中休み
三題噺もどき―きゅうひゃくごじゅうなな。
「「ありがとうございましたー」」
その挨拶と共に、教室内は一気に騒がしくなる。
ガタガタと机や椅子の音がするのはもちろんなんだけど。
ざわざわと人の話し声が堰を切ったようにあふれだす。
「……」
2時間目の授業が終わり、ほんの少し長めの休み時間に入る。
何人かは座り直すことなく教室から出て行き、各々左に右にと向かっていく。
左側にはお手洗い、右側には自販機がある。
「……」
私もお手洗いに行こうと思ったが、休み時間に入ってすぐはどうしても混む。
なぜか、女子というのはトイレ一つにかなり時間がかかるので、このタイミングで行くと無駄な時間を食うことになる。
別にいいのだけど、周りの声が気になって仕方ないので変に疲れてしまう。
後普通に死にたくなる。
「……」
同じ性別で、同じお手洗いを使うけれど。
なーにをそんなに時間をかけているのか全く分からない。
そんなに毎回時間がかかるものなんだろうか……化粧をしているわけでもあるまいし。まぁ、一部の女子はしているみたいだけど。
「……」
だからまぁ、行くとしたらもう少し時間をおいてからでいいだろう。
次の授業の準備をして、少し小腹を満たしてから、のんびりいくとしよう。
机の上を片付けながらそう決め、椅子に座り直す。
「……」
次の教科は国語だ。
教科書類は基本的に机の引き出しの中に入っている。
ロッカーにも入れているけれど、それは副教科と呼ばれるものだけが置くことを許可されている。基本的に置き勉はしてはいけないらしい。普通にしているけれど。
「……」
教科書を机の中から取り出し、ノートも出しておく。
そろそろこのノートも買い足しておかないとなくなってきた。
今度百均にでも連れて行ってもらおう。
「……」
ルーズリーフを使うという手もあるのだけど、アレはアレで保存に困るので授業では浸かっていない。基本的に各教科でノートを作っている。
提出する時だってあるし、そっちの方が便利だ。
「……」
ちらりと時計を見ると、そろそろ足を向けてもいい頃合いになっていた。
その前に……。
机の横にかけてある鞄のなかから、チョコレートを取り出す。
「……」
個包装されている奴で、ちょっと前にお試しで買ってみたものだ。
基本的には飴をよく舐めているのだけど、今日はチョコレートの気分だ。
中に、オレンジが練り込まれていて、ほんのりその香りがしている。
「……」
ん―あの子が好きかなと思って買ってみたが、私はあまり得意ではないかもしれない。
まぁお菓子に柑橘類が入っているのは昔から苦手なので、そうなんだけど。
チョコレートならいけるかなと思ったし、そんなに入っていなさそうなので行けるかなと思ったが……残念。
「……」
でもまぁ、食べられないほどでもないし。
あの子は好きそうな味だから、昼休みにでもあげてみよう。
反応が悪かったら、家に置いておけば母が食べる。
「……」
口の中でそれを溶かしつつ、味わいつつ。
椅子から立ち上がり、廊下へと足を向ける。
んーなんというか、思ったよりオレンジの味が凄
「あ、――、」
「ん、」
教室の扉を抜け、廊下へ足を踏み出そうとした瞬間。
聞き慣れた、聞き馴染のある、安心感のある、声が聞こえた。
私を呼び捨てにするのは、ここでは1人しかいない。
「……どしたん」
口の中にあったチョコレートを一気に飲み込んでしまった。
まだ若干残っている感じがして少し気持ちが悪いが、話すには支障はない。
あの子の教室の方から来たらしく、これからお手洗いだろうか……と思ったが、手には筆箱を持っていた。
「えんぴつかしてー」
「忘れたんだw」
次は美術の授業らしい。
先日私が受けたデッサンの授業のためだろう。
えんぴつがないと話にならない。教師は貸してはくれないので。
「ちょいまち」
「ありがとー」
踵を返し、自分の机に戻る。
筆箱の中からキャップを付けたえんぴつを取り出し、ついでにチョコレートも持っていく。
鉛筆削り……は美術室にあるからいいか。
「ほい、ついでにお菓子もどーぞ」
「え、これ気になってたやつ~」
そうだと思って……なんてことは言わないが。
内心、ちょっと嬉しくなってしまうのは仕方ないと思う。
「どっかいくの」
「トイレ」
「じゃ、途中までいっしょ~」
「途中ってすぐそこでしょw」
あと2時間。
授業が終われば昼休みだ。
お題:チョコレート・オレンジ・えんぴつ




