転校生
私は和田留美絵・・・らしい。身分証にそう書いてあった。年齢は17歳。性別は女。名前と年齢はともかく、性別は確かだ。鏡に映っている自分の姿がそれを証明している。まったく見覚えのない顔だがね。留美絵はため息をついて、顔を洗った。
朝の支度が終わったところで下に下りて台所に入った。そこにお母さんが朝ごはんを用意している。
「おはよう。今日の気分はどう?」
とちょっと心配気味に挨拶をするお母さん。
「いつもと変わらないよ。」
今まで何回も聴かれた質問だ。最近は、滅多に聴かないようにはなっていたが、久々学校に戻るせいか、念のために確認したくなったんだろう。
「そう」
平然と答えるお母さん。突然の変化はそもそも期待していなかったようだ。
「準備は全部終わったの?学校の場所は分かる?」
「うん、大丈夫だよ。」
これから通う新しい学校は、結構離れたあまり知られていない私立高校。中途半端な時期に転校し、ちょっと目立つのが嫌だが、顔見知りだったはずの人がいる確立はほぼ皆無に等しい。そういう気まずい場面は極力避けたかったのだ。出来ればあまり目立たずに平凡の学校生活を送りたかった。
「遅れるからもう行くよ。」
かばんを取って、靴を履きながら言った。
「朝ごはんは?」
「いらない。んじゃ、いってきます。」
そういって、留美絵は返事を待たずに家を出た。急がないと遅れるのは嘘ではなかったが、そんなことより家にいるのが居心地悪くて長居をしたくかった。的確に言えば、今の留美絵は誰とも接触を避けたかった。学校もサボりたいところだが、初日からは流石ダメだろうと思って、こうやってせっせと足を運んでいるわけだ。
とりあえずは、なるべく目立たないようにしよう。