「こいつはゲンドンと双子の怪獣『ペルガー』だ!貴様達を踏み潰してくれるわ!」


真っ白で巨大な身体、春美達を異次元空間に連れ去った巨大な手の正体がこのペルガーだった。


「馬鹿でかい奴!」


裕は驚いたが、更に驚いたのが、真地球人もペルガーと同じく巨大化した。


「お、おい、どうすりゃいいんだよ?」


巨大化した真地球人や怪獣を目の前にして慌てる裕だったが、


(巨大化出来ると信じなさい!)


心の中の謎の声の主に言われた通り、裕は巨大化出来ると念じた。

すると、ハイパーガイも同じく巨大化し、先に巨大化したハイパーガールと2vs2の決闘にもつれ込む事が出来た。


ペルガーがハイパーガールを殴ろうとするが、ハイパーガールは難なく交わし、代わりにペルガーの頭にキックをお見舞いした。


真地球人が幾度となく鋭いパンチを繰り出しても、ハイパーガイが難なく交わし、代わりに真地球人の眉間に一発、パンチを入れたなど、形勢はハイパーガール達に有利なものとなった。


「こうなれば!」


真地球人が叫ぶと、ペルガーの口に強烈なエネルギーが蓄えられ、今にもレーザー光線を発射しそうになっていた。

また、真地球人も同じく、全身から不気味などす黒い光を集めていた。


「危ない!」


ハイパーガイとなった裕は焦ったが、心の中の声の主が裕に語りかけた。


(ブリリアントアローと叫ぶんだ!)


裕は言われるがままにハイパーガールの必殺技である


『ブリリアントアロー』


の名前を口にした。


その時!ハイパーガイの全身から滲み出た光が右手に集中し、ブリリアントアローの意味の如く

『光り輝く矢』

となり、目の前の真地球人目掛けて放たれた!

ハイパーガールも自身の必殺技である


『スパークスター』


をペルガーに向けて放った。


ハイパーガール達の2人がかりの必殺技と真地球人達の光線がお互いの真ん中で衝突し、無数の火花を辺り一面に撒き散らした。


「きゃあーっ!」


近くにいた人間であるひとみには異常なまでの高温で近くの遮蔽物に避難した。


ひとみが遮蔽物に逃げ込んだ瞬間!


「ウギャアアアア!」


誰かの断末魔の叫び声と共にそれぞれの放った光線が巨大な火の玉となって炸裂した。

この光景はハイパーガール達を映し出していたカメラを完全に破壊し、ATTACKの作戦室のテレビモニターには映像や音声が途絶えてしまった。


「どうなったの?」


ひとみが恐る恐る遮蔽物の外の様子を窺った。

そこには暗闇に浮かび上がった巨大な戦士が2体、ひとみの前に立ちはだかっていた。


「ま、まさか…?」


ひとみはハイパーガール達の敗北を覚悟したが、


「ひとみ、私達よ!」


そのうちの1体がひとみと同じくらいの大きさに縮小した。


「春美ーっ!」


ハイパーガールの変身を解いた春美がそこにいた。

ひとみはうれしさのあまり春美に駆け寄り抱きついた。


「春美、春美!無事だったのね!心配したんだから!」


「心配かけてごめんね!」


2人は抱き合いながら、恐怖から解放された喜びのあまり泣き合った。


「さあ、帰ろう。」


ハイパーガイこと裕が巨大化したまま右手を差し伸べ、2人を手のひらに乗せると、異次元空間の大空高くへと飛び立った。


そして、ハイパーガイ達は元の世界に戻って来た。


ハイパーガイは春美達を右手から降ろすと、自分も春美達と同じ大きさに縮小し、裕とハイパーガイに分離した。


「では裕君、さらばだ!」


ハイパーガイは再び光の塊となって夜の大空へと飛び立った。

よく見ると、東の空がほんのりと明るくなり、夜が明けつつあった。


「裕っ!」

「裕っ!」


春美達が一斉に裕に抱きついた。


「裕のバカ!あんな無茶しないでって言ってたのに!」

「心配させないでよ!」


春美達は泣きながら裕に思いの丈をぶつけた。

しかし、裕からは何も帰って来なかった。


「裕…、どうしたの?」


2人が恐る恐る裕の顔を覗いたが、裕の顔からは生気が抜けたかのようになっていた。


「あいつに撃たれたとこが…。」


裕は息も絶えだえに自分が撃たれたとこを指差した。


「嫌!死なないで!」


裕の容態を恐れた2人が裕の応急処置を施した。

直後!


