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ティータイム・ストーリー(聖羅編)第1話:聖なるヴァルキリーと「推し事」

「皆様、このダージリンはいかが? 標高二千メートルの茶園で、霧の朝にだけ摘み取られた至高の一品ですわ。このノースゲート・タワーの最上階に流れる清らかな空気に、これほど相応しい香りはございませんわね」


 北条院聖羅は、金縁のティーカップを完璧な所作で掲げ、満足げに微笑んだ。

 地上二百メートル。六本木の喧騒を物理的に「見下ろす」このペントハウスは、北条院グループの権力の象徴であると同時に、彼女にとっての聖域でもあった。

 傍らには、パーティー『聖なるヴァルキリー』のメンバーであり、幼馴染でもある二人の令嬢が控えている。


「……聖羅様、紅茶が冷めますわよ」 冷静にそう告げたのは、サブリーダーの綾小路莉子だ。


 彼女は由緒正しい公家の血筋を感じさせる理知的な瞳で、手元のタブレットを覗き込んでいた。


「それに、あちらの『スカイクレスト』……一条様があの方(凪)へ与えられたマンションですが、やはりここから見ると、随分とお可愛らしいサイズですわね」


「ふふっ、莉子もそう思いますの? あのような低い場所では、空気が濁って紅茶の香りが分からなくなってしまいそうですわ。一条様も、あの方に随分と中途半端なものを譲られたものですわね」


 聖羅は優雅に笑いながら、自分のタブレット——特注のダイヤモンドが埋め込まれた端末を起動した。画面に映し出されているのは、現在ライブ配信中の『黒猫ちゃんねる』だ。


「はぁぁ……! 見てごらんなさい! 今日のイゾルデたん、その尻尾のしなり、シルクより美しいですわ! その耳がピクリと動くたびに、私の心臓は高鳴りを禁じ得ませんの! ほら、追い赤スパですわ!!」


 聖羅の指が、熟練のゲーマーのような速度で『百万円』のスパチャボタンを連打する。


「聖羅お姉様、またですの~?」 西園寺結衣が、天然な笑みを浮かべてマカロンを頬張った。


「でも結衣、画面の隅に映っているあの魔神様……背中がとても広くて、なんだか頼もしそうですわ。あの仮面の影から見える口元も、実はとってもお優しいのではなくて?」


「結衣! 何を見ておりますの!」聖羅がカップをソーサーに叩きつけるように置いた。


「あの男は、私の女神の影に寄生する、動く壁紙! いえ、女神の神々しさを引き立てるためだけの、無価値なモザイクに過ぎませんわ! 価値があるのは女神の『にゃーん』という鳴き声だけ! あの男は万死に値しますわ、今すぐ画面の端へ土下座してフレームアウトなさい!!」


「……ですが聖羅様」莉子がタブレットの数値を分析しながら、淡々と付け加える。


「この『モザイク』とおっしゃる方、先ほどから一歩も動かずに、敵の攻撃をすべて紙一重で回避しておりますわ。この精密な重心移動……私、これほどの技量を持つ人間を他に知りませんわよ」


「莉子まで何を! それは単に、あの男が臆病なだけですわ! 女神の影に隠れてコソコソと……ああっ、もどかしいですわ! 百万円投げるから、イゾルデたんをもっとアップにするのですわ!!」


 聖羅の叫びが、最高級のクリスタルシャンデリアを微かに震わせた。


★ここまで読んでいただき、ありがとうございます。★

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