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はじまり
僕は電車を降りた
梅雨入りを迎えた空は
使い古した消しゴムのような、摩耗した灰色。
人一人っ子いないホーム
だけど懐かしい
風雨にさらされて赤く腐食したベンチも
雨に打たれている穴だらけの屋根も
改札のあるべき所に申し訳程度に置かれている切符入れも
僕は傘を差して歩き出す
何度も通った道
昔何度も通った道だった。
何も変わっていない
何も変わっていなかった
民家も、道も、電灯も、
何もかもあのころと同じに見えた
家についた
僕が育ったところ
僕の家だったところ
そして僕の母だった人から
彼女を受け取った
彼女は小さくて
握った手も小さくて
今にも壊れてしまいそうで
置いて行かれるのを恐れるように
縋り付くように僕の手を強く握りしめた
僕は彼女を抱き上げた
彼女は頑に手を離そうとはしなかった
抱き上げた彼女は
思いのほか軽かったけれど
僕には、とても重かった
※プロローグと本編は同じ人物が書いております
嘘じゃないです、ホントです。