「お~い!」


秀夫達が救急車を従えてやって来た。


「た、隊長?」

「どうしてここがわかったのですか?」


春美とひとみは呆気に取られたが、


「裕の乗ったパトロール車にGPSを仕掛けたから、どこにいてもわかるようにしてただけだ。それより早く裕を搬送しよう!」


秀夫は裕の収容を第一に命じ、春美達が戻って来た現場を後にした。

それは、秀夫が何かを悟られたくないかのようだった。


(まさか…、ハイパーガイの本当の正体って…。)


救急車の中で重症患者の裕と共に真地球人からの拷問に痛めつけられ、自身も担架に乗せられた春美が、秀夫とハイパーガイの関係を勘ぐった。

が…、


(それより、胸ポケットを探って見て。)


春美の心の中でハイパーガールが語りかけた。

春美は言われるがままに手を胸ポケットにやると、そこには真地球人に破壊されたはずの変身カプセルがあった。


(な、何で?)

(マジックじゃないの、あなたが変身を解いた時に再生したのよ。)

(ありがとう、ハイパーガール。)


胸ポケットの中の変身カプセルをぎゅっと握り締めながら、春美は静かに1人で泣いた。


その頃、作戦室内で指揮を執っていた碧には疑問があった。


(何で?秀夫さんは裕が乗るかもと言ってパトロール車にGPSをつけさせたり、裕が危ないからと言って救急車を要請したのかしら?)


まるで秀夫が何でも知っていたかのような振る舞いに、碧は謎を深めさせた。


(それに、秀夫さんが行方不明になると必ずハイパーガイが現れてたし、20年後の今回もそうだった?まさか…、まさか?よね。違うわよね。)


碧は誰に悟られる訳でもなく、自分の中にあった疑問を掻き消した。


春美の容態は悪くなく、検査後にすぐ退院できたが、裕に至っては負傷の程度から1~2ヶ月の入院と診断された。



その日の夕暮れ時、裕は春美に呼び出され、メディカルセンターの屋上に来た。

車椅子で移動しなければならない裕にしたら大変な移動だった。


「春美!こんなとこに呼び出すなら、お前が車椅子を押してってくれれば良かったのに!」


やれやれと言った感じの裕だったが、顔はほころんでいた。


「…ごめんね。」


何故か春美は屋上の手すりに手をかけて、裕には背を向けながら夕陽とは反対方向を見つめていた。

裕からは春美の表情 は見えない。


あと、2人の行動を怪しんだひとみが裕の跡を付けてきて、階段の外から2人の様子をうかがっていた。


「…ねぇ、この前の事、覚えてる?」


春美が裕に背中を向けながら喋った。


(この前の事って…ムフフ!)


裕は今度こそと思い、


「もちろんさ!春美、好き…。」

「違うわよ!」


春美は裕の台詞を制した。


(あ、あれ、違った?まさか…まだ怒ってるかな?怒ってるよな…。)

「ごめん、こないだのデートでスカートをめくって…。」


「違ーう!」


春美は声を荒げて叫んだ。

同時に振り返った春美は何故か大粒の涙を浮かべていた。


「私が言いたいのはぁ、この前のシュランゲ星人に捕まって、あなたに助けてもらった時に約束した事を言ってるの!」

「え?」


春美に怒鳴られて、裕は固まった。


「もう忘れたの?そうよね!だから昨日みたいな事したんだから!」


春美は怒りをぶちまけるかのように怒鳴り続けた。


「もう無茶はしない!って、裕、私と約束したでしょ!」

「仕方ないだろ!ああでもしなければ…。」

「言い訳する気?男らしくない!助けに来てくれたことは嬉しかった!だけど、あなたが死んだら意味ないじゃない!あなたに死なれたら、私、私…!」


春美は感極まったあまりにその場に泣き崩れた。

遠くから見ていたひとみも春美の怒り具合に驚き、何も出来なかった。


「泣くなよ…。」


裕が春美を宥めようと近寄ったが、


「来ないで!」


春美は頑なに裕の優しさを拒んだ。


「裕っていつもそう!自分が犠牲になればって思ってる!あなたは良くても、残った私達の事なんて考えてないでしょ!」

「そんな事ないよ!」

「嘘つき!私の気持ちなんて考えた事も無い癖に!あなたの無茶な行動にどれだけハラハラさせられたか!」

「だから仕方ないだろ!状況だよ。」

「もっと安全な方法だってあったでしょ!」


春美は更に話を続けた。


「分かってる?人間って、命は一つしか無いのよ!一回死んだらおしまいなの!なのにあなたって、こっちがハラハラする事ばかり!何回死んでしまうかわかんないわ!」

「今回みたいにハイパーガイになれば大丈夫だよ!」


裕は春美を落ち着かせるつもりで言ったのだが…。


「あなた本当にバカァ?」


裕の一言に目くじらを立てた春美が車椅子の裕に詰め寄った。


「あんな奇跡がしょっちゅう起こるわけ?あんなに都合良くハイパーガイがやって来るって言うの?あなたは人間よ!あんな事二度と起こると思ってる?ある訳ないでしょ!」


大粒の涙をこぼしながら裕を睨みつけ、春美は更に話を続けた。


「私がハイパーガールに好きでなってるって思ってる?裕にはわかってもらえてると思ってたけど、私だっていつも死と隣り合わせなのよ!いつもどれだけ怖い思いをしてるかわかって無いのね!」

「いつも一緒に戦ってたじゃないか!春美の気持ちがわからないわけないよ!」


裕は春美の気持ちに訴えかけようとしたが、


「ちっともわかってなんか無い!」


春美は両手をブンブン振り回しながら叫んだ。


「何かあったら私が助けてくれるとか、どうにでもなるとか、勝手に思わないでよ!私がどんなに辛い思いでハイパーガールになってるのか?どんな思いであなたを助けてるか?私がスッゴく心配してるのに、あなたは無茶ばっかり!あなたの行動にいつもヒヤヒヤさせられて、何時も心配かけさせてばかり!一番つらかったのは、あなたを助けたくても助けられなかった悔しさなのに…、なのに…、あなた、私の気持ちをわかって無い!」

「春美!落ち着けよ!」

「うるさい!私の気持ちをわかって無い癖に!…、私がどれだけあなたの事を心配してるのに!…、もう嫌よ!あなたみたいな人、顔も見たくない!どっかに行ってよ!」


溜まりに溜まった不安が怒に変わった春美に裕は、様子をうかがっていたひとみも何も言えずにいた。

同時に、春美は泣きながらメディカルセンターの屋上から駆け降りようとした。


その時!


「は~ぁ、お茶が旨いなぁ!」


何時の間にか、屋上の入り口に秀夫がいて、マイボトルのお茶を飲んでいた。


「た、隊長?」


春美と裕が呆気に取られた。


「君たちもよく来るのかい?俺もたまに来るよ。」


「失礼します。」


春美がそそくさとその場を離れようとしたが、


「春美、一杯飲みなさいよ。」


「結構です!失礼します。」


春美は頑として秀夫の誘いを拒んだ。


「まあまあ、このお茶は碧さんが何時も淹れてくれてるから美味しいよ。」


「は、はぁ…。」


ATTACKの女子隊員に取って副隊長である碧の存在は大きい。


(ここで断ったら副隊長から…。)


ある種の恐怖からか、春美は秀夫が差し出すままにお茶の入ったコップを貰い、両手で持つとコクリと飲んだ。


「…美味しい。美味しいです!」


さっきまで殺気立っていた春美に笑顔が戻った瞬間だった。


「じゃあ、裕にも。春美、これを裕に渡してあげて!」


秀夫は2杯目を注ぐと、春美に手渡した。


「え、え…。」


先程裕に啖呵を切った直後だっただけに春美は気まずい思いをしたが。


「ほら、せっかくのお茶が冷めるじゃないか。」


秀夫に急かされ、春美は気まずい思いを隠しながら車椅子の裕にお茶を差し出した。


「…はい。」

「ど、どうも…。」


ぎこちない2人がお茶を手渡し、裕もお茶を一口含んだ。


「旨いです。」


お茶を飲み、何故かほっとする裕だった。


「ほら、ひとみもそこに居るだろ。」


秀夫は隠れていたひとみも呼び、お茶を勧めた。


「どうだい、碧さんの淹れたお茶は旨いだろ。」


「はい。」


秀夫のお茶の魔力からか、3人とも安堵の表情を湛えた。


「ここから見る景色は最高だろ!嫌な事を忘れさせてくれるね。」


秀夫は1人で話し続けた。


「春美くん。」

「は、はい?」

「さっきはスゴい剣幕で怒ってたけど、何かあったのかい?」

「いや…、それは…。」

「若い女の子が大声で怒鳴ってたらダメだよ。」

「だって、裕が…、裕が!」

「裕は良い奴じゃないか!好きな彼女のピンチに立ち向かうなんて、なかなか出来ないよ!それに、裕は全力で愛する君を守ったんだ。本当は裕に感謝してるのに!」

「そ、それは…。」


春美は顔を赤らめたが、


「ま、まさか、隊長、さっきの話を全部聞いてたんじゃ…?」


春美は焦った。もしかしたら私がハイパーガールだと気付かれたかも知れないと。


「さっき来たばかりでギャーギャー言われたら分からないよ。」


「そうですか。」

(良かった…バレてない。)


春美は安心したが、


「秘密なんて誰にでもある。秘密を守ることに捕らわれて大事な事が見えなくなるのがいけないんだよ。春美くん。」

「は、はい。」

(何で隊長、私に『くん』なんてつけるの?)


「何時も頑張ってる人には敬意を表さないとね。」

(まさか…、隊長?)


春美は、まさか目の前の秀夫こそがハイパーガイなのか?と疑問を持ったものの、秀夫の心が何故か読めず、疑問が解消出来ずにいた。


「人の気持ちを察するのは大事だからね。」


そこへ、


「あなた、秀夫さん。」


碧もメディカルセンターの屋上にやって来た。


「もう、探したわよ!」

「ごめんごめん。」

「あなた、裕達に大事な話があるからここに来たんじゃなくて?」

「大事な話?」


裕達は首を傾げた。

突然、秀夫の口から厳しい一言がでた。


「裕だが、今回の命令違反は目に余るかものがあるからな。しばらくの間は謹慎だ!」

「謹慎!」

「隊長!幾ら何でも酷すぎます!裕は私を助ける為に命懸けで頑張ったんですよ!」

「私からもお願いします。裕の謹慎を解いて下さい。」


春美とひとみは必死になって裕の謹慎を解くよう、秀夫に訴えかけた。


「裕、君はこんなにも2人から愛されている。それだけじゃない、碧も君が無茶する度に何時もハラハラしてる。今回は特に、撃たれたりしてピンチを作ってたからな。」

「あなた!それは言わないでよ!」

「普段は鬼より怖い副隊長でも、本当は心の優しい碧さんだよ。君は何時もみんなを不安がらせてる。それと今回の命令違反を足せば、反省を促す必要がある。」

「…わかりました。」

「東郷裕、退院するまでの間は謹慎とする。復職は退院後、それまでは、春美や他の人を心配させないようなやり方を見つけなさい!」

「隊長?それってどういう意味ですか?」


裕には秀夫の真意がはかりかねた。


「隊長!ありがとうございます!ほら、裕も例を言わないと。」


ひとみは深々と頭を下げながら、車椅子の裕の頭を押さえつけて無理矢理お辞儀させた。


「それじゃあ、僕達はもう帰るよ!」


秀夫がそう言って階段を降りようとしたが、


「あなた!」


階段を降りようとした秀夫を碧が呼び止めた。


「さっきの鬼より怖いって、どう言う意味なの!」

「あ、あれは言葉の文で…。」

「言い訳はお家で聞きます!」

「い、痛い!痛い!ごめんなさい!」


秀夫の失言に怒った碧は、秀夫の耳を摘むと春美達のいるメディカルセンターの屋上から降りていった。


(確か、裕が撃たれてる時は、この人、便所に行ってたんじゃ…?もしかして、いえ、まさかね。)


碧も秀夫の行動に疑問を持ったが、確たる証拠もなく、疑問はうやむやのうちに内緒話として消え去った。


屋上には裕と春美とひとみが残った。


「春美…、ごめん。まさかそんなに俺の事を心配してくれてるなんて…、思ってなかったから。」


しばしの沈黙の後、裕が罰悪そうに春美に語りかけた。


「…もういいの。」


春美が小声で話した。

そして裕に背中を向けながら話を続けた。


「あなたには何を言っても無駄だって事がわかったわ。」

「え?」

「春美、それじゃあ裕が可哀想よ。」


まさかの一言にひとみも驚いた。


「だって、そうでしょ!何時でも何度でも無茶しないでって約束してるのに、この人、昨日だって死んでもおかしくないような事してるのよ!こんなにバカな人、私見たこと無い!」

「ねぇ春美、落ち着いて。」


ひとみは春美を宥めようとしたが、春美の怒りは収まりそうになかった。


「春美、ごめん!」


裕は本当に心の中から謝ったが、春美は振り返ると物凄い剣幕で、


「あなたの『約束する!』や『ゴメン!』は聞き飽きたの!いっつもおんなじ事繰り返してるだけで、結局は約束破ってるじゃない!嘘つき!」


裕もひとみも何も言えずにそこに居ることしか出来なかった。


「私、決めたの!」


春美はそう言うなり裕の車椅子に近付くと、


「私はもうあなたとは約束事はしない!その代わり、あなたがこれ以上無茶な事しないよう、徹底的に監視します!」

「え?どう言う意味なの?」


春美の宣言の意味を裕は理解出来なかったが…、


「あんたって本当に鈍感よね!」


側にいたひとみが裕と春美の手をつなぎ合わせた。


「ひとみ?」

「ひとみ?」

「愛し合ってる者同士なんだから、仲良くしなさいよ!」


ひとみの粋な計らいに2人は顔を赤らめた。


「結構春美も意地っ張りよね!素直に『好きです!』って言えば良いのに。」

「ヤダ…、ひとみ。」


恥ずかしさのあまり、春美は下を向いた。


「それと裕!あんたが今度無茶な事したら、私が許さないからね!私は昨日の副隊長みたいに抱きついて止めるなんて甘ったるいことしないわよ!」

「…何それ?」


春美は当然知らない。裕が春美を助けに病室から抜け出したのを止める際に碧が裕を抱き締めた事を。


「そ、そんな事があったの?」


ひとみから話を聞き、春美は呆気に取られた。


「で、裕、副隊長に抱き締められた時、本当は嬉しかったんでしょ!」


ひとみがにやけながら裕に尋ねた。


「う、うん、巨乳だったし気持ち良かった…。」


裕が照れつつ春美の方をまじまじと見ながら喋った。


「ヤダ!こっち見ないでよ、変態!どうせ私のは小さいです!」


春美は両手で胸を隠しながら唇を尖らせ、裕に背中を向けた。


「春美、ゴメン、もう二度と言わないって約束するから!」

「あなたの『約束する!』は信用できません!」


春美は更に拗ねてしまった。


「ひとみ~、春美が怒ったじゃないか~!」

「私のせいにしないでくださいますぅ!」


困り果てた裕に対して悪びれる事なく、ひとみはニヤリとして裕をからかった。


「裕ったら本当にバカよねぇ、やっぱり私が側にいないとダメね!」


春美がニヤッとして裕に振り返った。


「も、もしかしてそれって?」


裕は春美の一言に期待したが、


「裕!私はまだあなたの口から『好きです』とか『付き合って下さい』とか聞いてないのよ!ちゃんとした場所で告白してよね!女の子にとって大事な事だから、約束よ!」


春美は裕に約束をせがんだが、


「あ~っ、俺と約束しないって言った癖にもう忘れてる!」

「ちょっと裕、空気読みなさいよ!」

「もう!いっつも私の揚げ足ばかり取って!」


裕の突っ込みでまた何時もの3人に戻っていた。

辺りはすっかり夜となり、裕の病室に戻るとき、何時もの仲のいい裕と春美の姿を見ながら、少し後をひとみが歩いていた。


(裕…、今度春美を悲しませる事したら絶対に許さないからね!それに、私まで悲しませたりしたら…、私、私。)


裕や春美への複雑な想いを抱えながらひとみはそっと2人を見守った。


翌日から、春美は宣言通りに裕の監視…もちろん、裕の看病をよく行っていた。


「春美、そんなにしょっちゅう来なくていいよ。」


裕は春美を気遣ったが、


「良いでしょ!好きでやってるんだから。それに、あなたの事だからメディカルセンターの看護士さんに変な事しないか心配だから、ちゃんと監視しないと。」

「おいおい、俺ってそんなに信用出来ないの?」

「信用出来ません!」


裕はベッドの上でコケた。


「それに、私、この間のスカートめくりの件、まだ許してないからね!」

「そんなぁ、もう勘弁してよ~。」

「さぁ、どうかしら?」


春美は何かを含むかのように裕を困らせた。


(こういう事もきちんと釘を刺しとかなきゃ、これからは私がこの人を守るって決めたから、ちゃんと私が見ておかないと、ネ!)


春美は少しだけニヤッとしながら、


(春美には参った。)


と思う裕を何時までも暖かく想っていた。

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